【読み始める前に】
低血圧は、高血圧のように血管を傷めるような心配もなく、よほど生命を脅かすほどの低さでない限り医学的に問題視されることはありません。
しかし、体の各所に必要な酸素や栄養を届けたり、老廃物を回収するためにはある程度の血圧が必要です。
また、高血圧ではあまり自覚症状がないのに比べて、低血圧の場合はさまざまな苦痛症状を伴い、日常生活に支障をきたすこともあります。
そのようなつらい低血圧が少しでも改善できるよう、対処法を考えていきましょう。
もくじ
血圧とは
血圧とは、「血管の中を流れる血液が血管の壁を押す圧力」をいいます。
心臓から送り出された血液は、逆流することなく常に一方通行で全身の血管を巡り、また心臓に戻ってきます。
心臓から出た血液は、動脈(行き) →→→ 体中の毛細血管(折り返し地点) →→→ 静脈(帰り)のルートで循環し続けていますが、その中でも(行き)にあたる動脈には、心臓のポンプから全身に向けて送り出されたばかりの血液が流れるため、その分強い圧力がかかることになります。

①心臓の下部分「左心室」が握りつぶされたような形に変形しています。
これを収縮(しゅうしゅく)といい、この動きによって左心室に溜まっている血液が動脈に押し出され、全身に向かって勢いよく出発します。
②収縮した心臓は、今度はすぐに元の形に戻ります。
これを拡張(かくちょう)といい、同時に上部分「左心房」で待機していた血液が下部分の「左心室」に流れ込みます。
この時、動脈には圧はかからず、流れる血液はゆるやかとなります。
心臓の「ドクン」という1拍の間に、この①と②が続けて素早く行われているのです。
ところで皆さんは、自分自身の脈に触れたことはありますか。
皮膚の上から触れることができる動脈は全身に何か所かありますが、一番簡単なのは手首にある「橈骨(とうこつ)動脈」です。

手のひらを上に向け、手首の親指側を探ると、ドクドクと脈打っている箇所が見つかると思います。
分かりにくい人は、少し深いところにあるのかも知れません。
だいだい1秒ごとのペースでドクン、ドクンと動いているのが分かると思います。
これは、心臓が収縮した瞬間に押し出された血液が、血管を膨らませながら波のように動脈の中を移動しているためにおこります。
その膨らみがちょうど手首の動脈を通過したときに、脈として触れるのです。
この膨らみが通過する瞬間=「ドクン」と触れる瞬間には、その部分の血管の壁に最も強い圧力がかかっています。
一方で、脈と脈の間に何も触れない瞬間がありますが、この時は心臓が拡張した瞬間のゆるやかな血液が流れているのです。
この時、血管にかかる圧力は最も弱くなります。
血圧を測る時は、この「最も強い圧力」と「最も弱い圧力」を測定しています。
例えば、血圧が 110/60 mmHg の場合
110 「最も高い圧力」上の血圧 収縮期血圧 最高血圧
60 「最も弱い圧力」下の血圧 拡張期血圧 最低血圧
というふうに解釈します。
3.低血圧とは
低血圧には明確な基準があるわけではなく、上の血圧が100を切って2ケタになると低血圧とされる場合が多く、90~80以下となるとめまいやふらつきなどの症状が出やすくなります。
低血圧には次のようなタイプのものがあります。
本態性低血圧(一次性低血圧)
一般的にいう低血圧のうち約80%がこちらに分類されます。
本態性とは「明らかな原因がない」という意味で、遺伝や体質、性別(女性)などが関係していると考えられています。
治療を必要としない場合がほとんどです。
症候性低血圧(二次性低血圧)
疾患が原因で低血圧が起こるものです。
原因となるものには、心疾患、内分泌の異常、栄養不良、脱水症、薬剤の副作用などがあります。
血圧を上げるためには、原因となっている疾患の治療が必要となります。
これらは、普段から血圧が低い「慢性低血圧」に分類されます。
また、いつもは低血圧ではないのに、何らかのきっかけで一時的に急に血圧が下がる「急性低血圧」もあります。
起立性低血圧(いわゆる脳貧血)
急に立ち上がったり長時間立ちっぱなしの状態の時、重力の関係で心臓に戻る血液が減り、血圧が下がった結果、脳に届けられる血流が少なくなってめまいや立ちくらみなどがおこるものを言います。
体調を崩すなどして寝ていた期間が長く、久しぶりに立ち上がるような場合にも起こりやすくなります。
ゆっくり起き上がり、しばらく座った姿勢をとって血流が安定してから立ち上がるなど、段階を踏みながら立ち上がるようにすることで予防できることもあります。
食事性低血圧
食後に起こる一時的な低血圧です。
高齢者や自律神経の働きが弱っている人に起こりやすくなります。
食べた物を消化するために血液が胃腸に集中することで心臓に戻る血液が少なくなり、低血圧となります。
胃腸への血液の集中を穏やかにするために、ゆっくり食べる、腹八分目にする、食後はすぐに立ち上がらずにしばらく休むなどの対処が必要です。
医療的な対処が必要な急性低血圧
大量出血や不整脈、心疾患などによる低血圧(ショック状態)、アレルギーによる低血圧(アナフィラキシーショック)、急性アルコール中毒による低血圧などがあります。
次のような低血圧は体に異常が起こっている可能性がありますので、医療機関を受診してください。
- 上の血圧が70以下まで下がる
- 普段の安静時の血圧よりも30以上低い
- 冷や汗が出る、脈が速くなる、意識が遠のくなどの症状がある
- ふらつきやめまいなど、生活に支障をきたすほどの症状がある
4.血圧が下がるメカニズム
血圧を左右する条件に「血液の量」と「血管の状態」があります。
水道の蛇口についたゴムホースに例えて考えてみるとイメージがしやすいかも知れません。

「血液の量」について
例えば同じ太さのゴムホースに水を流す場合、少量の水であればチョロチョロ流れますが、蛇口を全開にして水を出すとホースの先から勢いよく水が噴き出します。
血圧も、この水圧と同じことです。
血液の量が減ると、その分心臓から押し出される血液の1回量も少なくなりその結果、血管を流れる勢いが弱くなる=血圧が下がるのです。
ところで、どうすれば血液の量が増えるのでしょうか。
そのカギを握るのが「塩分」なのです。
塩分は体内の電解質バランスを保つのに必要なミネラルですので、食事で摂取した塩分は、栄養として血管の中に取り込まれます。
しかし、その塩分が多すぎると、血液の塩分濃度が上がりすぎないように、水で薄めようとする働きがおこります。
血管の中に水が引き込まれ、結果として血液の量が増えるというわけです。
塩分の多いものや味付けの濃いものを食べるとのどが渇くのはそういった理由からです。
ただし、血圧を上げるためにやみくもに塩分を摂取するのではなく、栄養バランスの取れた食事と十分な水分摂取が一番です。
「血管の状態」について
これは、血管の抵抗を表しています。
同じ量の水を流そうとした時、太いホースと細いホースでは、細いホースのほうが水が噴き出す勢いが強くなります。
血管も同じように、血液の通り道が広くなると、その分血流の勢いが弱くなる=血圧が低くなるというわけです。
血管の太さはその部位によって違い、その部位の血流の強さに耐えうる太さになっており、さらに血圧が維持できるように、自律神経によって血管の太さが微調整されています。
しかし、その神経がうまく働かなくなると、血管の収縮が不十分となり、血流の勢いがなかなか強まらずに低血圧となってしまうのです。
血圧に影響を及ぼすもの
血圧は常に一定というわけではなく、活動に合わせて必要な血液が全身に送られるよう調整されています。
起床後から日中にかけて活動するにつれ上昇していき、今度は夕方から夜にかけて下がり、就寝中に一番低くなるのが通常で、一日の中でも10~20mmHgの範囲で変動しています。
といっても、なだらかにゆっくり変動するのが理想的で、急激な血圧の低下めまいや立ちくらみなどを起こしてしまうことになります。
「低血圧の人は朝が弱い」というのはこういうことで、血圧が低い朝は特に、活動しようと思っても体がそれに応えられないのです。
低血圧の対処法
適正な血圧を保つためには、まず、規則正しい生活と、十分な栄養と水分を摂ることです。
健康的で規則正しい生活を送ることによって自律神経を整えることができます。
適度な運動
血流を上げて血圧を適正に保つためには有酸素運動が効果的です。
激しい運動や息をこらえるような運動は心身への負担がかかりすぎてしまうことがありますので、少し息が上がるくらいの運動を最低30分以上続ける運動がおすすめです。
食事と水分
体に必要な栄養と水分を摂ることによって、血液量を適正に保つことができます。
また、3食しっかり食べることや朝起きた時にコップ一杯の水分を飲むことで、胃腸を刺激して体を活動モードに切り替えることができます。
体を温める
体を温めると、全身の血流を良くなります。
衣類で調節する、冷えやすい足元を温める、暖かい飲み物を飲む、ゆっくり入浴するなどの方法も効果的です。

おわりに
低血圧は、めまいや疲れやすいなどといったつらい症状を伴い、日常生活に支障をきたすこともあります。
さらにはふらついて倒れてしまったりなど、身の危険を及ぼす場合もあります。
ですが、なかなか良い治療法がなく、不調を抱えながらも半ばあきらめて日々過ごしている人も多いのではないかと思います。
生活習慣を変えることによってある程度は症状を改善できる場合もありますので、もしできそうなことがあれば一度試してみはいかがでしょうか。
最後までお読みくださりありがとうございました。