【臨床心理士+社会保険労務士監修】「日本の労働困った」事例:適応障害

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

もくじ

日本の労働環境

日本の労働市場は世界的にみてもちょっと変わっているのをご存知でしょうか?

日本で正社員の立場で入社すると、会社はその社員を辞めさせることはかなり難しくなります。

裁判所が成績による解雇をなかなか認めないためです。

すると、会社はあまり働かない正社員をたとえ生産性が低くても定年まで抱えるため、当然、会社にお金がなくなると、会社は経費を節約するために、新人を非正規で採用するしか手段がない。

若い人は不本意にも非正規での仕事しかない、という状態が起きるのです。

多くの正社員は簡単に解雇されない代わりに職種が選べません。

すると、自分には向かない仕事をいやいやこなすという状態が起きます。

一方、非正規社員は「正社員になりたかったのに。こんなはずでは」と思い悩む。

こんな状況で起きがちなのが、「適応障害」です。

うつ病も適応障害も精神的に落ち込むなど、共通する症状は多いですが、大きな違いがあります。

それは、「適応障害」は“原因がはっきりとしている”、「うつ病」はぼんやりしているということです。

「上司のパワハラで落ち込んだ」と精神科にかかった労働者の多くが「適応障害」の診断書を会社に提出することでもお分かりかと思います。

パワハラという原因を労働者が訴えたので、医師の立場で「パワハラという環境下にあり、原因が明確」と判断したといえます。

仕事をいやいやこなしている正社員。

こんな立場で働きたくない、という非正規社員。

どちらも環境には満足していませんから、適応障害になりやすい要素を抱えています。

社会保険労務士として、臨床心理士としてのアプローチ

適応障害になった労働者にはまず、異動を勧めます

環境が変われば症状が軽減することが多いですし、日本の会社は社員の異動を命じる自由を認められています。

また、小さな規模の会社ならばどうしても合う仕事がない、ということも多々あります。

その場合は合意退職になりますが、必ず労働者が納得するまで提案を繰り返し次の仕事や就労支援の施設につなぐことがポイントです。

不安要素がいっぱいの労働者を退職させれば、感情的にこじれてその後にもめごとが起こりがちです。

心理士としては、適応障害の原因は何か?なぜ不安定になっているのか?労働者一人一人に丁寧に聞くことで整理し、再発を防止します。

物事のとらえ方にくせがあるのは人それぞれですが、それが行き過ぎると、組織に適応が難しくなることもあります。

また、その労働者の発達に偏りがあるのでは、と感じた場合には心理検査をその方の合意を取り、勧めることもあります。

自分の得手不得手を把握してもらうことで、仕事だけでなく、生活全般の質が上がることもあります。

例えば、うっかりミスが多い人でも、共感性が高く、おしゃべりが得意ならば、事務的なことは他人に任せて、人に接する仕事や立場が向いている、といえます。

適応障害になった事例

ある100人規模の会社で、すべての部門でお金を使う業種でした。

しかし、その年の応募者はわずかに4人。

人事部は贅沢をいえない、と、1度きりの面接で3人の新人を採用したのです。

その中の一人が、まったく計算のできない人でした。

若いこともあり、小さなころからパソコンやスマホで計算は要領よく済ませていたそうです。

しかし、営業ひとつにもお金の話が絡みます。

半年過ぎても、ミスを連発し、上司は毎日その労働者への指導、得意先への謝罪、役員への報告で疲弊していました。

会社は「この会社ではもう雇用の継続は難しい」と退職を考え始めました。

しかし、本人は「頑張りますから」と縮こまるばかり。

さらに、親御さんが「うちの子はおかしくない」と頑なに会社との話し合いを拒んでいました。

1年後も事態は変わらず、会社中でこの社員はつまはじきでした。

そこで、顧問社会保険労務士の助言で会社が本人に「誰かに相談しているのか?」と問うと「実はつきあっている女性がいます。

彼女がもう会社は辞めた方がいいと言いますが、親が断固反対なんです。

特に父は私とそっくりで、何度も転職して母がものすごく苦労したんです」と泣きだしました。

会社はすぐに本人の同意をとってその女性を呼び出しました。

女性は理路整然と、

「この人が何に困っているかは、予想していました。一緒に住み始めようと思っていましたし、お互いのためにも病院で診察や検査を受けさせたい」

「彼の親とはよく話し合います。彼が小さいころから周囲からいろいろ言われて傷ついているため頑なになっているのだと思います」といいます。

本人が検査を受けると、まずは適応障害の診断が出ました。

会社は健康保険の傷病手当金を申請し、休職に入りました

そして休んでいる間に心理検査をとり、本人の得意と不得意がわかると、次の仕事探しにも前向きになり、少しずつ気力が戻り始めました。

そして、「接客がしたい」という希望通りに再就職を決め、円満退職となりました。

退職に際して会社がいくつかの就労支援の施設や相談の窓口を提供しましたが、彼がその情報を使った、という報告はまだ来ていません。

ライター名(ランサーズ名):saniken

<経 歴>

社会保険労務士・臨床心理士・通訳案内士(英語)。

労働問題、企業のメンタル問題に取り組む。

弁護士、医師、社会保険労務士ら専門職へのメンタルコンサルテーション、講義と、外国人労働者メンタル支援を得意とする。



カテゴリー:その他・予防法, 社会保険労務士【労働環境問題】, 臨床心理士【適応障害】

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