秋から冬になると肌が乾燥して体のあちこちがかゆくなったり、湿疹が出たりした経験はありませんか?
また、季節に関係なくニキビや吹き出物で悩んでいる人や、もともと肌が弱くちょっとしたことですぐに肌トラブルを起こしてしまうといった人もいるのではないでしょうか。
肌荒れはなかなか治りにくく、ひどくなるとかゆみや湿疹などのつらい症状を伴うこともあります。
さらには、症状が気になって集中力が低下したりよく眠れなくなるなど、日常生活に支障をきたす原因にもなります。
顔や腕など目立つ部分に肌荒れが起こると人目が気になってしまうこともありますよね。
これらのように、肌荒れは年代や性別問わず多くの人にとって悩みのタネともなっています。
しかし、肌荒れの中には、予防したり症状を抑えることが可能なケースも多くあります。
皮膚のしくみや肌荒れが起きるメカニズムを知ることで、肌荒れを解決するためのヒントが見つかるといいですね。
もくじ
皮膚の働きとしくみ
皮膚は体の表面を覆っているものですが、一枚の膜が薄く張っているわけではなく、実は何重もの層になっているのです。
皮膚の断面を見てみると、一番外側が「表皮(ひょうひ)」、その下に「真皮(しんぴ)」、「皮下組織」=脂肪があります。
この一番外側にある表皮は、肌荒れと密接に関係している部分なのです。
表皮は、さらに「角質層」「顆粒層」「有棘層」「基底層」と4つの層に分かれており、この一番外側にある角質層が、皮膚を正常に守るための重要な役割(バリア機能)を担っています。

角質層はラップ1枚ほどの薄さしかありませんが、拡大してみると無数の角質細胞がきれいに並んでいることがわかります。
その角質細胞の一つ一つには「天然保湿因子(NMF)」というアミノ酸の成分が含まれ、角質細胞内に水分を蓄えています。
さらに、角質細胞同士のすき間を埋めるように「角質細胞間脂質(セラミド)」が満たされています。
これらのことから、角質層はカサカサしたものではなく、水分を含んだ弾力性のある層であることがわかります。
そして、このみずみずしい表皮をカバーするように覆っている成分が、毛穴の奥から分泌される皮脂と呼ばれるものです。
皮脂と聞くと何だか悪いもののようなイメージもありますが、角質層に含まれている水分が簡単に蒸発してしまわないようにカバーしてくれるとても重要な役割を担っているわけなのです。
ターンオーバー
皮膚のターンオーバーという言葉を聞いたことがあるかも知れませんが、これは皮膚の細胞の生まれ変わりを表しています。
このターンオーバーに関わっているのが、「表皮」の部分です。
表皮の4層のうち一番内側にある「基底層」では、絶えず新しい皮膚の細胞(表皮角化細胞=ケラチノサイト)が生み出されています。
そして、この細胞は何日もかけて少しずつ成熟し、そして外側に向かって押し上げられて「有棘層」「顆粒層」へと変化していきます。
その後に一番表面の「角質層」として皮膚のバリアとして働き、最終的には自然にはがれ落ちて役目を終えることになります。
この一連の流れをターンオーバーといい、1周期におおよそ1~2ヶ月かかります。
ターンオーバーは新陳代謝が活発な赤ちゃんや子どもほどサイクルが早く、年齢とともに遅くなっていきます。
年々、傷や荒れの治りが遅くなったり、肌がごわつくなどの症状を感じやすくなるのはそのためです。
ターンオーバーが遅くなると、肌のバリア機能を十分に果たせる角質細胞が成熟するまでに時間がかかるようになります。
また、役割を終えた古い角質がなかなかはがれ落ちず、皮膚の生まれ変わりを妨げたりもします。
お肌の若々しさを保つためにターンオーバーを早めようと、ピーリングを頻繁に行ったりしても、なぜか肌がきれいにならないと感じたことはありませんか?
新陳代謝が遅くなると、古い角質がうまくはがれずに肌がごわついたようになることがありますので、ピーリングによって古い角質を取り除くことはある程度理にかなった行為です。
しかし、あまりに短期間に何度も繰り返しすぎると、かえって正常なターンオーバーを妨げる結果になってしまいます。
ピーリングによって新しい角質層をはがし取ってしまうことで、まだ十分に成熟しきっていない未熟な細胞の層が表面に出てきてしまいます。
その結果、角質層で十分な水分を溜め込むことができず、正常なバリア機能を果たせないという困ったことが起こってしまうのです。
皮脂の分泌
皮脂は、表皮のもう一段下の「真皮」にある皮脂腺から分泌されます。
分泌された皮脂は、毛穴を通って外に排出された後、皮膚の表面を覆います。
こうすることで、皮膚の潤いを保ったりデリケートな角質層が壊れないように刺激から守ってくれるのです。
また、毛穴の中にはアクネ菌という菌が住んでいて、病原菌から皮膚を守る役割をしています。

肌荒れのメカニズム
肌荒れとは、皮膚の正常な構造が壊れてしまい正常な役割を果たせなくなった状態をいいます。
肌荒れの原因には、乾燥、ニキビ、ターンオーバー(皮膚の生まれ変わりサイクル)の乱れ、刺激、アレルギー、紫外線などがあります。
乾燥による肌荒れ
冬になると皮膚がカサカサしたりかゆみが出たりする主な原因は、乾燥です。
冬の季節は空気が乾燥しているうえに、暖房器具を使うことでさらに空気が乾燥し、皮膚の角質層に含まれる水分が蒸発しやすくなります。
皮膚が乾燥すると、角質細胞の並びが乱れ、皮膚の水分を保持するための角質細胞間脂質や天然保湿因子(NMF)が減り、正常な肌のバリア機能が果たせなくなります。
乾燥した皮膚は「ドライスキン」とも呼ばれ、外からの刺激に弱くなり、かゆみや湿疹が出やすくなります。

かゆみについてはかゆみとその対処法のページでも詳しく説明していますので、ぜひお読みください。
かゆみが出ると無意識のうちに掻いてしまい、掻くことで皮膚のバリアが壊れ、さらに肌荒れを起こしやすくなるという悪循環を招いてしまうのです。
皮膚の機能が未熟な子どもや、水分を蓄えておく力が低下している高齢者は特に皮膚が乾燥しやすいという特徴があります。
汗腺や皮脂腺の少ない腕、脚、わき腹、腰などが特に乾燥しやすく、粉をふいたように白くなったり、うろこのように皮膚が浮いてはがれたりもします。
皮膚の水分や脂分が奪われ、かさかさ肌になり、さらに炎症を起こしやすくかゆみが起こるという悪循環に陥る前に、予防的に保湿剤で保湿することが大切です。
部屋が乾燥している場合は加湿器などで湿度を保っておくと、皮膚からの水分の蒸発をある程度予防することもできます。
また、熱いお風呂や長湯は避け、適度な温度のお湯でよく泡立てた石鹸で優しく洗い、押さえるように水分を拭き取るようにしたり、こまめに保湿をするなどの工夫が必要です。
水仕事によって起こる、手湿疹(別名 主婦湿疹)というものもあります。
日常的に水仕事を繰り返す職業や主婦などに多く、手荒れ、湿疹、ひびわれ、あかぎれ、水疱などが起こります。
軽いうちはハンドクリームで改善することもありますが、どんどんひどくなるケースもありますので早めに皮膚科を受診しましょう。
熱いお湯や刺激の強い洗剤は手荒れの原因になります。
水仕事の時はゴム手袋をつける、またゴム手袋が刺激になる場合は中に綿の手袋をつけるなどの対策がおすすめです。
ニキビ(尋常性痤瘡)
思春期のニキビや女性に多い吹き出物がこのタイプです。
医学的には尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)ともいいます。
毛穴の出口が古い角質によって詰まったり皮脂が過剰に分泌されたりすると、本来なら毛穴からスムーズに外に出ていくはずの皮脂が、毛穴のなかに溜まったままになってしまいます。
そうすると、毛穴の中に住んでいるアクネ菌が皮脂をエサにして増殖し、炎症を起こしたりします。
皮脂が過剰に分泌される原因には、男性ホルモンや黄体ホルモンの作用が大きく関わっています。
男性ホルモンは、男性だけでなく女性の体内でも分泌されています。男性ホルモンが多く分泌されやすい思春期にはニキビができやすくなります。
また女性は排卵期~月経にかけて黄体ホルモンの分泌が増加します。黄体ホルモンは皮脂の分泌を増やす作用がありますので、月経前に吹き出物ができやすくなります。
ニキビを予防し改善するためには、正しいスキンケアが必要です。
清潔な手で、洗顔せっけんをしっかり泡立て、ゴシゴシこすらずに泡で優しく洗います。
ぬるま湯ですすぎ残しのないようしっかり洗い流しましょう。
その後は、清潔なタオルで押さえるように水分を吸わせます。
化粧水などで保湿したり、紫外線の刺激を防ぐために日焼け止めを塗ります。
化粧はなるべくしないか、油性のものは避け、毛穴を詰まらせにくいものを選びます。
皮脂を取ろうと、熱いお湯や洗浄力の強い洗浄料を使ったり、ゴシゴシこするのは逆効果です。
とはいっても、正しいスキンケアだけでは改善しきれないケースも多々あります。
そのような場合は皮膚科で相談しましょう。
脂っこいものやチョコレートを食べるとニキビができやすいと言われることもありますが、特定の食品がニキビの発生に関係しているという根拠はありません。
栄養バランスの取れた規則正しい食生活を心がけましょう。
ターンオーバーの乱れ
ターンオーバーのサイクルを乱す原因には、外からの刺激と、体の中からのものがあります。
乾燥や紫外線は直接肌にダメージを与え、正常なターンオーバーを妨げてしまいます。
こまめに保湿を行うことと、紫外線を浴びる時には日焼け止めを塗るなど、肌を保護することが大切です。
また、不健康な生活習慣もターンオーバーのサイクルを乱す原因になります。
規則正しい生活、栄養バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスをためないなど健康的な生活が基本になります。

保湿剤の選び方
保湿剤にはいろいろなタイプがあり、乾燥の程度、肌の状態、部位、使用感の好みなどによって使い分けることができます。
主な成分
白色(はくしょく)ワセリン
油分の多い半固形状のワックスのような性状で、熱で柔らかくなるという性質があります。
白色ワセリンそのものに保湿効果はありませんが、皮膚に薄くのばすことで皮脂膜を補強し水分の蒸発を防ぐことができます。
白色ワセリンは石油から精製されたものですが、純度が高く肌に優しいという特徴があります。
さらに高純度であるプロペト、サンホワイトという製剤もあります。
尿素
角質層にある天然保湿因子(NMF)と水分の結合を促し、角質層の水分を保持して柔らかくする働きがあります。
やや刺激が強いため顔には不向きです。ひじ、ひざ、かかとなどの比較的皮膚が厚い部分の保湿に適しています。
ヘパリン類似物質
皮膚の角質層の水分を保持するとともに、皮膚の血行を促進して新陳代謝を助けたり炎症を抑える働きがあります。
以前は医師の処方箋が必要でしたが、現在はドラッグストアなどでヘパリン類似物質入りのクリームやローションが手に入ります。
保湿だけでなく、美容やアンチエイジングの効果も注目されています。
セラミド
セラミドはもともとは角質層に多く含まれている成分で、水分の蒸発を防ぎ皮膚のバリア機能を高める働きがありますが、加齢、乾燥、紫外線などにより減少していきます。
セラミド入りのクリームを塗ることで保湿効果が期待できます。
主な性状
ローション
液状でサラっとした軽い使用感です。
軽い乾燥に適しており、広い範囲にサッと塗ることができます。
効果の持続時間が短いため、こまめに塗ったり油分の多いタイプと組み合わせると効果的です。
乳液
ローションに比べてややとろみがある液体です。
水分が多めですが油分も少し含まれているので、皮膚の潤いを与えると同時に油分で表面をカバーできます。
持続時間はそれほど長くないため、乾燥が強い場合にはこまめな塗りなおしが必要です。
クリーム
水分はやや少なくその分油分が多めです。
ローションや乳液に比べて伸びにくいので、手のひら全体で広げるようにまんべんなく塗るコツが必要です。
持続時間は少し長くなります。
軟膏・オイル
皮膚表面を油脂の膜で覆うことで、水分蒸発を防ぎます。油分が多いため、ベタベタした使用感があります。
水分の多い保湿剤を塗った後やお風呂上りなどに塗ると、皮膚が含んでいる水分を閉じ込める効果が期待できます。
なお、お風呂上りには水分が蒸発するスピードが速いので、5~10分以内に塗るのがよいとされています。
感染予防と肌荒れ
世間では感染予防に対する意識が高まっており、常時マスクを着用していたり頻繁に手洗いやアルコールの手指消毒をしたりと、感染予防行動がずいぶん定着しています。
しかしその裏側で、これらの感染対策行動によって肌荒れや手荒れに悩まされる人も増えています。
感染防止のために推奨されているサージカルマスクは、あくまで病原体の拡散や吸い込みを防ぐ目的で作られているものですので、肌に優しい素材であるとは言えません。
不織布が長時間肌に触れていたり、摩擦が起きたりすることで皮膚にダメージを受けてしまいます。
そのような持続する刺激に耐えられるような健康な肌に整えておくという意味でも、顔用の保湿剤をこまめに塗ったり、洗顔後のお手入れを念入りにするなどの工夫が必要ですね。
また、手洗いやアルコールの手指消毒も同じです。
石鹸やアルコールには、皮脂を取り除く作用があります。
皮脂は皮膚の表面を覆って乾燥や刺激から守ってくれる役割がありますが、その皮脂が取り除かれることで、バリア機能が弱った状態になります。
通常は、一時的に皮脂が取り除かれても時間がたてば自然にまた皮脂が分泌されて皮膚を覆ってくれるのですが、手洗いや消毒の回数が増えることで、皮脂の分泌が追い付かず、さらに乾燥がひどくなってしまいます。
せっかく手洗いや消毒で手を清潔にしていても、肌のバリア機能が低下していると感染しやすい状況を招いてしまい、逆効果です。
アルコールや手洗いの後は、ハンドクリームで保湿しましょう。

おわりに
肌荒れは、一度荒れ始めるとなかなか治りにくく悪循環に陥ってしまうこともありますので、症状が軽いうちに早めに対処したり、肌荒れが起こる前に対策をとることが必要です。
そのために、まずは皮膚の働きを正常に保ち、日頃から肌のバリア機能を高めておくことがカギとなります。
皮膚の生まれ変わりには数週間から数ヶ月という時間がかかるため、すぐには効果が出ないことがありますが、ケアを習慣化することできっと効果を実感できるようになると思います。
最後までお読みくださりありがとうございました。