【作業療法士からお知らせ】慢性腰痛の方は脳をリハビリする方法もあります

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※運営よりお知らせ:記事を簡潔に掲載する都合上、専門用語の解説は少なめになっています。気になる言葉を左クリックを押したままなぞり、右クリックで検索をかけることができますのでその方法をご利用ください。

長引く強い腰痛。

とてもとても痛くてつらいのに、「画像上は問題ありませんね」とお医者さんに言われたことはありませんか?

痛くて日常生活に支障があっても、調べても特に問題は見つからないから治療の仕様がない。湿布と痛み止めを処方してもらって終わり…

家族にもわかってもらえなかったり、神経質なんじゃない?と精神的な弱さが原因という目で見られてしまったり。

そんな状態が長く苦しんでいる方がたくさんおられます。

長く医療業界でも慢性腰痛の不思議さは話題にのぼっていましたが、やっとその原因のひとつが「脳にある」ことが科学的に証明されてきたのです。

今回は、慢性腰痛の治療を「脳をリハビリする」という切り口でご紹介します。

もくじ

慢性腰痛の定義

慢性腰痛とは、3か月以上腰の痛みが続く状態を指します。

その中には

  1. 腰に異常が無いのに痛みが続く
  2. 腰の異常は治ったのに痛みが続く
  3. 痛みが軽くなったり強くなったりを繰り返す

のタイプがありますが、今回ここで述べるのは主に1と2の「今現在腰に異常がみられていないのに腰痛が続いている」タイプです。

そして、その痛みの程度は軽いものから激痛まで、非常に幅広いのも特徴です。

痛みを感じる脳

痛みを感じるシステム

痛みはトラブルが起きた部分で神経興奮が起き、その興奮は電気信号となって脳へ向かいます。

信号が届いた脳はそれを痛みの感覚へ変換し、痛いと感じます。

同時に働く痛みを抑えるシステム

痛みを認識した脳は、痛みを抑えるよう働きだします。

痛み信号が通ってきた道とは別に脳から逆行して、神経の興奮を抑える指令を届けるのです。

この時に働くのが前頭葉にある脳の部分です。

慢性腰痛の人の痛みシステム

慢性腰痛を持つ人の脳の活動をみてみると、上で述べた痛みを抑える働きを受け持つ脳の部分の活動が低下していることがわかりました。

指令を出すはずの脳が働いていないので、痛みを抑えるシステムも働くことができません。

ではなぜ、脳のこの部分が働きが悪くなったのか。

それは最初に体験した腰痛の「痛み記憶」

痛くてとてもつらかったこと、そしてまたあんな痛みを感じるのではないか、動けなくなったらどうしようという不安が脳の働きを鈍らせているというのです。

心の弱さや精神論ではない

ここで、「不安が原因」と聞くと、また精神面の話か…と思われがちですが、それは間違いです。

脳の機能低下という科学のお話であることを理解し、慢性腰痛の苦しさの緩和や治療の一助にして下さい。

腰痛なのに脳をリハビリする

慢性腰痛の原因の一つが脳にあると分かりました。

現代人は基本的に腹筋背筋が弱い方が多く、不良姿勢や座っている時間も長いので、基本的な運動療法やトレーニングは必要です。

あわせて痛み抑制を司る脳の働きを改善するためのトレーニングをご紹介します。

基本は、また痛くなるのではないかという不安を取り除くこと、こうしても大丈夫だと脳に教えることです。

1.正しい知識を繰り返しインプットする

例えば、椎間板ヘルニアは受傷時に激痛を感じる方も多くおられますが、ヘルニア自体は3か月程度で自然に吸収されていき、飛び出た部分も小さくなったり無くなったりします。

こういった正しい知識を知ること(本当に納得すること)で、再発の恐怖に過剰におびえることなく、本来の日常生活を安心して送れるようになります。

欧米では国策として有識者の正しい腰痛への理解を伝える動画をTVでコマーシャルのように毎日数回放送し、腰痛患者さんの数が激減した実績もあるそうです。

私たちの周りでもTVやネットに情報が溢れています。

信頼できるソースの、正しい知識を繰り返し見ること。

何度も何度も繰り返し意識の表層にのぼらせること(リハーサルといいます)で脳にインプットすること、大丈夫なんだと安心できること。

これが不安にとらわれて本来の機能を発揮できなくなっている脳へのリハビリになります。

安心できる情報は個人差があります。

  • 問題ないといわれたMRI画像をモバイルに入れておいて毎日見る
  • 自分が信頼できる人が出ている動画を繰り返して見る

など、ご自分にあった方法でトライできる簡単な方法です。

2.動きから安心をインプットする

人は痛みを感じると痛みを避ける姿勢や動きをとるようになります(痛み行動)。

腰痛を抱える多くの人は、腰を曲げたり反らせたりする姿勢で痛みを感じていたので、無意識にその姿勢を避けています。

急性期を過ぎて、腰の異常が無い状態であれば、今まで恐怖で取れなかった姿勢を体操として取り入れ、痛みが無い・もしくは軽い、かつしびれなどの神経症状が出ないということを実感していくのです。

これも毎日繰り返すことで、不安のあった姿勢も大丈夫なのだと脳が認識し、徐々に本来の機能を取り戻していきます。

  • 腰に手を当てて体を反らせる動きをしてしびれや強い痛みが無いことを確認する
  • 〇分だったら歩いても痛くなかったと確認する

3.認知行動療法

1.2の対応で対象者の半数の方の症状改善が得られたという報告もあります。

認知行動療法は専門的な治療法ではありますが、自分の状態を正確に把握し、行動の結果を目に見える形で自分に返していくというものですので、基本は1.2と同じです。

今の痛みの状態や動きはどうなのか。

どんなことを不安に思っているのか。

そして運動やグループセッション・会話で何を感じ、どう変わっているのかを記録していくことで、現状と行動の結果を脳に繰り返しインプットします。

こうしたらこう変わった、こうしたら大丈夫だったなどを脳にリハーサルさせることで不安の軽減・脳の機能の正常化を図る治療法です。

慢性腰痛の方に脳リハビリをした症例

その方は介護職員さん。

職業病ともいえるぎっくり腰に1年ほど前なり、その後も腰痛に悩まされていて、業務が終わった後にも痛くて横になる時間が必要でした。

話を聞いてみると、またいつ再発するのか(痛みの恐怖と仕事ができなくなる不安)があります。

痛みが出る姿勢は王道の中腰で、そこから体を起こすときにも腰に痛みを感じていました。

しかし、座って靴下を履く姿勢やスクワット動作では痛みやしびれが出なかったので、痛みが無いことをお互いに確認し、基本的トレーニングのほかに、業務前に前屈やスクワットを何回かしてもらい、必ず「腰は痛くなかった」(小声で)口にしてもうらうようにしました。

2週間ほど後、業務中に負担が大きいときは腰痛を感じるものの、自宅に帰ってからの痛みが少し楽になったと報告を受けました。

必ずしも脳リハビリだけの効果とは言えませんが、個人的には有効性を感じた事例でした。

まとめ

腰そのものに原因が見つからないのに、痛みに悩み日常生活に支障のある方がたくさんおられます。

大切なのは痛みを抑える脳機能のトラブルが原因の一つだという理解です。

ご本人には運動の継続に加えて、脳をリハビリする方法があるということを知っていただき、周りにいる方には、精神的な問題ではないという正しい理解のもと、サポートしていただけるようにお願いしたいと思っています。



カテゴリー:”薬”立つ情報, 痛み, 作業療法士【痛み】, 作業療法士【行動】

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