私たちの心臓は、1分間に約60~80回、一時も休むことなく規則的に拍動を続けています。
心臓が休んだり止まったりしてしまうと生命が維持できなくなりますので、どんな時でも絶えず動き続けなければなりません。
通常はそのような心臓の動きを感覚として感じることはありませんが、何らかのきっかけで心臓の拍動や違和感を感じることがあります。
この「心臓がドキドキする」「心臓の動きが普通ではない」といった感覚や症状を「動悸(どうき)」といいます。
心臓は生命と直結する臓器であるだけに、動悸を感じると少し心配になってしまうこともありますね。
それでは、なぜ動悸が起こるのか、そのメカニズムと対処法について学んでいきましょう。
もくじ
動悸とは
動悸とは、自分の心臓の鼓動を感じたり、不快感や違和感を感じることをいいます。
同じような言葉に「心悸亢進(しんきこうしん)」というものがありますが、これは脈が速くなって動悸を感じる症状をいい、動悸と同じような意味合いで使われています。
動悸には、その人自身にしか感じることができず他人からはわからないという特徴があります。
日頃よく経験する動悸は、緊張した時や激しい運動をした直後、また精神的に動揺した時に起こりやすいですが、その他には心臓の異常が原因になったり、心臓以外の身体的・精神的な原因によっても起こります。
動悸は決して心臓の異常を知らせるものではなく、体の正常な反応としての動悸や心配のない動悸も多くあります。

動悸のメカニズム
動悸がなぜ、どのようにして起こるのか、詳しいメカニズムについてはまだ解明されていないようです。
一定の速さで規則的に動き続けている心臓が、何らかのきっかけで、動きやリズム、収縮の強さに急激な変化が起こった時に動悸として感じます。
また、動悸の感じ方には個人差があり、敏感に感じ取る人もいればあまり気が付かない人もいます。
動悸の原因
心臓そのものに原因があるもの
心臓弁膜症
心臓にある弁の開閉がうまくいかないため、心臓の中で血液の流れが妨げられたり逆流したりする病気です。
体を動かした時に、動悸だけでなく息切れや胸の痛みを感じ、場合によっては気を失うこともあります。
狭心症、心筋梗塞
心筋に栄養や酸素を送る血管が狭くなったり閉塞する病気です。
胸がキュッと締め付けられるような痛み、圧迫感が特徴的な症状です。
心筋症
心臓のポンプ機能が弱くなる原因不明の病気で、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症があります。
動悸の他、息切れ、むくみ、倦怠感などの症状があります。
心筋炎
ウイルスなどの感染により心筋が炎症を起こすものです。
息切れ、胸痛などの症状のほか、動悸を感じることもあります。
不整脈
心臓の電気の流れや心臓の動きに異常のあるものをまとめて不整脈といい、期外収縮、房室ブロック、心房細動など数多くの種類があります。
脈がとぶ、ドキドキする、脈が乱れるといった動悸を感じることもあります。
また症状が重いものになると、息切れ、めまい、冷や汗、失神などの症状を伴うことがあります。
心臓以外の身体的な原因
肺の疾患、貧血
体に必要な量の酸素を取り込めなかったり、取り込んだ酸素を全身に運べないことにより、体が酸素不足となります。
その酸素不足を補うために心臓の動きが活発になり、動悸を感じるようになります。
動悸の他、息切れやめまいなどを起こすことがあります。
糖尿病(低血糖)
血糖値が下がることで、中枢神経や自律神経のバランスが乱れ、心臓の動きを正常にコントロールしづらくなります。
動悸、冷や汗、強い空腹感、手の震え、意識がぼんやりする、失神などの症状を伴います。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンの分泌量が増え、全身の新陳代謝が過剰に活発になる病気です。
体が常に運動をし続けているような状態となるため、脈が速くなり動悸がしたり、発汗や体重減少などさまざまな症状がおこります。
自律神経失調症
自律神経には2つの神経(交感神経・副交感神経)があり、それぞれ「アクセル」と「ブレーキ」の真逆の働きをしながらバランスを取り合って全身の臓器の働きを調節しています。
しかし何らかの原因で自律神経のバランスが崩れると、このアクセルとブレーキの働きが乱れ、身体面、精神面も含めて全身にさまざまな症状が現れます。
更年期障害、妊娠
女性ホルモンの分泌量が急激に変化することによって自律神経の働きが乱れると、心臓の動きにも影響を与えます。
動悸、息切れ、息苦しさを感じることがあります。
発熱
感染や炎症などによって体温が高くなると、酸素の消費量が増えて血液循環も活発になります。
高熱になるほど、動悸や息切れなどを起こしやすくなります。
精神的な原因
パニック障害
突然、激しい動悸やめまい、息苦しさや、手足のふるえなどの発作を起こす病気です。
過換気症候群
精神的な不安や緊張、パニックなどにより呼吸が激しくなり、体内の酸素が過剰になってしまう病気です。
手足のしびれやふるえ、めまい、動悸などの症状が現れることがあります。
心臓神経症
心臓に異常がないにもかかわらず、心臓に強い症状を感じる病気をいいます。
動悸、息切れ、胸の痛みなど心臓疾患によく似た症状が現れます。
ストレス
精神的なストレスなど負担が大きくなると、自律神経のバランスが崩れ、動悸や息切れ、息苦しさなどさまざまな症状が現れることがあります。
その他の原因
過度のアルコール、カフェイン摂取
薬の副作用
生理的な動悸(運動や精神的な変化によるもの)
動悸の伝え方
動悸は、その人自身にしかわからない感覚ですが、一言で動悸と言ってもパターンや感じ方は数多くあります。
病院にかかった時など相手に動悸の状況を伝えたい場合には、自分が感じたまま、ありのままを言葉で表します。
もし、なかなかよい表現方法が見つからないといった時には次のような言葉を参考にしてみてください。
- ドキドキする
- ドキンと打つような
- ドンと打たれるような
- ドドドと速くなる
- 脈が速い
- 心臓の動きが強い
- バクバクする
- 胸が躍る
- 脈が乱れているような
- 違和感がある
- 胸がもやもやする
- 胸が詰まる
- 重苦しい
- 心臓がひっくり返るような
- キュッとなる
- 脈が飛ぶ
- 脈が抜ける
- 心臓がカラ打ちしている
など、さまざまな表現方法があります。
これらの表現によって、また、動悸が起こった時の特徴や同時に現れる症状などから原因がある程度推測されることもあります。

動悸が起こった場合の対処法
まず、動悸だけでなく、息苦しい、めまい、意識を失う、冷や汗が出る、心臓に痛みを伴うような場合は、緊急を要する場合がありますので一刻も早く病院を受診しましょう。
上記にあてはまらない緊急性のない動悸であれば、まずは原因となるような行動やきっかけがなかったかどうか思い出してみてください。
<あった YES>
激しい運動をした、精神的に動揺した(緊張、驚き、衝撃、怒り、悲しみ、不安など)といったことで起こる動悸は、体の正常な反応のひとつです。
しばらくリラックスして休んで様子をみましょう。
時間の経過とともにおさまれば心配いりません。
<なかった NO>
動悸を感じたら、可能であれば腰かけて背もたれに寄りかかるなどゆったりした姿勢で安静にします。
そしてそのまま数分間、リラックスした状態で脈を測ります。

脈拍のチェックポイント
- リズムは一定で規則的ですか?
- 途中で脈が1回抜けたりタイミングがずれたりしませんか?
- 毎回強さは同じですか?
- 動悸として感じる心臓の動きと、手で触れる脈拍にズレはありませんか?
- 1分間の脈拍の回数を数えてみて、正常値(1分間に60~80回)より大幅に多い・少ないことはありませんか?
脈拍に問題がなく動悸も落ち着いたようであれば、ひとまず様子をみます。
しかし、脈が極端に遅い・速い、安静にしていても動悸が続く、頻繁に繰り返すなどといった場合は、受診をして背景に治療が必要な原因がないかを調べてもらうことをおすすめします。
この場合まずは循環器科を受診するのが一般的ですが、動悸の原因は多岐にわたるため必ずしも心臓や循環器系に異常が見つかるとは限りません。
また、一旦落ち着いた場合でも、日頃から何度も動悸を繰り返すようであれば、一度、医師に相談しておくと安心です。
その際に動悸に関連した情報があると診断の助けになりますので、動悸が起こった場合は次の内容をメモしておくといいですね。
- 動悸が起こった日付、時間
- 動悸の持続時間
- 脈拍(1分間の回数、リズムの乱れ、強さの変化など)
- 同時に感じた症状の有無、あればどんな症状があったか
- 動悸が起こった時の状況、生活や行動、精神状態との関連
- その他、動悸に関連していそうな情報
脈拍数は個人差が大きく、一般的な正常範囲にも幅がありますので、自分自身の平常時の脈拍を知っておくと大変参考になります。
おわりに
動悸には、心配のいらない動悸と、病的な動悸があり、時にその見極めが必要になることがあります。
動悸そのものが直接身体的に悪影響を与えることはなく、他に症状を伴わないものや自然におさまるものは心配いらない動悸とされています。
また、精神的な影響を受けやすく、心配しすぎるあまりストレスを感じさらに動悸を引き起こす原因となってしまったり、意識すればするほど悪循環に陥ってしまうということもあります。
「異常なし」という結果が一番の薬になることは、医療の世界ではよくある話ですので、もし原因がわからない動悸に悩んでいるのであれば、一度検査を受けてみるのもいいかもしれませんね。
最後までお読みくださりありがとうございました。