胃の不調とその対処法

「食べる」という行動は生命を維持していくために欠かせないものですが、それだけでなく私たち人間にとって食事は特別な意味を持つものでもあります。

食事は、生活の中の楽しみであったり、人とのコミュニケーションを円滑にするのに大きな役割を果たします。

そのため、美味しく楽しく食べることは、栄養面、生活面、社会面などあらゆる面で重視されています。

しかし胃の調子が悪くなると、食欲が湧かなかったり食べることが苦痛に感じたりすることも多く、その結果、体の健康だけでなく日常生活や人との関わりにも影響を及ぼしてしまうこともあります。

胃の健康は「食べる」という意欲や行動に直結します。食事が苦痛なものになってしまわないように、胃の健康について考えていきましょう。

胃の働きとメカニズム

は、口から入った食べ物が食道を通って一番初めに到達する臓器です。

「胃袋」ともいわれるように、胃は袋状になっていて食べ物を一定時間の間ためておくことができます。

みぞおちのあたりのやや左側にあり、普段は大部分が肋骨に隠れています。
空の状態では、おへそよりもかなり上の方にありますが、食べ物が送られてくるとその内容量に合わせて大きく伸びて膨らみます。また、体勢によっても形が変化します。

食事が始まると、胃の粘膜から胃液が分泌されます(1回の食事に500~700mlほど)。

胃液には強い酸性の「胃酸」が含まれており、食べ物の消化を助けたり、殺菌したりする役割があります。

胃の内面は粘膜で覆われており、粘液が分泌されています。

これは強い酸性の胃酸によって胃そのものが消化されてしまわないように保護するのに役立っています。

食べ物が送り込まれた胃は、グネグネと波打つように動き始めます。この動きを蠕動(ぜんどう)運動といい、これによって食べ物と胃液が混ぜ合わさり、ドロドロになった食べ物が十二指腸に送り出されていきます。

そうして、3~6時間後には胃が完全に空になります

お腹がすくと胃がグーグー鳴りますよね。
これは、次の食事に備えて胃を空にするために胃の残りカスや空気が十二指腸に送り出される時の音なのです。

胃の不調

食べ過ぎや飲み過ぎで胃もたれが続いたり、精神的なストレスを感じた時に胃がキリキリ痛んだり、そういった経験がある人も多いのではないでしょうか。

自律神経にはアクセルである「交感神経」ブレーキである「副交感神経」バランスを保ちながら内臓を働かせる役割があり、胃の働きもこの自律神経によってコントロールされています。

しかし、ストレスなどによって自律神経のバランスが崩れると、この働きがうまくいかず、胃酸が出すぎたり、胃粘膜を保護する力が弱まったりします。

その結果、強い酸性の胃酸が自らの胃粘膜を荒らし、ただれや炎症を起こしてしまうのです

胃の不調と一言でいっても原因や症状はさまざまで、中には治療が必要なものものありますので、症状が長く続いたりいつまでも改善しない場合は原因をはっきりさせることが必要です。

胃におこりやすい症状

胃痛

胃の痛みは「キリキリした痛み」「差し込むような痛み」と表現されるように、鋭い痛みが特徴です。
胃の粘膜が刺激を受けたり傷ついたりした時に感じる痛みで、みぞおち(心窩部)付近に感じることが多く、場合によってはおへその周囲が痛むこともあります。
主な原因として、胃炎、胃アニサキス症、急性胃粘膜病変、胃潰瘍、胃穿孔(いせんこう)、胃がんなどがあります。

胃もたれ

胃の中のものがなかなか十二指腸に送られず、食べたものが長時間胃に溜まっているために起こります。
胃の内容物を十二指腸に送り出す働きが弱くなると、いつまでも胃の中が充満したような重苦しい感じが続きます。
その他、一度にたくさん食べたり脂っこいものを食べると消化が追いつかず、胃の中にとどまる時間が長くなります。

胸やけ

胸のあたりが焼けるようにヒリヒリした感覚や痛みを感じるものをいいます。
これは、逆流した胃液で食道がただれることによって起こる症状です。
呑酸(どんさん)という酸っぱいものがこみ上げるような症状を伴うこともあります。

早期満腹感

胃は食べた物の量に合わせて伸びて膨らむことができますが、胃の働きが弱まって胃の伸びが悪くなることがあります。
そうすると、胃の中に溜め込める量が少なくなり、すぐに満腹になってしまうのです。

げっぷ(おくび、曖気=あいき)

げっぷは食べ物と一緒に飲み込んだ空気が口から抜け出るもので、自然な生理現象のひとつです。
しかし、頻繁に起こる場合は、食べ物と一緒にたくさんの空気を飲み込んでしまっている可能性があります。
しゃべりながら食べることや早食いなどは空気を飲み込みやすくなりますので、こういった食べ方に注意するなどの工夫で改善することがあります。
それでも症状が続く場合には、胃腸の働きが弱まっている可能性も考えられます。

主な疾患

胃炎・胃潰瘍

胃の粘膜から分泌されている胃酸によって、自らの胃粘膜が傷つけられて炎症を起こしたものを胃炎、粘膜の一部分が溶かされて欠損してしまった状態を胃潰瘍(いかいよう)といいます。

通常、胃の内側は胃酸の強い酸から守るために粘液で保護されていますが、この粘液の分泌が不足すると胃粘膜にダメージを受けやすくなります
突然の激しい痛みやむかつきが主な症状です。
また、傷が深くなり胃壁の血管が傷つくと出血し、吐血、下血、貧血などを起こすこともあります。
さらにひどくなると、胃壁に穴があく胃穿孔(いせんこう)、胃の外にまで炎症が及ぶ腹膜炎を起こし、早急な対処が必要になります。

急性胃炎

急性胃炎は、突然みぞおちに刺し込むような痛みや吐き気、嘔吐があったり、場合によっては胃の中で出血することもあります。
正常な胃は、消化を助ける胃酸と、胃粘膜を保護する胃粘液の分泌のバランスが取れていて、胃を荒らすことなくしっかりと消化機能を果たすことができます
しかし、胃酸の分泌が多くなったり(胃酸過多)胃粘液の分泌量が減ってしまったりすると、胃粘膜へのダメージが大きくなります。
このようなことが起こると、胃粘膜のただれ(びらん)炎症、さらに傷が深くなると潰瘍を形成することがあります。
急性胃炎を起こす原因としては、ストレスによって自律神経のバランスが乱れる食べ過ぎ飲みすぎ飲酒や喫煙NSAIDs(エヌセイズ=非ステロイド性抗炎症薬)の副作用などが挙げられます。

慢性胃炎

一方で、これといった原因が思い当たらないのにもかかわらず、胃の不調がすっきりせず長く続くものを慢性胃炎といいます。
慢性胃炎の主な原因として考えられているのが、ヘリコバクターピロリ菌(通称、ピロリ菌)です。
ピロリ菌は胃の粘膜に住み着く細菌で、長い期間をかけて胃粘膜の荒れや炎症を繰り返し、胃潰瘍や胃粘膜の萎縮の原因にもなります。
さらには胃がんの原因であるとも考えられ、胃がんになった人の95%がピロリ菌に感染していたという報告もあります。
ピロリ菌に感染するのは幼少期がほとんどで、その時は症状がないので本人も気が付きません
成人してから感染することは非常にまれであるといわれています。
まだ上下水道が整備されていなかった時代に井戸水を飲んだことや、大人から子どもへの食べ物の口移しで感染したと考えられています。
検査方法は、検査薬を服用して呼気を調べる・血液や尿、便の検査などの方法があります。
ピロリ菌の感染が分かった場合は、決められた期間、薬を服用することで除菌する治療を行います。

機能性ディスペプシア(FD)

近年、比較的新しい疾患として知られるようになりました。
胃の不調が長く続くにもかかわらず、検査では胃がんや胃潰瘍などの明らかな原因が見つからない場合に診断されることが多い疾患です。
胃もたれ、早期満腹感、胃痛などの胃の症状が長く続くことが特徴です。
胃の働きの異常によって症状を起こすもので、その背景には生活習慣の乱れ、自律神経のバランスの崩れ、ストレスなどが隠れていることもあります。

胃下垂(いかすい)

「食後にお腹がポッコリ飛び出す」「食後すぐ便意をもよおす」「いくら食べても太らない」
こういった特徴があると、周りの人から胃下垂だと言われることがあるかもしれません。
胃下垂は、胃の周りにある脂肪や筋肉が少ないために、食事によって重くなった胃を支えられずに胃がだらんと伸びて垂れ下がり下腹部がポッコリ出るものです。
やせ型で腹筋の弱い人がなりやすいものですが病気ではありません。特に症状がなく、問題ない場合も多くあります。
「胃下垂になるとやせる」というのは俗説で、もともとやせ型の人に起こりやすい現象です。
また、胃下垂によって、胃アトニー(胃の働きが弱くなる)という状態になると、腹部膨満感食後のむかつきなどの症状が現れることがあります。

胃アニサキス症

魚介類に寄生する「アニサキス」の幼虫が原因で起こる食中毒です。
アニサキスが寄生している魚介類を冷凍や加熱が不十分な状態で食べると、幼虫が生きたまま胃に入り胃壁に噛みついて潜り込んでいこうとします。
その結果、食後数時間~十数時間後に突然、みぞおちの激しい痛みや嘔気、嘔吐が起こります。
この痛みは、アニサキスが胃壁に刺入する時の物理的な痛みだけでなく、アレルギー反応も関連しているという説もあります。
胃カメラで確認しながら、胃壁に食いついている虫体を1匹ずつ摘まみ取る処置が行われます。

胃食道逆流症

通常は、胃の入口にある筋肉は逆流しないように固く閉じていますが、加齢などによって筋肉がゆるみ、胃の内容物が食道に逆流してしまうことがあります。
食べすぎ、早食い 妊娠、肥満、満腹の時の姿勢などによっても同じように逆流が起こることがあります。

逆流性食道炎

胃の粘膜は、自らの胃酸で溶かされてしまわないように粘液で保護されていますが、食道にはもともとそのような機能は備わっていません。
胃の内容物が食道に逆流することによって、食道の粘膜がただれてしまったり(びらん)、炎症を起こすものをいいます。

バレット食道

胃の逆流を頻繁に繰り返しているうちに、食道の粘膜が胃の粘膜のようになってしまうことがあります。
そうなると、食道がんの発生率が高まるといわれています。

非びらん性胃食道逆流症

食道の粘膜にびらん(粘膜のただれ)はないものの、知覚過敏によって少量の逆流でも胸やけを感じるものをいいます。
若い人、女性、やせ型、ストレスを感じやすい人に多いといわれています。

胃の不調の対処法

胃の不調の予防や改善のためには、胃に負担をかけないことが鉄則です。

食事

  • ゆっくりよく噛んで食べる
  • 満腹は避けて腹八分目を心がける
  • 食後は30分ほどゆっくり休む
  • だらだら食べず規則的に3食食べる
  • 刺激物(辛いものや濃いコーヒーなど)を摂りすぎない

生活習慣

  • 規則正しい生活リズム
  • 禁煙、節酒
  • 適度な運動をする
  • 正しい姿勢を保ち、腹部の圧迫を避ける
  • 腹筋をつける
  • ストレスへの対処
  • NSAIDsをはじめとする薬剤の使用は医師や薬剤師の指示を守る

胃から食道への逆流を起こしている場合は、食道のただれを軽減させるために胃酸の分泌を抑える薬をメインで使います。

それと同時に、胃からの逆流を起こしやすい食習慣を改善することも重要です。

消化のよいもの(胃の滞在時間が短いもの)をゆっくり食べる、満腹を避ける、食後はすぐに横にならないなどの工夫によって症状の悪化を防ぐこともできます。

また、症状が長く続く場合や急激に症状が現れた場合は治療が必要なことがありますので、医療機関を受診して原因をはっきりさせることが必要です。

おわりに

胃の健康は、私たちの生活の基盤ともいえます。

食との関わりの深い臓器ですが、一方でストレスや生活習慣の影響を受けやすい臓器でもあります。

日頃の生活のちょっとした心がけや工夫で胃をいたわり、いつまでも健康な胃で美味しい食事を楽しめるといいですね。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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