【読み始める前に】
普段、私たちは毎日欠かすことなく、日に何回も排尿をしています。
これは生まれてから、もっと厳密にいえばお母さんのお腹にいる時から、日々繰り返されている生理現象です。
このように日々当たり前のように何度も繰り返されている排尿ですが、体にとっては非常に重要な役割を担っており、不具合が起こると全身に大きな影響を与えることにつながってしまいます。
恥ずかしいもの、汚いものと認識されてしまうことの多い「尿」ですが、私たちの健康のためにはなくてはならない重要な存在なのです。

もくじ
尿が作られるしくみ
水分をたくさん飲むとそのぶん尿がたくさん出るようになることは、皆さんも日頃からよく経験しているのではないかと思います。
しかし、飲んだ水分がそのまますぐに尿として出るわけではありません。
真っ白な牛乳を飲んでも、緑色のメロンソーダを飲んでも、尿の色が白や緑になることはなく、いつもだいたい同じような尿になりますよね。
口から飲む水分が尿の材料になるということには変わりないのですが、飲んだ水分から尿が作られるまでには、意外と複雑な過程を経ているのです。
下の図は、飲んだ水分が尿に変わるまでにどのような経過をたどるのかを簡単に表したものです。

飲み物が口から入ると、水分は食べ物と同じように、食道や胃、十二指腸を通過します。
① 小腸にたどり着きます。
小腸は、口から入ってきた栄養や水分を体に取り込む役割を担っており、水分のほとんどがこの小腸から吸収されます。
② 小腸から吸収された水分は、ここでまず血管の中に取り込まれます。
③ 血管の中で血液に変わった水分は全身のすみずみまで巡り、そして体のあちこちで作り出された老廃物を回収しながら血管の中を流れます。
④ そして「腎臓(じんぞう)」に流れ込みます。
⑤ 腎臓に流れ込んだ血液は、まずは「糸球体(しきゅうたい)」という大きなザルでろ過して原尿とよばれる尿のもとになるものを作ります。
しかしこの原尿には、大量の水分と、糸球体のザルの目を通り抜けられるサイズの体に必要な成分も含まれています。
一日に作られる原尿の量は、150~180リットルにも及ぶといわれています。
一般的なドラム缶や家庭の浴槽が200リットルと考えると、その量に驚きますね。
この量が尿として排出されてしまうととんでもないことになりますので、ちゃんとこの後すぐに「再吸収」という過程が待っています。
⑥ 原尿の水分の99%、そしてザルの目を通り抜けてしまった体に必要な成分は、原尿が「尿細管」という部分を通過するときに再吸収されて血管の中に戻されていきます。
⑦ ここで再吸収されなかった「本当に不要なもの」が、尿として膀胱に送られるわけなのです。
正常な排尿とは
さて、このような過程を経て作られた尿ですが、健康な時には体重1㎏あたり1時間に1mlの尿が作られるといわれ、トータルすると一日に1~2リットルほどの量にもなります。
腎臓は、水分の摂取量や汗の量など体に出入りする水分の量に応じて、作る尿の量を調節しながら全身の水分のバランスを保っているのです。
膀胱の容量は、最大で1000mlもの量を溜められますが、それほどの量を溜めようと思うとかなりの苦痛を伴い、相当の我慢を強いられます。
膀胱の中に尿が溜まってくると、通常は尿意を感じ始めるのが約100~150ml、そろそろトイレに行きたいと感じるのが約200ml、そして我慢の限界が約400mlですので、一回の排尿量は200~300ml前後ということになります。
また、一日あたりの排尿の回数は、平均して4~6回という人が多いようです。
尿量の減少(乏尿)とその原因
健康な成人の腎臓では一日あたり1000~2000mlほどの尿が作られ、体内の老廃物とともに体外に排出されますが、体の老廃物を排出するには最低でも一日あたり400~500mlの尿が必要とされています。
尿量が著しく減少して400ml以下になった場合を「乏尿(ぼうにょう)」といい、本来、尿とともに体内から排泄されるべき老廃物が、十分に排泄されず体の中に蓄積されるようになります。
十分な量の尿が作られない乏尿となる原因は、次の3つに分けられます。
腎前性(腎臓までのルートに異常があるもの)
体内の水分が不足したり、心不全などで全身の血流が悪くなることで、腎臓にも十分な量の血液が送られなくなるために作られる尿の量が少なくなるものです。
この場合は腎臓そのものは正常で老廃物を排出する機能も正常ですので、尿の色が濃くなります。
原因が解消されて尿を作るために必要な腎臓への血流が十分保たれるようになれば、元のように尿が作られるようになります。
水分の摂取量が少ない、大量に発汗した、下痢や嘔吐、脱水症、大量出血、ショック状態など
腎性(腎臓そのものに異常があるもの)
尿を作り出す働きが低下するために、十分な量の尿を作ることができず尿量が少なくなるものです。
糸球体でのろ過や、尿細管での再吸収が正常にできなくなることによって起こります。
腎不全、糸球体腎炎、腎盂腎炎、腎硬化症など
腎後性(尿が作られたあと、排尿までのルートに異常があるもの)
腎臓で尿が作られたにもかかわらず、何らかの原因でその尿の流れがスムーズにいかず、排泄されない状態が長く続くことによって起こります。
外に流れることができない尿は、その量が増えると今度は腎臓に向かって逆流します。
そうすると腎臓がダメージを受け、尿を作る機能が低下してしまいます(水腎症)。
尿管の狭窄や閉塞など
乏尿が続くとどうなる?
尿量が著しく減少した状態が長く続くと、体内の水分の量が過剰になるだけでなく、排出されるべき老廃物がどんどん体の中に蓄積されていきます。
そうすると、次のように全身にさまざまな症状が現れるようになります。
体内の水分が過剰になる
むくみ、急激な体重の増加、血圧の上昇、頭痛、吐き気、嘔吐、全身倦怠感 など
体内の電解質のバランスが崩れる
高カリウム血症(手足のしびれ、脱力感、動悸、不整脈、心停止)
老廃物の蓄積による全身症状(尿毒症)
体が正常に動かない、ぼんやりする、けいれん、血圧の上昇、不整脈、呼吸困難、こむら返りやしびれなどの神経症状、吐き気、嘔吐、腸の動きが鈍くなる、貧血など
尿路感染
尿量が少ないために膀胱内が洗い流されずに細菌感染してしまう
乏尿の対処法
明らかに水分摂取量が不足したことが原因の一時的な乏尿で、問題なく水分摂取ができる場合であれば、水分摂取によって自分自身で改善できることもあります。
ですが、生活や行動に思い当たる原因がない場合、多くはの治療が必要な状況です。
場合によっては水分摂取を積極的にしないほうが良いこともありますので、まずは医師の診察が必要です。
乏尿を起こしている原因が明らかとなれば、安静と保温、食事療法、薬物療法などで改善を図っていきます。

おわりに
以上、実際に腎臓で作られる尿そのものが少ない「乏尿」という尿量減少について紹介しましたが、それ以外にも、尿は正常に作られているにもかかわらず、何らかの原因で尿が溜まったまま排出できない「尿閉」という尿量減少もあります。
どちらも一見、同じような尿量減少に思えますが、実際には原因も対処法も違ったものになります。
いずれにしても医療的な対処が必要な状況ですので、尿量の減少に気が付いたら早めに医師の診察を受けましょう。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。