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「病院の薬代が高い」、「もう少し安くならないかな」と思った事はありませんか?
残念ながらジェネリック医薬品がなく、他の治療薬が無い場合はこれは無理な相談です。
薬の価格である薬価は国(厚生労働省)が決めています。
また、薬以外の医療行為、つまり技術料も国が決めています。
このため、同じ治療を受けると全国一律で同じ料金が発生します。

もくじ
薬価とは
薬価は国が定めた薬の価格です。
治療に必要な薬は万人の生命に関わる問題なので、国が介入して適正な価格を決めています。
このため、医薬品は発売前に国の審査を受け、治療に必要である事を証明しなければなりません。
その薬の有効性や安全性が、それまで行われている治療にプラスになると判断されれば、その薬の製造許可(製造承認)が取れます。
薬はどれだけ理論的に良いものが開発されても、従来の治療へのプラス材料(有用性)が証明できなければ、発売する事ができません。
製造承認が取れれば、製薬会社はその薬を作り始める事ができますが、薬価が決まるまでは発売できません。
この間に国は製造承認した薬の薬価を決めます。
この価格算定にはいくつかの細かいルールがあります。
簡単に言えば、今までになかった画期的な治療薬などでは、高い薬価となり、従来の治療薬の改良薬であれば従来の治療薬並みの薬価になります。
ジェネリック医薬品は従来の医薬品(先発医薬品)の半分くらいの薬価となります。
画期的な薬は設定基準となる薬がないので、開発費用や他の治療でかかる費用などが参考となるので、ときには高額な薬価が設定される事もあります。
なお、薬価は数年毎に見直され、市場動向に合わせた価格に調整されています(薬価改訂)。

保険制度と薬価
「薬価がある」と言う事は「国が認めた治療」と言え、国民皆保険制度を使う事ができます。
言い換えると、その薬の効果や副作用に国や製薬会社が責任を持つ事になります。
誤解しないでください。
この世の中に100%効く薬はありませんし、副作用が全く無い薬もありません。
この薬は20%の副作用リスクで80%の効果があると認めていると言う意味です。
保険制度を使うためには「国が認めた使い方をした場合」と言う条件がついています。
保険制度を使う事で「3割負担」などで治療を受ける事ができています。
この点から薬価は保険で使用可能な薬のリストとも言えます。
この条件に合わない使い方をした場合は、全額自己負担になります。
いわゆる「自費診療」となります。

保険診療と自費診療
保険制度は「国が認めた方法で治療」した場合に使う事ができます。
例えば「この胃薬は蕁麻疹に効くと報告されているので使った」と言う場合は「国が認めた治療」ではないので、自費診療になります。
たとえ、蕁麻疹が治って副作用が出なかったとしてもです。
また、保険制度は治療にしか使えません。
予防目的のワクチンや経口避妊薬、病気ではない妊婦検診、健康診断などは全て保険対象外となります。
美容目的の脱毛症治療薬や整形手術、ED治療薬なども治療とは認定されていません。
これらで使われる薬は「薬価未収載」となります。
ただ、保険制度は使えなくても「薬価未収載薬」として国が認めているので、国や製薬会社が責任を持っています。

薬価と医療経済
薬価は国が指定した価格ですが、製薬会社が薬局などに販売する価格は指定されていません。
つまり薬価100円の薬を50円で売る事も可能です。
薬局はいくらで仕入れたとしても医師は100円で処方します。と言うかしなければいけません。
医師、薬剤師はこの差額利益を得る事が可能でした。
これは一昔前の話ですので過去形にしました。
薬を使えば使うほど儲かるので、医師は可能な限り多くの処方をするようになりました。
この結果、「薬漬けによる医療費の高騰」と言う問題が生じました。
この対策として、薬価改訂のルールを変更しました。
今の制度では、薬を安く売ればその分薬価が下がるようになっています。
薬価は製薬会社の収益の根本なので、大幅な薬価ダウンは会社の存続にも繋がりかねません。
この結果、製薬会社は価格競争は行わなくなって来ています。
ただ、この取り組みは医療機関の経営を圧迫する事になりました。
例えば1錠300円の薬があるとします。
びっくりするかもしれませんが、最近では珍しくありません。
通常、薬は最低100錠包装で販売されています。
みなさんは100日分の薬を処方された事がありますか?
大抵は28日分とか90日分とかだと思います。
100錠包装だとどうしても端数が出てしまいます。
これがよく使われる胃薬なら問題はありません。
たまにしか使われない薬でも同じ事はおこります。
薬にも、もちろん使用期限があります。
この端数が使用期限切れになると廃棄処分となります。
製薬会社は開封済みの薬の返品は受けません。
仮に30錠廃棄すれば9,000円の損失が生じます。
製薬会社が値引きしなくなったので、このようなおこりうる在庫リスクが医療機関の経営を圧迫している原因の一部になっています。
この観点から私はある程度の薬価差益は必要と考えています。

薬価と治療効果
医学の進歩に伴い、今まで治せなかった病気に効果のある薬が開発されています。
このような薬なので高額な薬価が設定されています。
一方、ジェネリック医薬品の普及も非常に進んでいます。
ジェネリック医薬品は同じ効果の治療を今までより安い費用で受けられるので、費用対効果はとてもよくなると思います。
先発医薬品を販売している製薬会社には大打撃ですが…。
一方、高額な新薬はどうでしょう。
最近では月100万円超えの薬価がつく薬も珍しくなくなってきました。
高額医療費支給制度と言うシステムもありますが、それでも数万から数十万円かかります。
それで得られる治療効果はその病気によって様々です。
例えば、C型肝炎の治療薬はまさに画期的な新薬だと思います。
C型肝炎は肝臓がんになる可能性のある病気ですが、その肝炎ウィルスを排除する事は困難でした。
この治療薬によって肝炎ウィルスが排除できるようになりました。
もちろん高額な薬価がついていますが、この薬が出る前の生涯の治療費と比べれば決して高いものではありません。
なんと行っても肝がんによる命の危機が防げるので、費用対効果は十分かと思います。
一方、ある種の抗がん剤の効果は3ヶ月の延命効果と言われています。
高額医療費がかかっても、3ヶ月の延命にしかならないのであれば、この治療をしない事を選ぶ患者さんもいると思います。
私なら選びません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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