【理学療法士監修】脳卒中、手足の動かしにくさは本当に麻痺の影響?

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「手足が思うように動かせなくなる」

脳卒中の症状というと、一般的にこういった状態をイメージされるのではないでしょうか?。歩こうと思って足を振り出しても思ったように上がらない、モノを掴もうと思っても手が思うように握れない。手足が麻痺して自由に使えない、と。

脳梗塞や脳出血といった脳の病気、いわゆる脳卒中に対しての認知度は、数十年前と比べて飛躍的に高くなっています。

脳の病気は寝たきりになる確率が高い恐ろしい病気という認識は、今や多くの方々の共通認識と言えます。

そして、そんな共通認識を持った多くの方がこう考えています。

「手足が麻痺しているから思うように動かないんだろう」

果たして本当にそうなのでしょうか。

今回の記事では、脳卒中患者さんが「手足が思うように動かせない理由」についてお話させて頂きます。

身の回りに脳卒中後遺症に悩む患者さんがいる方、脳卒中患者さんと関わるお仕事をされている方にとっては知っていて損はない知識だと思いますので、是非最後までお付き合いください。

1.脳卒中で手足が動かしにくくなる理由

複雑なメカニズムはさておき、まずは脳卒中で手足が思うように使えなくなる理由をシンプルに考えてみましょう。その理由は多くの場合、

①脳の司令塔
②その指令を伝える経路

のどちらかに問題を抱えてしまったからというケースがほとんどです。

◇脳の司令塔って?

まずはこちらのイラストをご覧ください。

『脳』というのは、いくつもの構造物によって作られています。そして、それぞれの部位が無くてはならない働きを持っています。そのあたりの細かいお話は今回割愛しますが、また機会があればお話させて頂ければと思います。

さて、ここでは脳の司令塔の話。

人間は、実に様々な機能を持っていますが、それぞれの機能には司令塔として働いている部位があるんです。

司令塔は、機能によって部位が異なります。例えば、

呼吸の司令塔 =  延髄にある呼吸中枢
感覚の司令塔 =  大脳の外側(新皮質)にある感覚中枢
視覚の司令塔 =  大脳の外側(新皮質)の後ろの方にある視覚中枢

といった具合です。

今回の記事のテーマに関わりの大きい運動の司令塔はというと、

大脳の外側(新皮質)の前側、前頭葉にある運動中枢になります。下のイラストで言うところの、運動野の部分ですね。

この辺りで問題を起こしたりすると、筋肉を思うように動かせなくなる…つまり、手足を思うように動かせなくなってしまうんです。

◇指令を伝える経路って?

脳の司令塔が無事でも、筋肉に運動の指令を伝える経路のどこかで問題が生じてしまえば筋肉を働かせて手足を動かすことは難しくなってしまいます。

ちょっと専門的な言葉を使えば

伝導路

と言います。

運動中枢(運動野)という司令塔から『動かす』という指令が出ると、その指令は大脳皮質で情報が処理され、脳内の決められた経路を通って脊髄に向かっていきます。これが伝導路。この伝導路を通っていく過程で、『動かす』という指令をさらに洗練した指令に密度を上げていきます。

 手を動かしなさい 
⇒これくらいの力加減で手を動かしなさい
⇒これくらいの速さで、これくらいの力加減で手を動かしなさい
⇒手を伸ばしてコップを掴みなさい

といった具合に。

正確にはもうちょっと複雑ですが、伝導路の働きをざっくりとしたイメージにすると、こんなところでしょうか。

2.運動麻痺と失調症、そしてこわばり

さて、運動機能が障害される大まかなメカニズムは何となくイメージできたのではないかと思います。それを踏まえたうえで、今回の記事の本題。

『手足が動かしにくい』

という症状は大きく分けて3つの理由に分けられます。

・純粋な『運動麻痺』という症状
・『失調症状』という症状
・動かさないことによる筋肉のこわばり

以下でひとつずつお話ししていきます。

◇純粋な『純粋な運動麻痺』という症状

手足に力を入れることが出来ない、もしくは力を抜くことが出来ない。その結果、手足を上手く動かすことが出来ない。こういった症状は

『運動麻痺』

と言います。

脳の司令塔そのものにダメージがあり、運動を行なうという指令自体が上手く作り出せないか、もしくはその指令を途中の伝導路で上手く伝えることが出来ていないのか。いずれにせよ、脳卒中で多くみられる症状のひとつです。

【具体例】

歩こうと思って足を出したいけれど、力が入らずに足が上がらない。足先をしっかり上げたつもりなのに上がっていなくてつまずく。

目の前のコップに手を伸ばしたいけど、肘が曲がったまま伸ばせない。伸ばそうと思えば思うほど余計な力が入ってしまう。

◇『失調症状』という症状

力を入れること、力を抜くことは出来る。でもその力の調節がうまく出来ない。そんな症状を

失調症状』

と言います。

この言葉は聞きなれない方も多いと思いますが、臨床現場ではよく見られると共に、運動麻痺と混同されがちな症状のひとつです。失調症状とは、その名の通り調和のとれた動きが出来なくなること、力のコントロールが難しくなることです。

例えば、我々がゆっくりと肘を曲げる時、肘を曲げる筋肉と肘を伸ばす筋肉の両方にバランスよく力を入れることで、安定した動きを作り出せるワケです。

失調症状が現れると手足や身体がグラグラ揺れて、上手く力がコントロールできなくなってしまうんです。

小脳付近を障害された場合や、感覚障害がみられる場合に良く現れる症状で、運動麻痺とはメカニズムが異なります。そのため生活の工夫やリハビリも、分けて考える必要があります。

【具体例】


歩こうと思って足を出したいけど力加減がコントロールできず、ちょうど良い位置に足を出せない。少ししか振り出せなかったり一歩が大きすぎたり、膝がガクガクして安定しない。

テーブルのコップを掴みたいが、丁度いい距離に手を伸ばせない。力ははいるのに手がグラグラ揺れてコップが掴めない。

◇動かさないことによる筋肉のこわばり

今回の記事で最も皆さんに伝えたい部分。それが、『筋肉が硬くなってこわばると、運動麻痺や失調症状のような症状が現れる』という事です。

脳卒中で脳にダメージを受けると、多かれ少なかれ筋肉や関節がこわばりやすくなるケースが沢山あります。ただこれは、麻痺や失調症状といったレベルの話ではなく、いわば『筋肉や関節がなまりやすくなる』といったイメージ。

子供の頃は、朝起きた時に筋肉や関節のこわばりを感じることなんてなかったのに、年を重ねると起がけに腰や背中が硬くなるのを感じやすくなった…そういう感覚に近いですね(笑)

脳卒中を経験すると、2.3日ゴロゴロしていただけなのに何だか手足が動かしにくい、なんて感じる方も多いんです。

手足が動かしにくくなったから麻痺がひどくなった。そんな風に言う方がいますが、麻痺の悪化ではなく、ただ身体がなまっているだけです。関節と筋肉をちゃんと動かせば機能は改善します。

3.症状に合った対応をする事が大切

いかがだったでしょうか?今回の記事では脳卒中で手足が動かしにくくなるメカニズム、手足が動かしにくいと感じる場面の本当の理由について、簡単にお話させて頂きました。

この記事で皆さんに伝えたかったのは、同じ『動かしにくい』という現象にも、異なる原因、メカニズムがあるということ。そして、その理由に合った対応をすることが大切、という事です。

特に、動かさないことによる筋肉のこわばりは麻痺の進行とは違う、ということは多くの人に知って頂きたい事実のひとつなんです。

麻痺が悪化したから改善は難しい、と思って数年間過ごしていたが、実は麻痺の悪化ではなく単に運動不足が原因の一時的な身体のこわばりだった…臨床現場で働いているとこういったケースに非常によく遭遇します。

一時的な身体のこわばりも、数年続けば取り返しのつかないこわばりになります。筋肉や靭帯、関節が硬くなって癒着が進むと、さすがに運動をしても元の状態に戻すことは難しくなってしまいますから。

今回の知識が、脳卒中後の身体の動かしにくさに悩んでいる当事者の皆さんをはじめとした多くの方々のお役に立てば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ライター名(ランサーズ名):寺澤 慶大(テラサワ ヨシヒロ)

<経 歴>

急性期脳神経外科病院のリハビリ科で6年勤務

リハビリ特化型デイサービスで1年半勤務

脳神経外科病院併設のデイケアで4年半勤務

現在はデイサービスで機能訓練を行いながら自費診療で自身のクライアントのフィジカルケア、医療系コラムを中心としたWebライターのお仕事もさせて頂いています。



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