目は、体の中でも特に小さな臓器ですが、「物を見る」というとても重要な役割を担っています。
視力が低下すると、今まで当たり前のようにできていた行動が簡単にはできなくなってしまったり、見たいものが見えにくいというストレスを抱えたり、場合によっては危険にさらされたりと、生活に大きな影響を受けることになります。
それだけ視力は非常に重要な感覚でもありますが、一方で、視力に何らかの異常を感じても、生命にかかわるような事態ではないためについ軽視してしまいがちであるともいえます。
ですが、中には早期発見・早期治療が必要な進行性の病気や、放置すると失明に至る可能性のある非常に怖い病気が隠れているケースもあります。
目の健康を保つことは、生活の幅を保つことにもつながります。そのためにはどのようなことに気を付けるとよいのか、考えていきましょう。
もくじ
視覚の正体
普段私たちが見ているものは、そこに実在する物体そのものですが、それを視覚でとらえるためには「光」が必要不可欠です。
真っ暗闇の中では、目の前に物があってもそれが何なのか、どういう形や色をしているのか、見分けることができませんね。
目は、厳密にいえば「物に反射した光」を見ているというわけなのです。
目から入った光刺激は、網膜(もうまく)という、目の奥の突き当りにあるスクリーンに到達し、視神経がその情報を脳に伝えます。
そうして脳は目に見えるものの明るさや色、形、奥行き、距離などを判断するのです。

目の構造とはたらき
目は、正面から見れば黒目と白目だけの単純な作りに見えますが、実際にはほぼ真ん丸の球体をしています。
眼球の直径は24mmほどですので、大きめのビー玉、小さめのピンポン玉といえばイメージしやすいかも知れませんね。
この眼球は、外から見えない裏側でも複雑な働きをしています。
眼球は、眼窩(がんか)と呼ばれる頭蓋骨の空洞に、脂肪組織に埋もれるような形ではまり込んでいます。
そして、左右に1つずつある目で違う角度から見ることで、物を立体的にとらえることができるのです。
それでは、目の構造とはたらきを詳しくみていきましょう。

角膜(かくまく)
まず、人間の目を見てみると、白目と黒目に分かれているのがわかりますね。
この黒目の表面を覆っている透明の膜を「角膜」といいます。
角膜は水晶体とともに、レンズの役割をしています。
この角膜に感染や炎症、潰瘍を起こしたり外傷などを受けると、透明の膜が混濁し、目に入る光をさえぎってしまう原因となります。
瞳孔(どうこう)
黒目の中心にある、数ミリほどの色の濃い円を「瞳孔」といいます。
瞳孔には、目の中に入る光の量を調整する役割があり、光を当てると反射的に小さくしぼみ、暗いところでは大きく広がります。
瞳孔の大きさを調整できなくなると、刺激や痛みを感じるほどのまぶしさを感じます。これを羞明(しゅうめい)といいます。
瞳孔から見える目の中は実際には透明なのですが、真っ暗な穴を覗き込むのと同じ現象によって黒く見えているのです。
虹彩(こうさい)
瞳孔を取り囲んでいる黒目の部分を「虹彩」といいます。虹彩の中央の穴から見える部分が瞳孔というわけです。
虹彩は、伸びたり縮んだりしながら瞳孔の大きさを調節する働きをしており、カメラでいう「しぼり」に例えられます。
この虹彩の伸び縮みがうまくできないと、瞳孔の大きさを調節することができません。
虹彩をよく見てみると、瞳孔よりも明るい色をしているのがわかります。
アジア人はこげ茶色の人が多くいますが、これはメラニン色素の量の違いによるものです。
その他にはグレー、ブルー、グリーンなどバリエーションは多彩で、「目の色」と呼ばれるのはこの虹彩の色をさしています。
また、虹彩には模様があります。模様のパターンは指紋のように人によって違うため、虹彩認証にも役立てられています。
水晶体(すいしょうたい)
「水晶体」は、黒目(虹彩)の奥にある部分で、凸レンズのような形をしています。
角膜とともに、レンズの役割をしています。
水晶体は無色透明で、薄い膜に包まれた水分とたんぱく質からなっています。
見る物の距離によって厚みを変えながらピントを合わせています。
厚くなると、屈折率が高くなり、近くの物がよく見えます。逆に、薄くなると、屈折率が低くなり、遠くのものがよく見えるようになります。
水晶体が混濁すると、光の通過や屈曲をさまたげ、物を正しく見ることが難しくなります。
毛様体筋(もうようたいきん)
毛様体筋は、水晶体を取り囲んでいる筋肉です。
水晶体の厚みを薄くしたり厚くしたり自在に操ることで、ピント調節をしています。
近くを見る時は、毛様体筋が常に収縮して、水晶体の厚みを保とうとします。
長時間、スマホやパソコンなどの画面を見ていたり、手元で細かい作業を続けていると毛様体筋が収縮しっぱなしになるので、筋肉が疲れ、眼精疲労を起こします。
目が疲れた時には意識的に遠くのものを見ることで、毛様体筋の緊張をほぐすことができます。
硝子体(しょうしたい)
眼球の大部分を占める、中身にあたる部分が硝子体です。
透明のゼリー状で、ガラス(硝子)のように透き通って見えます。
柔軟性があり、眼球の形を球状に保ったり、外からの圧力や衝撃を和らげたりする役割を担います。
炎症や出血などで硝子体が濁ると、網膜に映像のピントを合わせることが難しくなります。
結膜(けつまく)
眼球の表面と、上下のまぶたをつなぎ合わせている部分を結膜といいます
アッカンベーをした時に見える、白目の部分とまぶたの内側にまたがって覆っている膜が結膜で、眼球の動きをスムーズにする役割があります。
感染やアレルギーなどで赤く炎症を起こすことがあります。
強膜(きょうまく)
白目の部分を覆っている膜は、強膜、脈絡膜、網膜と三重構造になっており、眼球全体を包んでいます。
そのうち一番外側にある強膜は、その名のとおり強度が強い膜です。色は白く不透明で、白目が白く見えるのはこの強膜によるものです。
眼球の形を保つのに役立っています。
脈絡膜(みゃくらくまく)
脈絡膜は暗赤色をした薄い膜で、強膜と網膜に挟まれる形で眼球を覆っています。
脈絡膜には多くの血管が張り巡らされており、網膜に酸素や栄養を届けたり、網膜の老廃物を回収する役割を担います。
網膜(もうまく)
一番内側にある膜は網膜といい、カメラでいうフイルムに例えられます。
目に入った映像を映し出すという、視力に直接関わる非常に重要な役割を担っています。
黄斑(おうはん)、中心窩(ちゅうしんか)
網膜の中心にある部分を黄斑といい、1.5~2mmほどの範囲に視細胞が密集している光を最も敏感に感じ取る部分です。
黄斑の中心にあるくぼみを中心窩といいます。
レンズから入ってきた映像(光)をこの黄斑にピントを合わせることで、像を鮮明に感じることができます。
視神経(ししんけい)
目から入った映像を脳に伝える神経の束です。
視力の低下
これらのように、目は、各部位それぞれで視力に関わる役割を担っているのですが、このうちどこか一か所でもうまく働かない部分があったりすると、正常に見ることができなくなります。
物が見えにくくなるという症状が現れる原因にはさまざまなものがあります。
屈折異常(近視、遠視、乱視)
正常な目であれば、目から入った光の焦点を網膜の距離にピッタリ合わせることができるのですが、近視、遠視、乱視の場合はそれがうまくできません。
近視の場合、眼球の奥行が少し長い形状になっているために、光の焦点を結んだときに網膜まで届かず、網膜の手前にピントが合ってしまいます。
反対に、遠視の場合は眼球の奥行が短いために網膜を通り越して後ろのほうで像を結ぶことになります。
眼球の奥行の長さは正常でも、角膜や水晶体での光を屈折させる力が弱かったり強かったりすることでも像を結ぶ位置が変わります。
いずれにしても軽度の場合は、毛様体筋が働いて水晶体の厚みを変えることで焦点を網膜に合わせるよう調節できることもあります。
また、正常な角膜は、たてよこ同じカーブを描いていますが、乱視の場合はたてよこのカーブの強さが違ういびつな形をしているので、結んだ像が二重にずれたりぼやけたりしやすくなります。
これらの屈折異常の場合は、像の焦点が網膜にピッタリ合うように、レンズで矯正します。メガネやコンタクトレンズを使うのはそのためです。
老眼(老視)
通常、近くのものを見る時には水晶体が厚くなりますが、年齢とともに水晶体が薄くなるために近くの物が見えにくくなります。
水晶体の厚みを調節する毛様体筋のはたらきは正常でも、水晶体そのものが薄くなってしまっているので、無理に近くを見ようとすると毛様体筋に負担がかかり、疲れ目の原因となってしまいます。
近くのものを見る時には、老眼鏡をかけるようにしましょう。

白内障
本来は無色透明であるはずの水晶体が混濁する病気です。
加齢によるものが多く、その他には水晶体の代謝障害、外傷などの物理的な原因などがあります。中には、糖尿病により誘発されて起こるものもあります。
混濁の具合によって視力低下の程度も変わってきますが、初期の頃は異常な眩しさを感じる(羞明)、物がゆがんで見える、日中よりも夜間のほうが見えやすいなどの症状もあります。
根本的治療のために手術が行われます。
加齢黄斑変性
目の網膜にある黄斑部が加齢によって変化する病気で、50歳以上の人に多くみられます。
物がゆがんで見えたり、視野の中心部が暗くなる・ぼやける・色の区別がつきにくいなどの症状が現れたりします。進行すると失明に至る場合もあります。
視野の真ん中が欠けてしまうため見たいものを見ることができず、日常生活に大きな支障をきたします。
早期発見により、早期に適切な処置を行い進行を食い止めることが重要です。
注射によって治療する方法もありますが、治療効果には個人差があるようです。
網膜剥離
眼球を覆っている網膜が何らかの原因によってはがれる病気です。
原因は、強度の近視(眼球のゆがみにより網膜が引っ張られる)、加齢、外傷などさまざまです。
初期の頃や剥離が軽い場合は、視界に虫や糸くずが飛んでいるように見える飛蚊症や、光が異常にまぶしく感じるような症状があります。
しかし網膜剥離は進行性の病気ですので、剥離が進むと視野が欠けたり、放置すると失明に至る可能性が高くなります。
早期発見、早期治療がカギになります。
網膜に空いた穴をレーザーで凝固したり、眼球の中にガスを注入して網膜を元の位置に押さえつけるという治療が一般的です。
緑内障
眼圧が高くなり、視神経が圧迫されて視野障害がおこる病気です。
眼圧の上昇は、目の中を循環している房水がうまく排出されないことが主な原因です。
緑内障の進行は非常にゆっくりで、長期にわたって徐々に視野が狭くなっていきます。症状に気づかないことも多いですが、放置すると失明に至ることがありますので早期発見が重要です。
眼圧を下げるために点眼、レーザー治療、手術が行われることがあります。
早期発見のために
年齢とともに目の機能は低下していきますので、それに伴って視力も低下していくのは自然なことです。
しかし、中には放置すると失明に至る重大な病気もあります。
目の異常は、まず物の見え方に変化が現れますが、たいていの場合は片方の目だけに症状が出現します。
普段の生活では両目で物を見ているので、もし片目に異常があっても、正常なほうの目が視力をカバーしていまい見え方の変化になかなか気づくことができないのです。
早期発見のために、定期的に自己チェックをしたり眼科の健診を受けることをおすすめします。
方眼紙のようなマス目の用紙を使って、視野の欠けやゆがみを確認する方法もあります。この時、両目で見るのではなく、必ず片目ずつチェックすることがポイントです。
また、視力の低下や視野の欠けが急に起こったり急激に変化する場合や、しばらく目を休ませても回復しない時には、早めに医師の診察を受けましょう。

おわりに
パソコンやスマホの普及により、現代人は目を酷使する機会が大幅に増えました。
その結果、疲れ目や眼精疲労など目の悩みを抱える人は非常に多いと言われています。
目の不調は、目だけの問題にとどまらず、体や心にまで負担をかけてしまうことが多々あります。
だからこそ、日頃から目をいたわって、心身だけでなく目の健康も意識したいものですね。
最後までお読みくださりありがとうございました。