【製薬会社開発部員のひとりごと】厚生労働省の審査は公開されています。新薬を処方するとき一読を

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新型コロナウイルスの感染対策を政府に助言を与える専門家会議の議事録を作成するかどうかが問題となったのはつい最近のことです。

政府は専門家が自由に発言できるようにという理由で発言者を明記しない「議事概要」を作成していました。

新型コロナが終息した際に政府が取った対策が十分であったかを検証するために議事録は必要であることから、専門家会議に出席した人からも議事録の作成を求める声が上がっていました。

結局どうなったのかはニュースを検索してみましたが、よく分かりませんでした。

平成11年にでき、最終更新されたのは平成28年5月27日公布の「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」によれば、情報公開請求すれば保有する情報は、「個人情報」、「公共の福祉に反するもの」以外は請求すれば公開しないければならないことになっています。

審査報告書を見るのは公開請求不要

新医療用医薬品の審査経過はどうでしょうか。今は請求しなくても医療用医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています。だれでも閲覧可能です。印刷も無料でできます。(情報公開請求の場合はコピー費用が請求されます。)

審査報告書が公開されるまでに起こった事件

pixabay

審査報告書には申請資料(製薬会社が厚生労働省に申請するために作成した資料)が全てついています。

最後の臨床試験が終了から申請までの期間は会社が開発部員を評価する項目の一つです。

申請資料に関して、項目は決まっていましたが、実際にどのように作成するかは製薬会社の各社のノウハウとして蓄積されていました。

情報開示請求も平成になってから法的手続きが決まったことから、それ以前は他社の申請資料を閲覧することは不可能でした。

1983年には新薬スパイ事件が起こりました。
発端は国立予防衛生研究所の職員が抗生物質の国家検定を偽装したことでした。
その犯罪を捜査していく中で、その職員が中央薬事審議会の申請資料を盗んで藤沢薬品工業に売り渡したことが分かりました。
この事件は中央薬事審議会の委員まで広がりました。

産業スパイ事件の影響


これで行政と製薬会社と大学教授が金でつながっているという意識がマスコミと国民の間に広がってしまいました。

そのような状況の中で発生したのが薬剤エイズ事件です。

薬害エイズ事件の総括

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1979年以降1,427人の血友病患者がHIVに感染した原因が非加熱血液製剤を用いたためだと分かった事件です。
これも行政と製薬会社、大学教授がのつながりが原因と最初は騒がれました。
実際にはそれは事実ではないことが刑事事件の裁判の中で明らかになっています。

薬害エイズ事件の総括は2006年の第19回日本エイズ学会で「薬害エイズ問題から見えてくるもの-医療安全の視点からの検証と教訓-」というシンポジウムが開かれて検証が行われています。
そこでの教訓としては

  • 「産官医の癒着」という図式的理解は検証の結果、「神話」であり、事実と乖離している。
  • 患者に対するインフォームドコンセントには患者も参加しているという視点が抜けていた
  • 非加熱製剤は加熱製剤よりも患者の満足度が高かったが、そのために感染が判明したときの医療機関の対応が遅れた。
  • この事件は日本特有のものではなく、アメリカや欧州諸国でも発生していた。リスクマネージメントの問題であり、従来の薬害とは異なったものである。
  • 新規医療品だけでなく、現在市販されている医薬品においても副作用を監視していく必要がある。

「産官医の癒着」の「神話」

マスコミが「産官医の癒着」の神話を作り、犯人捜しに終始したために専門家が発言しなくなったことが問題を大きくしたとしています。

審査報告書

私が初めて申請にかかわったときに審査報告書が公開になることになりました。

それより前の審査の会社と厚生労働省のやりとりに関しては知らないので、断言はできませんが、科学的な議論に終始したと思います。

残念ながら治験関連死の取り扱いに関して問題があったために最終的には申請を取り下げることになったので、やりとりのどれぐらいが審査報告書に書かれたのかは分かりません。
その薬の開発意義などは審査担当官のかたはしっかり申請書を読み込んでいました。
同席した役員よりもその新薬に対して理解していました。

その後、申請書の作成の一部にかかわった薬物が承認されて、審査報告書が公開されました。
審査報告の内容は、議事録というよりも、まず、申請書の概要の記載があり、各パートでこの薬は申請書を読むとこんな問題があると思うが申請者はどう思うかという形でまとめられています。

申請資料に書いてあることは、審査報告書を読めば要約されていると言うことになります。


審査報告書の結論は「ベネフィット(有効性)とリスク(副作用)を天秤にかけて市場に出す価値はある」です。

ベネフィットとリスクを天秤にかける

副作用は0ではないが、有効性の方が治験症例全体としてみたとき有効性が市場に出すべき価値があるということです。
治験症例全体とわざわざ書いたのはわけがあります。
治験薬剤で死亡例が出ていてもその治験薬を市場に出す価値が見いだせる場合があるということです。死亡しないように万全の対策を立てる必要がありますが、その治験薬を世に出す事によってある疾病による死亡率を減らすことができるということです。


リスクに関しては添付文書や薬の説明書、MRの説明だけを聞くだけでなく、審査報告書も読むことで寄り詳しい内容が理解できます。

審査報告書のメリット

添付文書等は宣伝用資材であるため、第3相試験で他の薬剤と比較している場合には結果が良くても悪くても他の薬剤のことは書くことはできません。審査報告書しか見る手段はないのです。

最後に

審査報告書が公開されることによって、政府の方は情報を全て開示しているということになります。

従って、審査報告書に記載がある重篤な副作用が起こった場合にはそのリスクを上回るベネフィットがあるから承認したことになります
言い換えると、審査報告書で話題になっている副作用を発生した場合でも薬害にはなりません。
しかし、副作用の頻度が臨床試験で得られたものよりも急増した場合には薬害になり得ます。
そのため、市販直後には副作用の発生率が高くなっていないかを特に見るために市販直後調査が行われます。

申請の時のデータで得られたリスクとベネフィットのバランスは常に変わると言うことで製薬会社はリスクとベネフィットの変化がないことを見直して報告する義務があります。

その間でも明らかに副作用の発生率が増加した場合に厚生労働省はそのことを各病院、薬剤師に伝達する義務があります。

添付文書や医薬品インタビューフォームは製薬会社が作成したものです。
審査報告書は医薬品医療機器総合機構が厚生労働省にこの薬は新薬として承認してもいいという報告をするために作成したものです。

せめて臨床の部分だけでも読むことによって新薬を処方するときのリスクとベネフィットを理解していただきたいと思います。



カテゴリー:”薬”立つ情報, 製薬会社

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