人は誰でも、気持ちが沈み込んだり憂うつな気分になったりすることもあります。
毎日どころか日に何度もそういった気分になることもありますが、それでも時間がたてば、自然にあるいは何かのきっかけで気分が戻り、気分転換をしたり、楽しいことや嬉しいことがあると明るい気分に切り替わったりもします。
しかし、この気分の落ち込みが通常の範囲を超えてひどくなり、その状態が持続して全身にさまざまな症状が現れたり思考回路がストップしてしまうような状態になると、医療的な対処が必要です。
もくじ
気分の上がり下がり
楽しいことや嬉しいことがあると気分が上がり、反対に悲しいことや嫌なことがあると気分は下がります。
しかし、いつまでも気分が上がりっぱなし・下がりっぱなしというわけではなく、原因の解決や時間の経過によって自然ともとの気分に戻ることができます。
健康な人はその復元力が働いて気分もコントロールできるのですが、その機能が働きにくくなると症状が長引いたりさらにひどくなったり、病気になってしまうのです。
うつ状態(抑うつ状態)とは
ストレスによって、気分が落ち込み、意欲も行動もすべて低下してしまう状態をいいます。
精神医学的には「抑(よく)うつ」という言葉が使われ、具体的には次のような症状がみられます。
- 気分が沈む
- 涙もろくなる
- 感情の起伏がなくなる
- 興味や関心がなくなる
- つまらなくなる
- やる気が起こらない
- 行動することが億劫になる
- 食欲が低下
- 思考力の低下、思考回路の停止
- 集中力の低下
- 判断ができない
- あらゆる精神活動、身体活動が低下
- 焦りや不安、イライラ
- 不眠、眠った気がしない
- 疲れやすい
- 自分を責めてしまう
- 死にたいという思い
- 朝から午前中にかけて調子が悪い
これらの症状があるからといって、すべてがうつに関連しているとは限りません。
しかし、このような症状が強く「自分でコントロールができない」「そこから抜け出せずに苦しい」と感じたり、いつも繰り返してきた通常の生活や活動に支障をきたす場合、治療が必要だと判断されます。

うつ病という病気
抑うつ状態が数日、数週間、数ヶ月と長く続くうちに、普段できていたことができなくなるなど生活や仕事に支障をきたすようになり、そのことが自信の喪失や将来への不安、絶望感につながります。
ふさぎこみ、人間関係も悪化して、さらに精神状態が悪くなるという悪循環に陥ります。
抑うつ状態がひどくなると思考力や判断力が低下したり絶望感にさいなまれるようになり、このつらさから解放されるためにはもう終わりにするしか方法がないという考えに行きついてしまうのです。
抑うつ状態にある症状が2週間以上続き、毎日の習慣もつらくてできない場合はうつ病が疑われます。
うつ病のメカニズム
うつ病を発症するメカニズムはまだはっきりと解明されていませんが、うつ病はストレスによって脳が疲れ切ってしまうことが原因で発症する病気です。
ストレスは、悩みやトラブルだけでなく環境の変化、立場や役割の変化なども大きな要因になります。
強いストレスにさらされ続けたり、それほど強いストレスでなくても終わりが見えず長期にわたって続くことで脳が疲れ切ってしまいます。
その結果、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど(これらをまとめて「モノアミン」と呼んだりもします)の分泌や働きが低下することで発症すると考えられています。
うつ病を発症しやすい性格として、完璧主義で几帳面、仕事熱心、周囲に気を遣いすぎるなどが挙げられます。
このような性格の人は、気を緩めたり力を抜いたりすることがなかなかできず、脳のエネルギーを消耗しやすいことが関係していると考えられます。
小さなミスをしたり、思うような結果が出せないなどといったことが大きなストレスとなり、消耗したエネルギーを回復させることが難しくなってしまうのです。
うつ病の治療
抑うつ状態となると、動くことが億劫に感じ必要最小限のことをこなすだけで精一杯になり、受診する気力さえ湧いてこなくなってしまいます。
日光を浴びる、リズムに合わせて体を動かすなどセロトニンの分泌を促す行動により抑うつ状態を緩和する効果も期待できます。
しかし、症状がひどくなるとこれらの行動をとることすら難しくなってしまいますので、やはり医療的な対処が必要です。
うつ病は、何もせずひたすら休んでいれば、1年ほどで自然に回復する可能性もあるようです。
しかしその間ずっとつらい症状に耐えなければならないことを考えると、自然治癒を目指すのはあまり現実的とはいえません。
薬物療法(抗うつ薬や睡眠薬)、3ヶ月以上の休養、そして精神療法を行い、元の生活に戻れるよう治療します。
また、うつ病は再発する確率も高いため、再発予防も治療と同じように重要となります。
仕事に復帰する予定があればリワークプログラムや復職支援などのサポートを受けながら、徐々に元の仕事に戻れるようトレーニングを行います。

高齢者のうつ病
高齢者ならではの体験(病気、衰え、喪失、孤立、別れなど)がストレスとなり、うつ病を発症するものです。
気分の変化に自分自信が気付きにくく、うつ病の典型的な症状が必ずしも現れるわけではないという特徴があります。
元気がない、食欲がない、ひきこもりがち、眠れないなどといった症状が現れても、それがうつ病に結びつかず年のせいだと思い込んでしまったり、やる気が起きない、物覚えが悪くなったなどの精神症状を認知症による症状と間違えられることもあります。
発症を予防するために
- 人との関わりや交流を増やす、頼る
- 楽しみや生きがいをみつける
- 軽い運動や規則正しい生活を習慣にする
- 些細な事でも相談できるかかりつけ医をもつ
といった方法もあります。
おわりに
うつ病についての研究が進んでおり、発症に関与しているウイルスが発見されたという内容の論文が2020年に国内で発表されています。
うつ病でつらい思いをしている人が「怠けている」「甘えている」などと揶揄されていた時代はもう遠い昔の話となりました。
抑うつ状態から抜け出すためには十分な休養と薬物治療が必要であり、また周囲にいる人の理解とサポートも大きな助けとなります。
うつ病は100人に3~7人が発症すると言われるくらい身近な病気ですので、いつ自分がかかるかも知れない、サポート役を担うことになるかも知れないということを踏まえ、理解を深められるといいですね。
最後までお読みくださりありがとうございました。