記憶力の低下とその対処法

読み始める前に】

「顔は思い浮かぶのに名前が出てこない…」
「○○という漢字はどう書くんだっけ…」
「今、何を話そうとしていたのか忘れてしまった…」
「あ、そうだ。○○を頼まれていたんだった。」

このように、うっかり忘れてしまったりなかなか思い出せなかったりしたことは、皆さんも経験があるのではないでしょうか。

これは記憶をしまい込んである脳の引き出しを開けるのに手こずっている状態で、ずいぶんと時間が経ってから何でもないタイミングでふと引き出しが開いて思い出したりもします。

それだけでなく、記憶力は年齢とともに低下していきます。

新しいことを覚えることが苦手になったり、忘れやすくなったり、思い出すのに苦慮したり、そういったことが増えてきます。

しかし、記憶を引き出しにしまい込むことができなくなるタイプのもの忘れとなると少し心配な場合もあります。

このもの忘れについて詳しく学んでいきましょう。

もくじ

「もの忘れ」のタイプとその違いとは

もの忘れと聞いて、まず思い浮かぶのは「認知症」というキーワードではないかと思います。

認知症と一言で言っても種類がいくつかあり症状もさまざまですが、その中でも代表的な症状がもの忘れです。

もの忘れには、老化による自然なもの忘れと、認知症による病的なもの忘れがあります。

老化によるもの忘れは、個人差こそあれ誰にでも起こりうることですので問題ないケースがほとんどです。

しかし、認知症によるもの忘れとなると早めの対処が必要になることもあります。

この2つのタイプのもの忘れがどう違うのか、例をあげて比較してみましょう。

(例)昨日の夕食のメニューは何でしたか?
老化  何を食べたか思い出せない。焼き魚だったのは昨日かな、おとといかな。
認知症 昨日の夕食を食べた記憶がない。

(例)今朝、会った人の名前は?
老化  名前を聞いたのに忘れてしまった。顔は思い出せるんだけどな…
認知症 そのような人とは会った覚えがない。

(例)洗濯機が止まっている(洗濯が終わっている)
老化  しまった、うっかり洗濯を干すのを忘れてしまった。
認知症 洗濯をしていたことも覚えていない。

これらのように、老化によるもの忘れであれば体験の一部を忘れているけれども体験そのものは覚えているのですが、認知症によるもの忘れ体験したことを丸ごと忘れてしまうのが特徴です。

記憶とは

記憶は脳の中心あたりに位置する「海馬(かいば)」という部分が担っています。

形がタツノオトシゴに似ているので、この名前が付けられたようです。

海馬はいわば情報の窓口で、入ってきた情報を「記憶する」「記憶しない」で仕分け、短期間(数秒~数十秒)保管する役割を担っています。
その後、「記憶する」情報は大脳皮質に長期間(ほぼ永久的に)保管され、「記憶しない」情報は削除されます。

認知症のタイプ

認知症には、大きく分けて次の4つのタイプがあります。

  • アルツハイマー型
  • 脳血管性
  • レビー小体型
  • 前頭側頭型

それぞれ機序や症状に特徴がありますが、このうち「記憶力の低下」が特徴的な認知症はアルツハイマー型認知症です。

アルツハイマー型認知症は、脳に「アミロイドβ(ベータ)」「リン酸化タウ」といったたんぱく質がたまり神経細胞の壊死脳の萎縮が進む進行性の病気です。

脳の萎縮海馬から始まり、やがて脳全体に広がっていきます。

まずはじめに現れる症状は、もの忘れです。

アルツハイマー型認知症は、早期発見、早期治療により進行を遅らせることができる病気です。

近ごろ何だかおかしいなと気づいてから早めに受診して検査、診断を受ければ早めの治療につながりますが、そう簡単にいかないことが多いのも現状です。

早期発見・早期治療のために

もの忘れが多くなると、実は周囲が気づくよりも先にまず自分自身が自覚していることが多くあるのです。

しかし、日常生活に支障がなく、自分自身でメモを取るなどの工夫をしながらもの忘れをカバーできるため、周りの人も気づかなかったり、まだ大丈夫だと捉えてしまうのです。

また、年のせいだと自分に言い聞かせて不安をかき消そうとしたり、認知症の始まりだと認めたくない、信じたくないという思いから事実と向き合えなかったり、認知症とはっきり診断されるのが怖くて相談できないなど、さまざまな悩みや葛藤を一人で抱えながら日々を過ごしていることも多々あります。

しかしアルツハイマー型認知症は進行性の病気です。

徐々に症状が悪化していき、1~2年ほど過ぎると次のような症状が目立つようになり、周囲の人も気づき始めます

  • 同じことを何度も言う
  • 同じ質問を何度も繰り返す
  • 新しいことを覚えられない
  • 今までできていたことを忘れてしまう
  • よく探し物をしている
  • 鍋を焦がしたり火を消し忘れてしまう
  • 通い慣れた道に迷う
  • どこに置いたか忘れてしまう

など、このような症状に心当たりがあれば、まずは認知症かどうかの診断を受けましょう

専門は、神経内科精神科になりますが、最近では「認知症外来」「もの忘れ外来」など認知症に特化した診療科もあります。

問診、簡易認知機能テスト(MMSE、HDS-R、CDRなど)やMRIなどの画像検査によって診断されます。

また、認知症と診断されると内服薬が処方されることもあります。

認知症の予備軍とも言われる軽度認知障害(MCI)の段階では、まだ発症を食い止めることができる可能性があります。

早期発見、早期対応によって、発症を遅らせることができます。

もの忘れがある人への対応

記憶力が低下すると、新しいことを覚えることが難しくなり、特に、数秒から数分前の出来事を忘れてしまうのです。

短時間の間に何度も同じことを言ったり繰り返し尋ねるのは、そういった理由からです。

本人にとっては「さっきも聞いた」ことの記憶がないため「毎回初めて」であり、「返事を聞いて安心する」のですが数分のうちに忘れてしまい「返事を聞いて安心したい」ために何度も同じ質問を繰り返すのです。

また、新しいことを覚えることが難しくても、何十年前の昔の記憶は残りやすいという特徴もあります。

高齢の人が、バリバリ働いていたり家庭を切り盛りしていた若い頃にタイムスリップしたような話をするのはそのためです。

実際には80歳代でも、その人にとっての「今」は子育てをしている30歳代の頃であり、子どもが学校から帰るのをまだかまだかと待っていることもあります。

間違いを正す必要はなく、その人の話しを受け入れて「そうだね、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」などと同じ目線に立って話すことも一つの方法です。

正しい答えが必要なのではなく、分からないことからくる不安を軽減できる「その場その場での安心感」が求められているのです。

おわりに

現在、65歳以上の人の15%が認知症であり、予備軍を合わせると30%の人が当てはまるといわれています。

そのうちの多くは「記憶力の低下」から始まりますが、初期の頃は認知症の始まりなのか、年齢のせいなのか、判断が難しいこともあります。

認知症は、早期発見、早期治療によってある程度進行のスピードを遅らせることもできます。

そのためには、近くにいる家族や友人などの「いつもと違う」という直感が頼りになります。

きっと本人も悩みや不安を抱えているはずですので、その気持ちを受け止めて寄り添ってあげられるといいですね。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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