私たちの気分はいつも一定ではなく、つらいことがあると気分が沈みがちになったり、嬉しいことや楽しいことがあるとワクワクするような気分になったりと、その時その時の状況によって変化しています。
気分の波によるリアクション(喜怒哀楽の表現)の大きさは人によってさまざまですが、落ち込みがひどくなったり、反対に極端にハイテンションになったりと、本人や周りの人が違和感を感じるほどのレベルになると治療が必要なケースも出てきます。
もくじ
気分の上がり下がり
楽しいことや嬉しいことがあると気分が上がり、反対に悲しいことや嫌なことがあると気分は下がります。
しかし、いつまでも気分が上がりっぱなし・下がりっぱなしというわけではなく、原因の解決や時間の経過によって自然ともとの気分に戻ることができます。
健康な人はその復元力が働いて気分もコントロールできるのですが、その機能が働きにくくなると症状が長引いたりさらにひどくなったり、病気になってしまうのです。
躁(そう)状態とは
通常の範囲を超えて、気分が高揚し活動的になっている状態を言います。
具体的には次のような行動がみられます。
- 気持ちが大きくなり歯止めが効きにくい
- 感情や気持ちがコロコロ変化する
- 欲求が溢れて自制が難しくなる
- あまり眠らなくても活発でいられる
- 仕事や勉強をやりすぎる
- 次々と色々な考えが浮かんでくる
- 早口で絶え間なくしゃべり続ける
- 知らない人にもやたらと話しかける
- 自信がみなぎる
- 威張ったり怒鳴り散らしたり攻撃的になる
- 躊躇なく突拍子もないことを行う(言う)
- 高価な買い物をしたり借金をする
- ギャンブルで多額のお金をつぎ込む
- 時には法に触れる行動をとることもある
うつ状態に比べれば、活動的で元気があるように見えますので一見心配がなさそうに思えるかも知れません。
しかし躁状態の時は正常な判断が難しい状況に陥っています。
さらには周りの人を攻撃したり振り回したり、行き過ぎた行動が抑えられなかったりと、さまざまな問題を引き起こしてしまいます。
躁状態は病気の重要なサインなのですが、本人は「すべてがうまく行っている」という自信に満ち溢れているので、ほとんどの場合は病気を疑うことができません。
周囲の人が異常に気付くことが多いのですが、本人がその忠告に耳を貸さないことも多く、対応に悩むケースが多々あります。

双極性障害という病気
「双極性障害」は、かつては「躁うつ病」という病名でした。
躁状態が一定期間続いたあと数ヶ月~数年間の無症状の期間があり、今度はうつ状態となる時期が始まります。
そしてまた無症状の期間を経て躁状態の時期がやってきます。
そのようにしてうつ状態と躁状態という両極端の症状を繰り返すのですが、適切な治療が行われないとその間隔がだんだんと短くなり病状も悪化します。
この病気の「うつ」とうつ病の「うつ」では原因も治療方法も異なるため、同じうつ状態でも「うつ病」によるものなのか「双極性障害」によるものなのかの鑑別が重要になってきますが、実際には正確な診断にたどり着けないケースが多いと考えられています。
うつ病はストレスが原因となる心の病気ですが、この双極性障害は原因やメカニズムがまだ解明されていません。
10~20代で発症することが多く、また遺伝的な要素があると考えられています。
躁状態の症状によって周りの人は非常につらい思いをしますが、本人は加害者になっているという自覚が持てず、場合によっては被害を受けた人が心の病気にかかってしまうおそれもあります。
治療をせずに放置していると、躁状態の波が来るたびに人間関係が壊れ、社会的信用を失い、家庭や仕事がうまくいかないなどの問題を繰り返すことになります。

程度が軽い「軽躁状態」
同じ躁でも、程度の軽い「軽躁状態」の人もいます。
ハイテンションで活発に動き回っているが、周囲へ迷惑をかけたりトラブルを起こしたりするほどではないため見過ごされることが多々あります。
また、初対面の人であれば、「活動的な人なんだな」「疲れ知らずだな」という印象を持たれることはあっても異常であることまでには気が付きにくいものです。
やはりいつものその人をよく知っている家族や友人など身近な人が感じる「いつもと違う」「何かおかしい」という感覚が非常に役立つのです。
双極性障害のタイプ
双極性障害には2つのタイプがあります。
- 双極Ⅰ型障害:うつ状態の後に激しい躁状態が起こるもの
- 双極Ⅱ型障害:うつ状態の後に軽い躁状態が起こるもの
双極性障害の治療
双極性障害は残念ながら自然治癒は期待できません。
しかし、薬物治療によって気分を安定させることで、躁状態とうつ状態を繰り返す症状をコントロールすることが可能です。
一方で、うつ病で使用する「抗うつ薬」を服用すると効果がないばかりか症状が悪化する場合もあります。
多くの場合、うつ状態になった時に受診をするのですが「双極性障害」と「うつ病」は違う病気で治療法も違いますので、見極めが非常に重要になります。
「躁状態があったかどうか」が診断の決め手にもなるのですが、躁状態は本人に自覚がないことも多く、また症状の軽い軽躁状態ともなると周りも気づかないことがあります。
躁状態のことがうまく伝わらないことで、「うつ病」と診断され、適切な治療を受けられず長い期間つらい思いをいている人も多くいます。

おわりに
双極性障害と正しく診断されて適切な治療を受けられている人はそれほど多くなく、診断を受けていない人も多いと推測されています。
診断の決め手となる躁状態の症状に、本人が異常であると認識できなかったり、その人の人格や性格に関する内容であるだけに周囲の人もなかなか指摘しづらかったり、また周りの人が病気のせいだと思わずに我慢をしているケースもたくさんあると思います。
こういった病気もあるのだということを知っていただくことで、この病気の疑いのある人が適切な診断や治療を受けられ、つらい思いをする人が少しでも減ることを願っています。
最後までお読みくださりありがとうございました。