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もくじ
1.はじめに
「しっかり運動して、食事にも気をつけて」とお医者さんから言われた経験はないでしょうか。
心疾患をお持ちの方は、そういった経験が多いかもしれません。
運動をするにしても何をどれくらいすればいいのか、食事も何に気をつければいいのか、と戸惑うことも多いと思います。
今回この記事では、心疾患の運動と食事について詳しくご紹介していきます。

2.心疾患とは?
心疾患には、心筋梗塞、狭心症、心不全、不整脈などの病気が当てはまります。
一般的に、心疾患の基盤には、動脈硬化という病態があるといわれています。
動脈硬化とは、血管が硬くなってしまった状態です。
血管はもともとゴムチューブのようなものですが、動脈硬化が起こると水道管のように硬くなってしまいます。
その結果、血圧が上がったり、心臓に血液が届きにくくなったり、体力が無くなって息切れがしたりします。
3.なぜ運動と食事が重要なのか?
ここでは、運動と食事の重要性について説明していきます。
なぜ、心疾患の方には運動と食事が必要なのでしょうか。
1つ1つ説明していきます。
(Ⅰ)運動
心疾患になって運動をしないと、体力がどんどん落ちていきます。
すると、日常生活でも息切れが生じたり、しんどいと思ったりすることが増えていきます。
これでは日常生活を楽しく過ごせなくなります。
運動をすることによって、体力を維持または向上していきます。
また、運動には血管拡張作用があるため、動脈硬化を改善してくれます。
血管から直接分泌される一酸化窒素という物質のおかげです。
結果的に、血圧が低くなったり、心臓が強くなって体力がついたりします。
つまり、運動をした方が日常生活は楽になるのです。
運動を全くしないよりも、運動を継続している心疾患の患者さんの方が、死亡率が低くなるということも研究でわかっています。

(Ⅱ)食事
塩分制限が必要になってきます。
塩分制限は血圧管理のためです。
塩分を摂りすぎると血圧が上がり、それだけ心臓への負担が大きくなります。
また、身体中に水分が溜まりやすくなり、むくみや倦怠感の原因となります。
そして、たんぱく質の摂取も重要です。
栄養不良の状態で運動するのは危険です。
運動をして体力をつけるためにも、たんぱく質の摂取は大切になってきます。

4.心疾患の運動療法と食事療法
ここでは、運動療法と食事療法の具体的な方法についてご紹介していきます。
簡単に実践できる内容になっているので、ぜひ参考にしてみてください。
(Ⅰ)運動療法
散歩が適しています。
ランニングや筋トレを想像されていたかもしれませんが、散歩で充分な運動量です。
20分以上の散歩を週3回するようにしましょう。
歩くスピードは、鼻歌を口ずさめるくらいの楽な速さで大丈夫です。
散歩は、有酸素運動です。
鼻歌を口ずさめるくらいのスピードで、ちょうど良い負荷の有酸素運動になります。
有酸素運動は、心臓への負担が少ないこと、息切れや疲れが少ないこと、長時間続けられること、動脈硬化を改善することなどがいわれています。
心疾患のある方にとって散歩は、安全で最も効果的な運動になります。
15~20分以上運動をしないと有酸素運動になりにくいので、この時間を目安に散歩をしましょう。
また、頻度は週3回以上にしましょう。
無理に毎日散歩をする必要はありません。難しい場合は、週2回でも構いません。
注意点としては、散歩をする時に急に始めないことです。
急に運動を始めると、交感神経が優位になって心臓への負荷が急激に高まります。
散歩の前には軽くストレッチをするなど、準備運動をするのがいいでしょう。
また、しんどい場合は、歩くスピードを落としたり、歩く時間を減らしたりしましょう。
「息切れせず、疲れないくらいの運動」が重要なポイントです。

(Ⅱ)食事療法
軽症の心疾患の方は、塩分を1日あたり7g以下にしましょう。
味付けを工夫することで減塩できます。
症状が重い方は医師の指示で細かく変わってくるので、主治医に確認するようにしましょう。
たんぱく質は卵、肉、乳製品などから摂るようにします。
魚ではマグロが最適です。
栄養不良の状態で運動すると、逆効果になります。
プロテイン飲料なども販売されているので、しっかりたんぱく質を摂るようにしましょう。

5.症例
では、少し重度の方ですが、実際の患者さんの回復例をご紹介していきます。
心房細動と慢性心不全で入院された70代の女性の方です。
入院当初は日常生活もままならず、病室の中を歩くだけで息切れを生じていました。
主治医の指示の下、リハビリをしていきました。
リハビリは、主に軽い散歩を症状に合わせて続けていきました。
食事は、塩分制限とたんぱく質摂取、水分制限(医師の判断のもと、重症例のため1日1L未満)が設けられていました。
その結果、入院4カ月で、日常生活が普通にできるまでに改善しました。
退院の頃には、他の患者さんと笑顔で会話を楽しめるくらいに回復しました。
6.まとめ
心疾患の運動と食事についてまとめてきました。
症例は少し重度の患者さんでした。
今回の運動や食事に関しての内容は、あくまでも軽症の心疾患の方に対して当てはまるものです。
症状が重度な場合は、主治医の指示にしたがって無理のないように生活していきましょう。
7.参考文献
細田多穂・他:運動療法学テキスト改訂第二版、(株)南江堂、2015
細田多穂・他:内部障害理学療法学テキスト改訂第二版、(株)南江堂、2017
古川順光、田屋雅信・他:内部障害に対する運動療法―基礎から臨床実践まで―、(株)メジカルビュー社、2018
栢下淳、若林秀隆:リハビリテーションに役立つ栄養学の基礎、(株)医歯薬出版、2014