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2012年、京都・祇園で軽ワゴン車が暴走し、19人が死傷するという痛ましい事故がありました。
容疑者とされる運転していた男性も死亡のまま書類送検され、真相は不明です。
しかし、この男性がてんかんで通院中であったことから、運転中のてんかん発作による暴走とされています。
そもそも、てんかんとは何なのでしょうか?
https://www.sankei.com/west/news/130411/wst1304110022-n2.html
てんかん発作が原因、国も厳罰化へ 差別助長懸念する声も
てんかんとは
てんかんとは、脳内における過剰な電気信号によって、意識障害や痙攣などを発作的に起こす脳の慢性的な病気です。
痙攣と混同されがちですが、痙攣は収縮という動作をさすものであり、必ずしもてんかん発作=痙攣発作とはなりません。
てんかんにはいくつか種類がありますが、ここでは多くみられる、有名な発作の紹介をします。
強直間代発作
意識をなくし、手足を突っ張らせたり、がくがく振るわせたり、白目を向く、泡を吹くなどの全身性の発作です。
欠神発作
子どもに多い発作で、ぴたりと止まり、ボーっとしているように見え、呼びかけても何の反応もない発作です。数秒程度で意識も回復し、本人も気づいていない場合があります。
ミオクロニ―発作
顔や手足、体などの筋肉が一瞬ぴくっとひきつる様な発作です。
複雑部分発作
大人のてんかんで最も頻度が高い発作です。強直間代発作のような激しい震えはないものの、欠神発作よりも長い時間意識を失います。
このように、一言にてんかんと言っても、様々な症状を呈することがわかります。

てんかんと運転免許
2014年、てんかんと運転に関する新しい道路交通法が施行されました。
元々の道路交通法に規則が追加された形です。
<それまでの道路交通法>
運転免許の取得には、「運転に支障するおそれのある発作が2年間ないこと」が条件で、薬の服用の有無は関係ありません。
上記条件のもと、運転に支障するおそれのない発作(単純部分発作など)がある場合には1年間以上、睡眠中に限定された発作がある場合には2年間以上経過観察し、今後、症状悪化のおそれがない場合には、取得が可能です。
ただし、投薬なしで5年間発作がなく、その後も再発のおそれがない場合以外は、大型免許と第2種免許の適性はないものとされています。
今後6ヶ月以内に免許取得可能な状態に該当すると見込まれる場合には、免許が保留・停止となります。
<2014年6月以降追加された規則>
運転免許を取得または更新する場合には、質問票(過去5年以内に意識を失ったことがあるか、身体が一時的に思い通りに動かせなくなることがあったかどうかなど)に正しく答えてください。
一定の病気等に該当する(症状を有する)者であると警察が疑った場合、運転免許の効力が最大3ヶ月間停止される可能性があります。
病気が原因で免許取消になり、その後3年未満に免許取得可能な状態になった場合には、学科試験や技能試験を受けることなく免許を再取得することができます。
発作があり、運転中に事故を起こす危険を知りながらも、忠告を無視して意図的に運転を続ける場合には、診察した医師が警察に申告することができます。
一見、厳しくなったようにも見える規則ですが、てんかん発作を持病として患っていても、運転自体を禁止する法律はないのです。
そして、診断書などの提出も求められておらず、あくまで自己申告の状況が続いています。
てんかんと運転と患者

てんかん(発作)持ちの患者が運転免許を取ること自体は違法ではないことがわかりました。
運転免許交付(再交付)時の申告も自己申告であるのが現状です。京都祇園の男性運転手も申告をしていないまま免許を更新していたとして問題となりました。
筆者がリハビリ病院に入院していた際、車で通院されている患者さんがいました。直接話したことはなかったものの、見てわかる程度には麻痺の残っている方でした。
ある日病院前に救急車が止まり、騒ぎとなったことがありました。どうやら、その患者さんが運転中に発作を起こしてしまったようでした。幸い、誰にも被害はなく、患者さん自身も病院で治療を受け帰られたようでした。
患者同士の話なので詳細はわかりませんが、2度目の発作だよね、という話が聞こえました。
田舎の更に辺鄙な土地にあるリハビリ病院です。バスもなくはありませんでしたが、1日に数本、リハビリ開始の早朝の時間になるともっと本数も減る状況でした。
麻痺の残った体で、てんかん持ちで、リハビリのために運転…
筆者は当時10代の学生で、まだ2000年代でしたが、なんとも言えない複雑な気持ちになったのを覚えています。
そして数年後、てんかん持ちの方に再び出会いました。その方は所謂自動車、ではなく自転車に乗っていて発作を数回起していました。自転車も大きな分類では車に該当されるものです。
そして、車は運転はしないけれど、てんかん発作が2年以内に起きていると運転してはいけないことは知らない、とも言っていました。
自転車までを含めると、てんかん発作を患いながら運転されている方は意外と多いのではないのでしょうか…?
術後てんかんを起こした筆者の免許取得
筆者も、開頭手術を数回行っているのですが、一度だけ術後にてんかん発作を起こしたことがあります。
大きく頭を切り開いたことによる外傷性の刺激発作だったため、再発の危険はなしと判断されたものの、数年間抗てんかん薬を飲むこととなりました。
薬の服用を終えた後、人生で初めて運転免許を取りに行きました。
教習所に入所する際、紙面と口頭で発作について聞かれ、正直に既往があることを答え、外傷性だったため再発リスクが低いことを伝え、その後実際に発作もなく、薬も飲んでいないと答えると、あっさりと入所は認められました。
その後無事に教習を終え、10年以上発作もないまま過ごしています。
運転免許を取るにあたって、主治医に相談の上で「外傷性のため再発は低い」こと、「その後数年薬を飲んで発作もなく、断薬後も発作がない」ので大丈夫だろうという診断を受けて行きましたが、診断書の提示などは求められませんでした。
正直に言うと、診断書の提示くらいは求められるものだと思っていました。
車は鉄の塊です。てんかん発作持ちでもそうでなくても、責任を持って乗る必要のある乗り物です。
てんかん持ちは車に乗るな、とまでは言いません。ですが、てんかん持ちの方の運転の危険性について、もっと情報の周知は必要なのではないでしょうか?
【追記】
↓てんかんと自動車運転について、一般的に、自己申告で免許を受けることはできません。今回のケースは外傷性のてんかん発作の場合で、治療後発作が起こらないと判断されたため診断書の提示は求められなかったという内容になります。参考資料を下にアップしましたので気になる方はご確認ください。
てんかんと薬物治療

てんかんによると見られる事故は祇園のものだけではありません。
過去に数度、おそらくてんかん発作由来の自己であろうと思われるものがあったようです。
それでもてんかん発作を患っている方の運転免許取得が停止されないのはなぜなのでしょうか。
てんかんは、正しい治療を受ければコントロール可能と言われていることが大きな理由の一つにあります。
てんかんは診断の難しい疾患でもありますが、正しい治療と薬物治療を行い、患者自身も服薬や日常生活における注意事項を守ることができていれば、多くの場合で日常生活に支障を来さないようコントロールすることができる病気なのです。
抗てんかん薬はハイリスク薬にも分類され、薬剤師が服薬指導時に加算を申請する場合には様々な項目を確認する必要があります。
その項目には飲み忘れについてや、抗てんかん薬による眠気についても触れられています。
薬局での確認は難しいですが、血中濃度と呼ばれる、体の中の薬の濃度が保たれているかの確認も項目としてあげられます。
発作が起きていないから良いや、ではなく、きちんと飲み続けることが、てんかんのコントロールに繋がるため、医療者側と患者側できちんとコミュニケーションをはかりながらてんかん治療に臨むことが求められます。
コントロールできる疾患であるからこそ、社会で理解し、本人に意識付けしていくことが必要なのではないでしょうか。
まとめ

高齢化と運転、てんかんと運転、などが話題になり続けています。
実際の問題として、それらの方々から完全に禁止する、ということは難しいのでしょう。
都会であればバスもあります。電車もあります。車が生活必需品となってしまっている現代において、すぐに全面禁止、とするのは非常に難しいことです。
ですが、被害者の方には何の落ち度もないのも事実です。
個人個人の責任、モラル、倫理、家族間でのコミュニケーション、医療サポート、様々な問題を含んでいることが伺えます。
てんかんと運転免許は、今後も話題になることがあるかもしれません。
問題になる前に、もっと情報の周知、共有をして、誤解のない情報をお互いに持つことが必要だと思われます。