【読み始める前に】
「発熱」は私たちの体の防御反応のひとつであり、また大切なサインでもあります。
たいていの人は、今までに発熱した経験があると思います。
あまり記憶にないという人も、身近な人が熱を出したという経験ならあるのではないでしょうか。
発熱というものは、それくらい日常的によくみられる症状なのですが、発熱した本人はもちろんのこと、近くで見ている人にとっても非常につらいものです。
少しでも苦痛を和らげ早く回復できるように、対処方法を学んでいきましょう。
もくじ
発熱とはいったい何度以上をさすのか
発熱とは、平熱(へいねつ)より体温が高くなることを言います。
では、「平熱」とはいったい何度くらいをさすのか、ご存知でしょうか?
「普段あまり体温を測らないので、自分の平熱が何度くらいなのかよくわからない。」といった方も多いのではないかと思います。
体調がいつもどおりで特に不調を感じない時はあまり体温を意識することはありませんが、「なんだか熱がありそうだな」「体が熱いな」と熱っぽさを感じたとき、体温がいったい何度くらいなのか気になりますよね。

体温計を見て、「やっぱり熱がある」「微熱だな」「高熱が出た」と判断した経験があると思いますが、それでは一体何を基準に「微熱」「発熱」「高熱」だと判断しているのでしょうか。
実は、これには明確な基準がないのです。
感染症法という法律の中には「本基準において、「発熱」とは体温が37.5℃以上を呈した状態をいい、「高熱」とは体温が38.0℃以上を呈した状態をいう。」という文章があります。
しかし、人それぞれ平熱が違うように、人間の体には 個人差 というものがあり、また一日の中でも変動しているのが普通です。
ある調査によると、人間の平熱(わきの下)は、36.6~37.2℃が平均なのだそうです。
また、場合によっては「平熱より1℃以上上昇=発熱」と判断するケースもありますので、自分の平熱を知っておくことで、発熱かどうかの判断がしやすくなるのです。
ちなみに、医療の現場では「体温が何度なのか」よりも「体温がどう変化しているのか」「何によってが発熱し、何が起こっているのか」に注目しています。
そのため、体温測定ごとの細かい数字よりも、グラフにしてざっくりとした推移を見るほうが参考になるのです。
「微熱」「発熱」「高熱」の細かい基準を設けないのは、医学的にはあまり必要がないといった理由もあるのかも知れませんね。
発熱時の体の反応~温める?それとも冷やす?~
真夏の猛暑の中でも、真冬の極寒の中でも、不思議なことに私たちの体温はほぼ変わらず一定に保たれています。
暑い時には「暑い」と感じ真っ赤になって汗をかき、反対に寒い時には「寒い」と感じ青白くなってブルブル震えますが、これらは暑さや寒さに体温が左右されてしまわないように、体温を調節するために無意識のうちに体が起こしている反応なのです。
私たちは、その反応を助けてあげるように「寒い時は温める」「暑い時は冷やす」という行動を無意識のうちにとっています。
発熱によっても同じように「寒い」「暑い」と感じたり、青白くなって震えたり、真っ赤になって汗をかいたりといった症状がみられます。
これも体温調節のための大切な反応ですので、「寒い時は温める」「暑い時は冷やす」の法則に従えば問題ありません。
(ただし、重度の熱中症など体温調節機能が破たんしている場合は例外ですのでご注意ください!)
発熱のメカニズムと対処法についてもう少し詳しく知りたい方は、下の図をご覧ください。

① 普段、私たちの体温が一定に保たれているのは、脳からの指令「体温のセットポイント」が37℃付近に設定されているためです。
その指令を守るため、汗をかいたり震えたり、血管を広げたり縮めたりと、本人の意思に関係なく微調整を繰り返しながら体温を維持しているのです。
② しかし突然、何らかのきっかけで、セットポイントの設定値が高く設定されてしまうことがあります。
(この図では例として39℃付近にセットポイントを設定しました。)
今まで体温を37℃前後に維持していたのに、急にそのセットポイントの設定が高く変更されてしまったため、慌てて体温を上げなくてはならなくなりました。
③ そこでまず、体はとにかく体温を上げることに一生懸命になります。
体温を上げるため、全身の筋肉を震わせて熱を産生しようとします。
そして産生された熱が血流によって全身を巡る時、せっかくの熱が外気で奪われてしまわないように、血液はできるだけ体の中心部の血管を通りたいため、体の表面にある血管が収縮し細くなります。顔や手足が青白く冷たくなり、寒く感じてガタガタ震えているのはそのせいです。
この段階では、すでに熱が上がり始めているのでいつもより体温は高いですが、体を冷やすのはまだ早いです。
体力の消耗や苦痛を最小限にするためにも、早くセットポイントまで到達できるように手助けしてあげる必要があります。
布団や毛布でくるんで温めたり、部屋を暖かくするとよいでしょう。
④ そうこうしているうちに、ようやく体温がセットポイントまで到達したようです。
先ほどよりさらに体温が上昇し、高熱になりました。
体は、発熱の原因と戦うため高熱を維持しようとしますので体力が消耗しやすくなります。
引き続き、こまめに水分補給をしながら体を温かくして安静を保ちましょう。
この時、本人が希望すれば、アイス枕をしたり、おでこを冷やしたりするのもいいですね。
体を冷やすことに体温を下げる効果はありませんが、「気持ちがいい」と感じることで苦痛を和らげることができます。
また、少し専門的になるとわきや足の付け根など動脈の部分を冷やして血液の温度を下げようとしたりもします。
これは一見、理に適っているようにも思えますが、発熱の原因によっては体温のセットポイントを下げる効果がないばかりか、場合によってはかえって解熱を妨げてしまうという見方もあります。
⑤ ある一定時間ピークを維持したあとは、今度はセットポイントが元の37℃付近に一気に下がります。
⑥ そうすると、今度は高い体温を下げようと体が働きますので、暑いと感じ汗をかき始めます。
こうなればもう、保温のための布団や毛布はいらなくなります。
こまめに着替えたり水分補給をしたりしながら安静にして、熱が下がるのを待ちましょう。
解熱剤などの薬を使って熱を下げるべきかどうかは、医療者の間でも意見が分かれるところです。
ケースバイケースですので、迷った時は医師や薬剤師に相談しましょう。
発熱の原因がわからない!?
「高熱が出てあわてて病院に駆け込んだのに、原因がわからなかった。」
「もしかして原因不明の病気なのでは?」
「あの先生は見立てが悪いのでは?」
などと心配になった経験はありませんか?

確かに、熱が出て診察を受けたのに原因がわからないなんて、なんだか拍子抜けしてしまうのも無理はありません。
しかし、実はこれは非常によくある話で、逆に発熱直後に原因が確定するケースのほうが珍しいのではないでしょうか。
発熱の原因は、季節や状況などからある程度は推測ができたとしても、「○○℃以上なので□□という病気です」「△△日以上発熱が続いているので◇◇という病気です」などと単純に診断がつくものでもないのです。
それだけ、世の中には発熱の原因となりうる病気が数えきれないほど多くあるのです。
診察した医師は、その数多くの疾患の中から最終的に一つに絞って治療を行うことになるのですが、これは体温を見ただけではわかりません。
熱の出はじめの様子や熱の高さ、上がり下がりのパターン、持続日数、発熱以外にどんな症状があるか、各種検査結果など数多くの情報を総合的に見なければ正確な診断はできないのです。
なので、発熱してすぐに診断名がつかないことは珍しいことではなく、発熱が治まってから原因が確定することだってあるのです。
発熱直後に原因が確定しなくても「あの医者は原因もわからないのか!」なんてがっかりしないでくださいね。
「あの先生は、早合点することなく慎重に経過をみてくれているんだ」と安心してください。
熱が出た!病院に行く?行かない?
これには正解というものがないのであくまでも大まかな目安でしかありませんが、病院に行くか行かないかは「医療的な対処が必要な状態かどうか」ということが一つの判断基準になります。

- 呼びかけに応じない、意識がもうろうとしている、けいれんしている、呼吸がおかしい、痛みがある、苦しんでいる
病状がさらに悪化したり急を要する事態に陥る可能性があります。
慌てずに救急車を呼びましょう。 - 発熱が4日以上続いている、水分が取れずおしっこが濃い・またはあまり出なくなった、何日も食べられない、少し息苦しい、他につらい症状がある
緊急ではないにせよこのまま様子を見るには少し心配な状態です。
できればどなたかに付き添ってもらい、病院を受診しましょう。 - 熱だけでなく全身に発疹がある、発熱する前に感染症の人と接触したことがある
感染性の強い病原体を持っている可能性も否定できません。
他の人への感染を防ぐためにも、まずは病院に連絡を入れて指示を受けましょう。 - 発熱があっても他に症状がなく元気がある、年齢が若く体力がある、食べたり飲んだりできる、身の回りのことがそれなりにできる、体調が悪化しない
自宅で静養し様子をみながら解熱を待つこともできます。
おわりに
ひとことで発熱といっても原因や対処法はさまざまですが、共通していえることは、発熱は苦痛を伴い体力を消耗するもの、そして日常生活にも影響を及ぼすものだということです。
そのようなつらさが少しでも和らいで一日でも早く日常に戻れるよう、少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みくださりありがとうございました。