【製薬会社開発部のひとりごと】日本で新薬申請すればアメリカとEUでもその資料が使える -ICH入門-

この記事を読むのに必要な時間は約 14 分です。

※運営よりお知らせ:記事を簡潔に掲載する都合上、専門用語の解説は少なめになっています。気になる言葉を左クリックを押したままなぞり、右クリックで検索をかけることができますのでその方法をご利用ください。

海外では医薬品になっているのに日本では使えない場合があります。これは厚生労働省がその薬に対して、製造承認を与えていないからです。

そのような薬を手に入れるためには、

  1. 厚生労働省が新規医薬品として製造承認を待って、健康保険を利用して入手する。
  2. 日本で治験中の場合には治験に参加して治験薬として入手する。
  3. 個人輸入をして手に入れる。

という方法があります。

日本で手に入らない理由

海外では入手できるようになってから日本で入手できるまでの時間をドラッグラグとよびます。

命にかかわるような病気の場合にはドラッグラグの間に本来は、その薬で命を失うことがない可能性があった人が亡くなってしまうことから問題視されてきました。

製薬会社が厚生労働省に製造承認を行っていない

日本で市場が小さい、日本では同種同効品がたくさんあるので承認申請して開発費用を書けてもリターンが期待できないと判断した場合が多くなっています。

海外の会社が日本での申請を考えていない場合があります。

学会などでどうしても必要であると厚生労働省に要望書を提出した場合には日本の製薬会社が海外の製薬会社とライセンス契約を行って申請を行う方法があります。(特許が切れている場合には日本の製薬会社が独自に申請することも可能です。)

申請しているが厚生労働省の審査が遅れている

これは海外の申請時期と日本の申請時期が異なる場合もあります。

また、海外の審査期間に比べて日本の審査期間が長いことを指します。

かつては厚生労働省の審査期間は長いといわれていましたが、最近は全般に審査期間は短くなってきています
特に必要性が高いことが周知であれば申請期間を短縮するルールも作っています。日本の製薬会社が開発したものであった場合には日本で一番早く使うことができるように思います。

最近の例では、免疫チェックポイント阻害剤であるオプジーボは日本で最初に市販されました。
過去にも

前立腺がん治療薬 リュープリン

脂質異常治療薬  メバロチン

免疫抑制剤    プログラフ

過活動膀胱治療薬 ベシケア

キノロン系抗菌薬 クラビット

アルツハイマー型認知症治療薬アリセプト

統合失調症治療薬 エビリファイ

2型糖尿病治療薬  アクトス


などがあります。
海外の製薬会社の開発品で日本で一番早く発売されたものもあります。抗がん剤のイレッサです。

タイムラグをなくすためにできたのがICHです

各国で新薬承認審査の基準がバラバラであると無駄が生じ、薬によっては最初に承認された国以外にタイムラグができてしまいます。

そこで、日本とアメリカ合衆国、欧州連合は申請の基準の統合を図りました。
その基準を決める会議International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Useと呼び、略称はICHとしました。

審査基準といっても新薬審査には色々な種類の試験・治験を審査します。

そのため、品質有効性安全性といった分類別に専門家作業部会で協議し、ガイドラインを作ることから始めました。

現在では安全性が動物実験のガイドライン、有効性が治験のガイドラインとなっています。

提出資料のための用語集や電子申請のためのガイドラインは複合領域として開始時の三つの分類に一つ追加になっております。

三局で合意に達しているガイドラインは非常にたくさんあります。このガイドラインに従って実験・治験を行えば少なくとも日本、アメリカ合衆国、欧州連合では審査は順調に進みます。

臨床開発では「治験の総括報告書の構成と内容」が最初の三局合意のガイドラインとなりました。

合意したガイドラインは厚生労働省から日本語に訳され、厚生労働省省令として発出されます。

さらに、厚生労働省の新薬開発にかかわる部署の課長が課長通達を出して、詳細について解説します。

また、Q&Aも通達として発出されます。

ICHの会議において合意したガイドラインは日本では全て省令、課長通知、QアンドAがワンセットになって公開されます。

最終的には日本語になるとはいえ、途中経過は会議ごとに報告書が公開されます。

現在進行中の試験・治験が新しいガイドラインに沿わないものであっては大きな損失をまねく可能性があるので、会議ごとの報告書に対して製薬会社同士で勉強会を行うこともありました。

現在はほとんどのガイドラインは出尽くした状態ですが、常に見直しが行われています。そのため、現在もICHの会議を製薬会社は注意深く見守っています。

申請書の電子化までガイドラインに決まっているので、どこか一つの局で申請すれば他の二局に申請できるかと考えたときに問題になるのは人種差だと思います。

その取り扱いに関してのガイドラインも早くから整備されているので、問題はなさそうに見えます。

ICHでも解決できない項目

それは申請書に用いる言語の問題です。

EUの第1言語はフランス語になっており、アメリカ合衆国では当然英語、日本では日本語です。

原則としてはどの言語で申請しても構わないといっていますが、日本でフランス語を用いて申請した場合には当然、厚生労働省の担当官は日本語で読むよりはフランス語で読むと時間がかかります

機械翻訳を使って日本語に直して提出した製薬会社がありました。

その結果は、厚生労働省は機械翻訳そのままで提出することは、内容を取り違える可能性があるので、だれか日本語ができる人間が目を通してから提出するようにとの半分お願いの通知を出しています。

治験に参加する方法

その薬が日本において治験中である場合にはその治験に参加するという手段もあります。
治験に参加するには主治医が治験に参加する必要があると考える人がいますがその必要はありません。

実際には治験を担当する医者が主治医である患者に対して治験参加を勧めることはヘルシンキ宣言に違反することなので、本来は避けるべきです。

ヘルシンキ宣言と治験

ヘルシンキ宣言とは医療従事者が守るべき憲法のようなものです。
その中に以下のような文章があります。
「研究参加へのインフォームド・コンセントを求める場合、医師は、被験者候補が医師に依存した関係にあるかまたは同意を強要されているおそれがあるかについて特別な注意を払わなければならない。そのような状況下では、インフォームド・コンセントはこうした関係とは完全に独立したふさわしい有資格者によって求められなければならない。」
つまり主治医は被験者候補が依存しているので、治験参加のためのインフォームドコンセントを取ることはヘルシンキ宣言に違反していることになります。

現在進行中の治験は、最初の患者が登録されるより前に公開する必要があります。

日本では医薬品情報データベースの一つ、臨床試験情報(Japic Clinical Trials Information)で検索することができます。

治験薬の名前が分かればサイトで治験の実施状況が分かります。

被験者が募集中の場合には治験スポンサーに連絡を取って患者さんがその治験の適格条件に合致し、除外条件に合致していなければ原則として治験に参加することができます。

ドラッグラグについて

日本ではドラッグラグという言葉が厚生労働省が怠けているようなニュアンスでマスコミが使うことがあります。

厚生労働省はICHに積極的に参加し、一部ガイドラインは厚生労働省の官僚がまとめたものもあります。

審査期間の短縮に関しては審査を独立行政法人医薬品医療機器総合機構に任せることによって独立採算制に持って行っています。

つまり、審査をしてもらうためには医薬品医療機器総合機構に審査費用を製薬会社が納める必要があります。

患者が少ない病気に関しては採算性の問題から製薬会社が手を出さない可能性があるので、希少医薬品の制度を用いて開発費用を国が負担する制度も実行しています。

長いといわれる審査期間も10カ月程度と欧州や米国と同レベルになっています。
画期的新薬に関しては、前臨床試験、臨床試験各々に関して有料相談を厚生労働省と行うことができます。
この制度によって、厚生労働省の担当官が申請資料を読み込んで不明点を問い合わせるなどの時間が短縮できます。本当に必要だとある段階の科学的水準で期待できる場合には最優先で審査するという制度ができています。


審査期間が延びる理由の一つであった不備な資料で申請して、担当官と製薬会社のやりとりが多いというのもICHの適用でそのような申請は少なくなりました。
厚生労働省が医薬品と認めがたいと判断したときにはかつては質問事項を大量に出すことによって製薬会社が諦めることしか手段がありませんでしたが、厚生労働省との申請前相談でその内容では審査ができないということでそのような薬剤を審査する必要がなくなりました。

アメリカでも同様の制度があり、先日コロナの治療薬として承認されたコロナ回復者の乾燥血液製剤がそれに当たります。

アメリカの場合は、ある程度の効果が認められた場合には承認はしますが、治験は継続することが求められます。

事例;アビガン

日本では効果がしっかりと確認できなければなかなか短期間で承認を得ることは難しくなっています。
抗ウイルス剤の場合にも大学の臨床研究では効果は否定できないレベルの効果と言う情報しか得られませんでした。
結局製薬会社が二重盲検比較試験を行って結果が出てから申請することになっています。


アビガンは承認されています。
妊娠中の女性、授乳中の女性、妊娠している可能性のある女性および妊娠させる可能性のある男性に投与することがなければ大きな安全性の問題がないことが分かっています。早期の承認は可能だと思います。

除外条件はこの薬が持つ催奇形性が問題になったからです。

アビガンの警告

・動物実験において、本剤は初期胚の致死及び催奇形性が確認されていることから、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと

・妊娠する可能性のある婦人に投与する場合は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認した上で、投与を開始すること。また、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間はパートナーと共に極めて有効な避妊法の実施を徹底するよう指導すること

・本剤は精液中へ移行する1)ことから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中及び投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導すること。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと
アビガン添付文書情報より引用

アビガンの抗ウイルス作用は今販売されている抗ウイルス剤とは違います。つまり他のウイルスに耐性を持つようなインフルエンザが流行した場合には高いメリットが考えられます。

厚生労働省はアビガンのメリットとデメリットを天秤にかけて以下のような判断を行いました。

抗インフルエンザ薬としてのアビガンの取り扱い

アビガンは製造承認を与える。薬価も算出する。しかし、催奇形性の問題から広く世の中で使うことは好ましくないので、販売は許可しない。しかし、現在の抗ウイルス剤に耐性のインフルエンザが流行した場合には使う価値があるので、生産したアビガンは全て厚生労働省が買取備蓄する。

まとめ

日本、欧州連合、アメリカ合衆国の新薬申請の規制は三局で合意して、ICHとよばれているということについて説明しました。

マスコミはちょっと外国で使えない薬があるとドラッグラグを問題にして騒ぎ、早く承認すると、実際は薬害ではないのに薬害だと騒ぎます。

「薬害の神話」から早く脱却し、厚生労働省は必要な薬を適切な時期に承認して、マスコミはリスクとベネフィット、適正使用についてしっかりと報道してもらいたいと思います。

薬害の神話

薬害エイズの検証で明らかになった、マスコミの一方的な見方
「産官医」の癒着
医師は薬価差によって儲けることしか考えていない
政府は危険情報を隠蔽した
の三点は裁判で事実ではないことが明らかになった。

第19回日本エイズ学会シンポジウム記録 (2006年)
薬害エイズ問題から見えてくるものより抜粋



カテゴリー:”薬”立つ情報, 製薬会社

タグ:, ,

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。