睡眠は、人間だけでなくあらゆる生き物に備わる機能です。
眠ることで体や脳を休ませ、消費したエネルギーを補充し疲労を回復することで、健康や生命を維持しています。
厳しい環境で生きる野生の動物たちも命がけで眠るくらい、睡眠は生きるために必要不可欠なことなのです。
私たち人間も、夜中ぐっすり眠り朝の目覚めがよい時は、心身ともにフル充電できたような爽快感が得られ、その日一日は活力的に過ごすことができますね。
しかし、よく眠れないまま朝が来てしまった時は、前日の疲れを引きずりパワー不足のまま一日がスタートします。
そして、十分な睡眠が取れない状態が何日も続くと、心身に受けるダメージがますます大きくなっていきます。
このように不眠は軽視できない症状であり非常につらいものでもありますが、実際には5人に1人が眠りについての悩みを抱えているとも言われています。

もくじ
睡眠とは
睡眠については今もさまざまな研究がすすめられていますが、まだ解明されていないことも多くあります。
睡眠は、脳の大脳皮質という部分(感覚、体を動かす、書く、話す、記憶する、考える)の活動が低下した状態です。
眠っている間は意識がない状態とよく似ていますが、昏睡や麻酔にかかっている状態とは違い、ある程度の刺激を受けるとすぐに目覚めることができるという特徴があります。
睡眠のメカニズム
人間は昼行性の動物であり朝起きて夜寝るというリズムが備わっていますが、このリズムを保つためには脳が「朝」「夜」を正しく認識することが必要です。
睡眠は、次の2つのメカニズムのバランスによって起こると考えられています。
睡眠物質
朝起きたとき、体には睡眠物質は蓄積されていない状態ですが、日中の活動が増えたり、起きている時間が長くなるにつれて睡眠物質が少しずつ溜まっていき、脳の視床下部が刺激されることで眠気を感じます。
そして十分な睡眠を取ることで睡眠物質は代謝されてなくなり、覚醒中枢が働いて目が覚めるのです。
睡眠物質の蓄積は、朝起きてからの時間や日中の活動量に左右されます。
前日によく眠れなかった日や朝早起きした日、いつもより疲れた日に早く眠くなるのは疲労物質が関係しています。
体内時計
地球の1日は24時間ですが、人の体内時計はそれよりも少し長い約25時間ほどに設定されていると考えられています。
この体内時計によって調整されている1日のリズムを、概日(がいじつ)リズム(サーカディアンリズム)と言います。
毎朝同じような時間に目が覚めて夜同じような時間に眠くなるのは、体内時計によって概日リズムが刻まれているためです。
しかし約25時間で動いている体内時計をそのままにしておくと、日がたつにつれて外界の24時間からどんどんズレていってしまいますよね。
そうならないように、一日の中で時間のズレを修正して24時間に合わせているのです。
まずは、朝起きた時に日光を浴びることで、体内時計がリセットされいったんゼロに戻ることができます。
それだけでなく、一日の活動(食事を摂る、学校や仕事に行く、習慣的な行動など)によっても体内時計を調整しています。
そして、この体内時計が働くことで、夜になると眠気を感じるのです。

睡眠を助ける体の働き
脳や身体がフル稼働モードになっている日中は心身の活動によって体温が上がりますが、夜は休止モードに移行するにつれて体温も下がっていきます。
脳や体がクールダウンし、消費エネルギーも抑えられた状態は、効率よく体力を回復させるためには都合がよいのです。
夜、眠る頃になると、体は自らの体温を下げようと働きます。
体の内部にこもっている熱を外に逃がすために、手足の血管を広げて皮膚の表面から熱を放散させます。
赤ちゃんが眠る前に手足がホカホカ温かくなるのは、こういった機能が働いているためなのです。
また、体温を下げようとする働きを助けることによって、スムーズに眠りに入ることができます。
眠る数時間ほど前に軽い運動をしたり、ぬるめのお風呂にゆっくり入るなどして体を温めると、その後体温が元に戻る落差によって眠りにつきやすくなります。
しかし、眠る前に激しい運動をしたり熱いお風呂に入ることは体の内部の熱を上げてしまうことになり逆効果です。
また、手足が冷えていると血管が広がらなかったり、反対に熱帯夜などで外気温が高く蒸し暑い環境では、熱の放散が妨げられて体温が下がらず、眠りにつきにくくなります。

睡眠とホルモン
睡眠には、さまざまなホルモンが深く関わっています。
セロトニン
脳内の神経伝達物質の一つで、精神を安定させてストレスに対抗する働きがあります。
日中に日光を浴びることで多く作られ、眠りに関係の深いホルモン「メラトニン」の材料となります。
朝は日光を浴びたほうが良いとされる理由の一つに、このセロトニンの分泌を促すという目的があります。
うつ病などでこのセロトニンの量が減少している場合は、作られるメラトニンの量も減少し睡眠障害が起こります。
メラトニン
催眠作用のあるホルモンで、また概日リズムを調整する働きもあります。
朝起きて日光を浴びると分泌は一旦減少しますが、14~16時間ほどたった夜に再び分泌され、そうすると催眠作用によって眠気がおこります。
メラトニンの分泌量は年齢とともに減少し、睡眠の状況も変化していきます。
高齢になると朝起きる時間や夜寝る時間が早まったり、眠りが浅く夜中に何度も目が覚めたりするのは、メラトニンの分泌量が減ることで眠りの質が低下し、体内時計も整いづらくなるためだと言われています。
成長ホルモン
睡眠中、一番初めに深い眠りについたタイミングで分泌されるホルモンです。
名前の通り、子どもの成長には欠かせないホルモンですが、大人にとっても重要な役割を担っています。
壊れた細胞を修復したり細胞の生まれ変わり(新陳代謝)を助けたりするなど、疲労回復に大きく関わっています。
寝不足だった日に肌の調子が悪いのは、成長ホルモンの働きが不十分だったことが考えられます。
副腎皮質ホルモン(コルチゾール)
メラトニンが分泌されて5~6時間ほどたった頃に急激に分泌され始める、心身の活動を促すホルモンです。
眠っていた体の機能を目覚めさせ、ウォーミングアップする役割を担っています。
睡眠障害(不眠症)とは
眠ろうとしてもなかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚めてしまう、などといったことは、多くの人が経験したことがあるのではないかと思います。
しかし、このように眠れない日が何日も続き、日中にも眠気があったり、体がだるい、意欲や集中力が低下する、食欲不振などの症状が出る、日中の活動に支障をきたす、といった状態が1ヶ月以上続く場合、不眠症と診断されます。
また「不眠」とは、睡眠のための時間が十分に取れない「睡眠不足」と違って、睡眠のための時間は確保できているのにも関わらず、思うように眠れない、眠った感じがしないという状態をさします。
不眠のタイプ
「不眠」にはいくつかのタイプがあり、次のように分類されます。
入眠障害
夜眠ろうとしてもなかなか寝付けない
寝付くまでに1~2時間以上かかる
熟眠障害、浅眠
夢を見ることが多い
眠りが浅い
ぐっすり眠れない
中途覚醒
夜中に何度か目が覚め、そのあとしばらく眠れない
早朝覚醒
朝早すぎる時間に目が覚めてしまい、起きる予定の時間まで眠れない
不眠の原因
不眠の原因となりうるものは非常に多くあります。
環境
騒音、気温、湿度、光、姿勢や体勢、寝具が合わない、慣れない環境など
身体の症状
痛み、かゆみ、発熱、せき、鼻づまり、呼吸困難、吐き気、嘔吐、下痢、頻尿などの苦痛症状、のどの渇き、空腹、満腹など
心の状態
精神的ストレス、気がかり、イライラ、興奮、怒り、悲しみ、不安、あせり、恐怖、緊張、抑うつ状態
神経症、双極性障害、統合失調症、不眠恐怖症などの疾患
加齢によるもの
寝付きが悪い、眠りが浅い、夜中に何度もトイレに起きる、早くに目が覚める
その他
睡眠時無呼吸症候群
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
原因がはっきりしないもの

睡眠障害(不眠)が及ぼす影響
不眠状態が何日も続くと、心身にさまざまな不調が現れるようになります。
疲れやすい、集中できない、イライラ、日中に眠気を感じる、意欲がわかない、気分が沈みがちになる、頭痛、頭重感、めまい、食欲低下
仕事の能率が低下、対人関係の悪化 など
そして、不眠が続くことでうつ病を発症する可能性があり、その結果さらに不眠が深刻化するという悪循環に陥ることがあります。
また、不眠は糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病と関係があることがわかっています。
そしてこの生活習慣病は、動脈硬化から心臓や脳血管障害につながる危険性もあります。
これらのように不眠状態が長く続くことによって、日中の活動やに支障をきたすばかりでなく、将来的に重大な疾患につながる可能性もありますので、早めの対処が望まれます。
不眠の対処法
不眠の原因がはっきりしていれば、その原因を取り除くことで解決できることがほとんどです。
また、次のように生活習慣を少し変えてみることで改善できる場合もありますので、まだ試したことがないものがあれば、ぜひ一度試してみてください。
体内時計を整える
毎日同じ時間に寝起きするようにする
朝起きたら日光を浴びる
メリハリのある規則正しい生活をする
日中は頭や体を使った活動をする
午後に軽く汗ばむ程度の有酸素運動をする
昼寝をする
日中眠くなったら30分以内の昼寝をする
午後3時以降はできるだけ昼寝をしない
眠る前にリラックスする
ぬるめのお風呂にゆっくり入る
軽いストレッチや全身を脱力させる
リラックスできるゆったりした音楽を聴く
寝床の環境を整える
暗く静かな場所で心身ともにゆったり休む
温度や湿度の調整をする
眠る前のアルコールは控えめに
確かに寝つきはよくなりますが、中途覚醒や早朝覚醒しやくすなるなど、睡眠の質は低下してしまいます。
眠ることにこだわらない
夜中眠れない時は、思い切って布団から出る
これらのことを数週間ほど続けているうちに改善することもありますが、改善がみられない場合や日常生活への支障が大きい場合は専門医への相談をおすすめします。
おわりに
睡眠は健康を維持する上で必要不可欠とされていますが、自分の意志でコントロールできるものではなく、また、さまざまな要因に影響されやすいデリケートなものでもあります。
さらには睡眠の悩み自体が不眠を悪化させてしまうといった悪循環に陥ることも多々あります。
不眠の原因になっていることを解消すること、睡眠習慣を改善すること、そして必要に応じ専門医に相談すること…これらの行動が、皆さんの今後の快眠につながることを願っています。
最後までお読みくださりありがとうございました。