痛みとその対処法

読み始める前に】

痛みは、私たちが日常的に経験する不快な症状の一つで、医学的には「疼痛(とうつう)」といいます。

誰もが経験したことのあるはずの痛みですが、痛みといってもその種類やタイプは非常に幅広く、その人自身しか感じることができないので他人と共有ができないという特徴があります。

皆さんもご存じのとおり、痛みは身体の危険を知らせる警告であり、痛みのある部分を守ろうとする防御反応でもあります。

痛みを感じる部分に、何らかの刺激を受けて異常が起こっている可能性があるということを知らせてくれているのです。

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もくじ

痛みのメカニズム

頭のてっぺんから足の先まで全身どこを触っても感触がわかるのは、その部位に刺激を受け取るセンサー(感覚受容器)があるためです。

そのセンサーで受け取った刺激の情報神経に伝わって脊髄からに送られると、そこで初めて「熱い」「大きい」「柔らかい」「痛い」などと感知することができます。

そして、その刺激が強いほど「痛み」として感じられるようになるのです。

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痛みの種類と分類

一言で痛みといってもそのタイプはさまざまで、原因によって次のように大きく2つのタイプに分けて考えられています。

「侵害受容性疼痛」

皮膚や筋肉、骨、臓器などにあるセンサー(受容器)が刺激を受けて感じる痛みです。
けが、骨折、やけど、炎症、冷刺激、薬品による刺激などがあり、さらに下のように区別することができます。

  • 「体性痛」  外からの刺激が原因でおこる痛み。皮膚の表面が感じる痛み(=表在痛)と筋肉や関節、骨が感じる痛み(=深部痛)がある。
  • 「内臓痛」  内臓が感じる痛み。
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「神経因性疼痛」

痛み刺激を受け取ったセンサーからの情報を脳に伝える神経に原因があるために起こる痛みです。
神経そのものが圧迫や損傷などの刺激を受けて感じる痛みで、ビリビリとしびれるような痛み、ビリっと電気が走るような痛み、と表現されます。

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また、痛みの経過によって、急に起こる痛みを「急性疼痛」長期間続く痛みを「慢性疼痛」と区別されることもあります。

痛みを伝える方法

痛みを相手に伝える時、皆さんならどのように伝えるでしょうか。

  • ヒリヒリ、擦れたような
  • ズキズキ、脈打つような
  • ガンガン、打たれるような
  • チクチク、刺されるような
  • ピリピリ、電気が走るような
  • 衣類が触れても痛い
  • 鈍い、重い、鋭い
  • 脂汗が出るような
  • 息が止まるような
  • 熱い、焼けるような
  • 冷たい、凍るような
  • 疼(うず)くような
  • 腫れているような
  • 殴られるような
  • 切られるような
  • しびれるような
  • 割れるような
  • 貫くような

などなど、挙げればキリがないほどですが、これらは痛みを表現するときによく使われる言葉の一例です。

痛みを取り除くためには、まず痛みの原因をはっきりさせることが求められます。

ある程度の痛みであれば自分自身で対処できるのですが、強い痛みや他の症状が伴う痛み、長く続く痛みなどがある場合は、人に助けを求めたり医師の診察を受けたりすることが多いのではないかと思います。

その時に、「痛みを人に伝える」という必要性が出てきます。

しかし、痛みは目に見えるものではなく、さらにその痛みを感じられるのは自分自身だけですので、痛みをできるだけ正確に相手に伝えるということは非常に難しいことなのです。

医療の現場でもこのような場面はよく見られます。

「この痛みを理解して欲しいけれどうまく伝えられない」という患者さんと、
「痛みを正確に把握したいけれどうまく聞き出せない」という医療従事者との間に大きな壁が立ちはだかります。

その上、「思うように伝わらない」といった苛立ちや絶望感が精神的なストレスとなり、さらに痛みを強くするという悪循環に陥ってしまうことも多々あります。

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このような問題を少しでも解決するために、ペインスケール(痛みの評価スケール)というツールが使用される場合もあります。

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つらい痛みをできるだけ早く解消するためには、痛みを的確に伝え、正確に把握してもらうことが大きな課題であるともいえます。

痛みの部位とよくある疾患(病名

痛みの位置や質によって、その部位で何が起こっているのかおおよその見当がつくこともありますが、痛みや症状だけで診断することは困難なため、場合によっては詳しい検査が必要になります。

(下記の疾患はあくまでも一例であり、必ずしもどれかに当てはまるというわけではありません。)

頭の痛み

【脳神経外科】
脳の血管や神経、脳を包んでいる膜が刺激を受けることで感じる痛みです。
脳は全身の痛みを判断する役割を担っていますが、脳自体は痛みを感じることはできません。
吐き気、嘔吐、めまい、麻痺などを伴う場合もあります。
脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、髄膜炎、片頭痛、緊張性頭痛、群発頭痛など

顔面の痛み

【脳神経外科】
顔面の神経が圧迫されることで激しい痛みを起こすものです。 
三叉(さんさ)神経痛
【皮膚科】
ウイルスが顔面の神経を刺激するために起こる痛みで、神経に沿った帯状の発疹がみられます。
帯状疱疹(ヘルペス)

耳・鼻・のどの痛み

【耳鼻咽喉科】
耳、鼻、のどの炎症が原因で起こる痛みが多く、発熱を伴うこともあります。
外耳炎や中耳炎など耳の炎症、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、扁桃炎、急性上気道炎(風邪)など

歯、口腔の痛み

【歯科、口腔外科】
歯や歯茎の神経が刺激されたり、口腔粘膜が炎症を起こしたりすることで感じる痛みです。
う歯(虫歯)、歯周病、口内炎など

胸部の痛み

胸部にある臓器、骨、筋肉、胸膜、乳房、皮膚などの病変の他、呼吸器系や食道などの炎症も痛みの原因となります。
【循環器科】
胸に急激に激しい痛み(しめ付けられるような、焼かれるような、刺されるような)背中や肩、あごなどにも広がる痛み、なんとも言えない不快感など、経験したことのないような痛みは一刻を争う場合もあります。
また、息苦しさやめまいなどを伴うこともあります。
狭心症、心筋梗塞、心膜炎、肺塞栓症、急性大動脈解離など
【呼吸器科】
咳、たん、息苦しさや呼吸困難などの呼吸症状、炎症がある場合は発熱などの症状を伴います。
肺炎、気管支炎、気胸など
【消化器科、一般外科など】
胃の内容物が逆流して食道の粘膜が荒らされると胸の中心部に痛みを感じることがあります。
逆流性食道炎
【その他】
肋間神経痛、乳腺の病変など

腹部の痛み

【一般外科、消化器内科、胃腸科など】
内臓そのものは痛みは感じませんが、内臓の筋肉や包んでいる膜が過度に伸び縮みしたりけいれんを起したりすると痛みを感じます。
また、臓器の炎症が近くにある腹膜や腸間膜などに及ぶことで激しい痛みを感じることがあります。
腹部には多くの臓器がありますので、どの臓器が原因で痛みを起こしているのか特定が難航することもあります。
みぞおちの痛みは、少し離れた部分に原因があることもあります。
胃炎、胃潰瘍、胃けいれん、十二指腸潰瘍、胃腸炎、胆のう炎、胆石、膵(すい)炎、虫垂炎(いわゆる盲腸)、腹膜炎、腸閉塞(イレウス)、便秘、下痢、尿管結石、子宮や卵巣の病変、子宮外妊娠など

肩の痛み

【整形外科】
肩関節周囲の炎症や組織の断裂などが原因で、腕を上げたり回したりする時に痛みを伴うものです。
肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)、肩腱板断裂、肩こり、脱臼など
【その他】
関連痛(放散痛)といって、肩には異常がないにもかかわらず他の臓器の病変により肩に痛みを感じる場合もあります。
心筋梗塞などの内臓疾患

背中、腰の痛み

【整形外科】
腰椎(背ぼね)の神経が刺激されて痛みを感じるもので、足のしびれや脱力感を伴うこともあります。
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、慢性腰痛など
【その他】
腎臓や尿管の異常が原因のものや、精神的ストレスが腰痛として現れることがあります。

膝の痛み

【整形外科】
膝の関節の中で炎症を起こしたことが原因で感じる痛みです。
膝の軟骨がすり減る、半月板が損傷するなどして、そのかけらが膝の関節内を刺激すると、炎症を起こして痛みが出ることがあります(変形性膝関節症)。
また、自分の体が自分の関節を攻撃して破壊してしまう慢性関節リウマチや、関節内で結晶化した尿酸が炎症を起こし腫れや激しい痛みを起こす痛風も有名です。

筋肉痛

運動によって筋線維が傷つき、その損傷を修復するために炎症反応がおこることで痛みを感じるものと考えられており、数日間で自然に治癒します。

痛みの対処法

痛みに対しては、まず痛みの原因を突き止め、その原因に対して適切な対処をすることが基本です。

しかし、すぐに原因が分からなかったり、原因を取り除くことが難しい場合も多くあります。

そのような場合は、対症療法といって、痛みを少しでも軽減できるような対処が必要となります。

痛み止め(鎮痛剤)を使う

過去には「痛み止めはクセになる」と敬遠されていたこともありましたが、現在では、特に急性期の痛み対して積極的に使われることが多いです。
内服薬だけでなく、塗り薬、貼り薬、坐薬などいろいろなタイプがありますので、痛みの部位や程度、状況にあわせて使い分けが可能です。

痛みのある部分を冷やす・温める

一般的に、急性期の痛みは冷やす・慢性期の痛みは温めることが多いです。
受傷して数日間は、その部分が腫れたり炎症を起こすことが多いので、冷やすことで症状をおさえることができます。
その後、数日たっても長引く痛みに対しては、温めることで患部の血流を良くして回復を助ける効果が期待できます。

適度な運動

受傷直後の急性期には安静がすすめられますが、慢性的な痛みが続いている場合は、可能な範囲で適度な運動をすることが血流を良くして回復を助けることにつながります。

気分転換

痛みによって心理的な負担が大きくなると、さらに痛みを増長させてしまう悪循環に陥ってしまいます。
長引く痛みを軽減させたり痛みの悪循環を断ち切るためには、痛みを紛らわせたり痛みから気を逸らせられるような気分転換が効果的です。

おわりに

痛みは、人間の体にはなくてはならない症状でもありますが、その一方で身体的にも精神的にも我慢を強いられ、また日常生活や人との関わりなどその人を取り巻くさまざまなことに悪影響を及ぼすほどつらいものです。

さらには、痛みが心身の新たな問題を起こす原因になることもあり、非常に厄介な症状でもあります。

痛みは我慢せずに積極的に取り除くことが推奨されているのは、生活面へのマイナスの影響を最小限にしてその人らしい生活を送るためといった側面もあるからかも知れません。

つらい痛みと付き合いながら生活されている方もたくさんいらっしゃると思いますが、痛みを上手くコントロールし、心身共に穏やかな日々を過ごされるよう願っています。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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