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ウエルシュ菌を聞いたことがあるでしょうか?
ウエルシュ菌は食中毒を引き起こす病原菌の一種なのですが、
今回はウエルシュ菌について詳しく解説いたします。
具体的には、
- ウエルシュ菌とは?
- ウエルシュ菌の除菌・治療方法
- ウエルシュ菌の感染事例
についてご紹介します。
ぜひ、参考にしてみてくださいね。
もくじ
ウエルシュ菌とは?

ウエルシュ菌は、サルモネラ菌などと同じように食中毒を引き起こす病原菌です。
ウエルシュ菌について以下の項目で解説します。
- ウエルシュ菌の特徴
- ウエルシュ菌の感染経路
- ウエルシュ菌に感染したときの症状
それぞれについて深堀していきます。
1.ウエルシュ菌の特徴
ウエルシュ菌は長さが3~9µm、幅0.9µm~1.3µmで非運動性のグラム陽性大桿菌です。
嫌気性なので、酸素のないところでも増殖することができ、ヒトや動物の大腸内や、下水、河川、海、耕地など広くに分布しています。
ウエルシュ菌の食中毒は、エンテロトキシン産生性のあるウエルシュ菌(下痢原性ウエルシュ菌)が大量に食品内で増殖し、食べることによって腸管内でエンテロトキシンが産生・放出され食中毒が起こります。
ウエルシュ菌は産生する毒素の種類(α、β、γ、ι)の種類と産生量によってA~E型に分けることができます。
この中で、A型のウエルシュ菌が食中毒を引き起こします。
「芽胞」を形成することができ、芽胞は100℃・4時間の熱にも耐えられるので、酸素の少ない鍋底近くで増殖することができます。
2.ウエルシュ菌の感染経路
ウエルシュ菌による食中毒の感染経路は、主に大量の食事を取り扱う給食施設や仕出弁当、旅館、飲食店があります。
原因となる食品には、以下のようなものがあります。
- スープ
- 肉団子
- チャーシュー
- 肉の入った煮物(シチューやカレー)
これらの食品はグルタチオンなどの還元物質がたくさん含まれているので、食品は嫌気状態になりやすいことからウエルシュ菌の汚染率が高くなります。
3.ウエルシュ菌に感染したときの症状
ウエルシュ菌感染の主な症状は、軽い腹痛と水様性の下痢です。
下痢の回数は1日1~3日回で済むものが多く、水様便と軟便がでてきます。
潜伏期間は汚染された食品を食べてから通常6~18時間で、それ以降に発病することはありません。
腹部膨満感を生じることがありますが、嘔吐や発熱が起こることはほとんどなく、症状は一般的な感染症に比べて軽く1~2日で回復します。
ウエルシュ菌の予防・治療方法

ウエルシュ菌の予防・治療・除菌のそれぞれの方法について解説します。
予防方法
ウエルシュ菌による食中毒は、1g当たりの食品に10万個以上に増殖した食品を食べることによって発症します。
ですので、基本的に予防方法は食品中での菌の増殖防止になります。
原材料の野菜にはウエルシュ菌が芽胞を形成している可能性があるので、洗浄し除去しします。
加熱調理後の食品は急速に冷却し、低温で保存し、食べる際は、十分に再加熱を行います。
大規模な大量の調理に発生する可能性が高いので、大規模な料理の前日調理や室温放置は避けるようにします。
近年では、食生活の変化により大規模調理の増加、流通形態の変化に伴い、食中毒の増加が危険視されているので、予防に対する再認識が必要になります。
治療方法
治療方法は、特別なものはありません。
主に「対処療法」を行い、多くの場合は、1~2日で回復します。
抗菌薬を投与することはありません。
下痢止めは病原菌を排除するための体の作用を止めることになるので、飲まないように気をつけましょう。
脱水症状にならないように水分補給を十分に行い、安静に保つことが具体的な治療法になります。
ウエルシュ菌の感染事例

日本でのウエルシュ菌による食中毒件数は年間20~40件ほどで、それほど多くありません。
しかし、1件あたりの平均患者数は83.7人で、他の細菌性食中毒に比べて患者の数が高い傾向にあり、大規模な感染事例が多いのが特徴的です。
今回はそんな感染事例の少ないウエルシュ菌の感染事例についてご紹介します。
東日本大震災の避難所で提供された鶏肉煮込み料理による感染事例
2011年6月、東日本大震災後の福島県田村市の避難所で、炊き出しを食べた118名のうち69名が下痢や腹痛が発症しました。
9人の患者の便と、炊き出しで提供された鶏肉煮込みからウエルシュ菌が検出されました。
気温が上がる6月は菌が増殖しやすいことと、大量に調理したこと、調理後常温で放置し食べるまでに時間がかかったことが原因で、ウエルシュ菌が増え食中毒に繋がったことが考えられます。
これにより、加熱調理した料理の避難所での管理方法について注意を呼びかけられました。
また、ウエルシュ菌は土壌に広く分布することから、震災や後の復旧作業で伴うケガや傷口からの感染も報告されています。
他にも、熊本地震後の熊本市の避難所でおにぎりを食べた34人が嘔吐や下痢の症状がでて、21人が入院しましたという感染事例もありました。
この感染での原因となった病原菌は「黄色ブドウ球菌」でしたが、このように災害後の避難所での食事の衛生管理は問題視されています。
高齢者福祉施設でのウエルシュ菌による集団食中毒事例
2016年1月7日、堺市内高齢者福祉施設で多くの利用者が下痢などの食中毒を発症しました。
患者6名の便と1月5日に提供された夕食の保存食であった「鶏と根菜の煮物」からウエルシュ菌が検出され、食事をした202名のうち、66歳~101歳の95名が食中毒の症状となりました。
ウエルシュ菌以外にノロウイルスも検出されましたが、ノロウイルス食中毒に多い嘔気や嘔吐・発熱などの症状が少なく、ほとんどの患者が下痢や腹痛の症状でした。
「鶏と根菜の煮物」の製造工程において、加熱調理終了から食事に至るまでに3時間30分間も加温状態とされていたことから、発症要因として加熱調理終了から食事までの温度管理や患者が全て高齢者で免疫抵抗力の低い集団であったことが考えられました。
この感染事例により、調理業務を受託している給食事業者に対して3日間の営業停止処分を行い、再発防止のために施設での食品の取り扱いなど衛生指導が実施されました。
まとめ
今回は、「ウエルシュ菌」についてご紹介しました。
ウエルシュ菌の症状は下痢などで他の感染症に比べて軽い症状ですが、カレーや肉料理といった身近な料理に潜んでいる菌です。
芽胞をつくると100℃で4時間加熱しても死滅しないことから「加熱すれば大丈夫。」といったような菌ではないことに気を付けてください。
特に、夏場の暑い時期などの食品管理は要注意です。
ぜひ、参考にしてみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
暑いときだけではないようですね。
埼玉県は25日、同県上尾市の中学5校の生徒700人と教員18人が17日以降、腹痛や下痢の症状を訴え、給食が原因の食中毒と断定したと発表した。重症者はいない。生徒らの便からウエルシュ菌が検出され、保健所が原因となったメニューの特定を急いでいる。
対症療法である下痢止めを使わない方がいいというのは患者に取ってつらいですね。上記記事は翌日が高校受験日なので大変。
毒素を作成するものの、ウエルシュ菌は体内で増殖することなく死んでしまうので、重症化はしないと思ってよろしいでしょうか。