【読み始める前に】
かゆみは、皮膚で感じる不快な感覚の一つであり、その部分を掻いたりこすったりしたくなる欲求を伴うものをいいます。
医学的には「掻痒感(そうようかん)」という言葉が使われます。
みなさんは、どのような時にかゆみを感じるでしょうか。
虫に刺された時や皮膚トラブル、アレルギー反応、病気によるものなど、かゆみを起こすきっかけはたくさんあります。
また、手で掻いてすぐにおさまるかゆみもあれば、長期間の治療が必要な難治性のかゆみもあり、その程度もさまざまです。
かゆみの正体は一体何なのか、そしてかゆみを感じたときにどう対処すればよいのかについてこれから学んでいきましょう。
もくじ
かゆみを起こすメカニズム
かゆみは、全身の皮膚に張り巡らされている知覚神経が何らかの原因によって刺激された時、それがかゆみとして脳に伝わることで起こります。
かゆみを起こす刺激となるものは、物理的な刺激、化学的な刺激、心理的な刺激などがありますが、そのメカニズムについてはさまざまな研究が進められている段階です。

かゆみの原因
かゆみを引き起こす原因となるものには次のようなものがあります。
①皮膚トラブルによるかゆみ(末梢性のかゆみ)
皮膚に直接刺激が与えられることで、その反応としてかゆみが発生します。
皮膚の乾燥(ドライスキン)、湿潤によるふやけ、皮膚疾患などによって皮膚のバリア機能が低下することにより外からの刺激に弱くなります。
代表的なものにアレルギーや虫刺され、接触性皮膚炎(かぶれ)などがあります。

かゆみを起こす物質として有名なものにヒスタミンがあります。
アレルギーや虫刺され、寒冷、ストレスなどからの刺激を受けると、皮膚にある細胞からヒスタミンという物質が飛び出して知覚神経を刺激し、脳にかゆみの信号が伝わります。
このように、ヒスタミンが関連したかゆみは私たちが日常的に感じることが多いかゆみであり、それに対する効果が期待できる一般的なかゆみ止めである「抗ヒスタミン薬」が多く市販されています。
また、ヒスタミン食中毒といって、ヒスタミンが蓄積した魚介類(長時間常温で放置されたマグロやサバなど)を食べることによってアレルギーに似た全身症状を起こすこともあります。
②内臓疾患によるかゆみ(中枢性のかゆみ)
慢性肝疾患や腎疾患などの内臓疾患により中枢性のかゆみを感じやすくなります。
このかゆみには、皮膚の中から強いかゆみが出てくるような感覚や、四肢や胴体にかゆみが出やすい、外用薬が効きにくいといった特徴もあります。
中枢性のかゆみは、内臓疾患によって増えた血中の成分により、脳にあるかゆみを感知する部分が直接刺激されて起こるかゆみです。
脳内麻薬であるオピオイドのうち、かゆみを誘発する「β-エンドルフィン」という成分とかゆみを抑制する「ダイノルフィン」という成分のバランスが崩れ、「β-エンドルフィン」のほうが強くなることによってかゆみが誘発されます。

③アトピー性皮膚炎
もともとの体質により皮膚のバリア機能が弱いため、外からの刺激を受けやすく、皮膚の乾燥や炎症、強いかゆみを繰り返すアレルギー性の慢性疾患です。
末梢性のかゆみに似ていますが、抗ヒスタミン薬の効き目がないことも多く、原因やメカニズムについてはまだ解明されていないことが多くあります。
日々のスキンケアとかゆみの原因となるものの除去、医師の指示のもと治療を続けながら症状をコントロールしていくことが基本となります。
④心理的なかゆみ
皮膚への刺激やアレルギーなどといったかゆみの直接的な原因がなくても、かゆみを想像しただけで本当にかゆみを感じ、ますますかゆみが強くなることがあります。
また、精神的な疾患で「皮膚に虫が這っている」「体の中に虫が住み着いている」などの妄想によりかゆみを起こすこともあります。
かゆみの悪循環と対処法
かゆみを感じたとき、私たちは「掻く」という行動をとります。
かゆみのある部分を掻くことでかゆみを瞬間的に紛らわせることができますし、反対に掻くことを我慢することのほうがつらいことだったりもします。
しかし、かゆみというものは非常に厄介なのものです。
少し掻いただけで治まる程度の軽いかゆみであれば問題ないのですが、強いかゆみの場合は「掻く」という行為がさらにかゆみを増強させてしまうことにもつながります。
掻くことによって、その部分の皮膚が損傷してしまうと、皮膚の正常なバリア機能が損なわれて刺激を受けやすくなり、さらにかゆみを引き起こしやすくなるという悪循環に陥ってしまうのです。
また、バリア機能が低下した皮膚は、菌やウイルスに感染しやすくなったり、炎症を起こしたり、傷が治りにくくなったりもします。
ですので、かゆみを感じても皮膚を傷つけないようにすることが重要なのです。

もし、どうしても掻きたくてたまらなくなった時は、その皮膚に傷や炎症がなければ、パチパチと叩いたり、少しつねってみたりして、皮膚を傷つけない程度の弱い刺激を与えてみる方法もあります。
ただし、叩きすぎるとその部分の神経が過敏になったり血流が増えたりしてさらにかゆみを誘発することもありますので、あまりおすすめはできません。
かゆみの悪循環を断ち切ってかゆみをコントロールしていくために、次のような方法があります。
冷やす
かゆみのある部分を温めるとかゆみが増すことが多いですが、反対に冷やすことでかゆみを鎮める効果が期待できます。
しかし、急激に冷やしすぎると苦痛に感じたり、体温が下がったり、冷えた皮膚が温まる時にかゆみがぶり返したりすることもあります。
冷やす時は様子を見ながら、気持ちいいと感じる程度にしておきましょう。
皮膚を清潔に保つ
皮膚に付着したさまざまな成分(汗、皮脂汚れ、化学成分、アレルギー源など)が刺激になり、かぶれやかゆみを誘発することがあります。
熱いお湯や強い石鹸でゴシゴシ洗いすぎると、皮膚のうるおいを守る膜まで取り除いてしまい、かゆみの原因となります。
弱酸性の石鹸をよく泡立てて、ぬるま湯で優しく洗い、石鹸成分が残らないように十分洗い流しましょう。
そのあとは清潔なタオルでおさえるように水分を拭き取ります。

保湿する
皮膚が乾燥すると、正常なバリア機能が損なわれてしまいます。
乾燥してから対処するのではなく乾燥を予防することが大切です。
皮膚をきれいに洗った後は、保湿剤などで皮膚を保護しましょう。
皮膚が汗や皮脂などの汚れで湿潤している場合、確かに水分は付着しているのですが、かゆみ対策のための保湿とは少し意味合いが違ってきます。
皮膚は「ベタベタ」「びしゃびしゃ」ではなく「しっとり」が理想です。
皮膚に刺激を与える成分はきれいに洗い流し、保湿剤を塗るなどして皮膚を保護しましょう。
掻き傷を防止する
かゆみがあると、寝ている間などに無意識のうちにひどく掻きむしってしまうことがよくあります。
掻いてしまったときの皮膚へのダメージを最小限にするために、爪を短く切っておく、爪にやすりをかけてなめらかにしておく、手袋やミトンをつけるなどの方法もあります。
かゆみ止め薬
かゆみの原因により、かゆみ止め薬が有効な場合があります。
かゆみを誘発する物質であるヒスタミンの働きを抑える「抗ヒスタミン薬」、炎症を抑える「ステロイド薬」などが代表的です。
間違った使い方をすると症状が悪化したり副作用が出やすくなったりする場合がありますので、医師や薬剤師の指示通りの使い方をしましょう。
おわりに
かゆみそのものは直接命にかかわるような重大な症状とは言えませんが、身体的な不快感だけでなく心理的にもイライラしたりストレスの原因になるなど、私たちの日常生活や人間関係にまで悪影響を与えることもある非常につらい症状です。
また、長引くかゆみは、睡眠不足や食欲低下など健康への影響も大きくなります。
かゆみそのものへの対処と同時に、原因の追究とそれに応じた適切な対処を行い、つらいかゆみが少しでも軽減することを願っています。
最後までお読みくださりありがとうございました。