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私はもともと、不安を感じやすい性格でした。そんな私が患ったのが強迫性障害という精神疾患
です。
強迫性障害の特徴、実際、患者としてどう感じたか、どのように治療していったかをお話ししたいと思います。
もくじ
強迫性障害とは
強迫性障害とは、何かを異常に恐れて(強迫観念)、その不安を振り払うために、(他人から見ると)異常な行動(強迫行為)をとる障害のことです。
人間ですから、何かが怖いと思うのも普通ですし、恐怖から逃れようとするのも普通です。
けれども、強迫性障害では、それが異常なレベルにあります。

普通な人が見ると、何でもないことに恐怖を感じたり、恐怖への対処法がとんでもなかったりします。
雨が降らないから、祈祷しようという古代人を見れば、現代人なら不合理だなと思いますよね。
そんな不合理な“儀式”をしてしまうのが強迫性障害です。
強迫性障害の恐ろしいところは、恐怖から逃れようとすればするほど、逆に恐怖の深みにはまってしまう、というところです。
恐怖を感じ、それを“解決”するための行動をとると、それが学習され、脳内で強化されてしまいます。
私にとっての強迫性障害
具体的に私の場合ですと、不潔なものへの恐怖がありました。

ある日、突然、というわけではないのですが、徐々に「これは汚れているのでは」と思うようになっていきました。
汚れている、というのは別にほかの人から見ると何でもないものです。
ただの床だったり、壁です。
それがなんとなく汚く思えて仕方ありませんでした。
もし、その汚いと思うものを触ってしまうと、強烈な不快感と不安感が襲ってきます。
自分の手が汚れてしまった、どうしよう。
頭の中はそれでいっぱいになります。他のことを考える余裕なんてありません。
とにかく、それから逃れたくて、手を洗いに行きます。
それも普通の場合は、一回ちゃちゃっと洗えば、それで済むと思うのですが、何十秒と手を洗い、それを何回も繰り返します。
ひどいときは、一日50回以上、手洗いをしていました。
起きている時間の何割が手洗いに割かれていたでしょうか。
それが無意味だということは分かっているのですが、どうしても止められません。
とくに、他人からは理解されないことが多く、周囲の悪気ない「潔癖症キャラ」イジりは辛いこともありました。
強迫性障害の治療

治療に至るまで
子どものころから、細かいことを気にする性格で、些細なことで不安を感じるタイプでした。
ですので、自分が強迫性障害にいつなったか、という明確な境目は思い出せません。
少しずつ、少しずつ、積もり積もったものが、気づいた時には限界を超えていたのでしょう。
私自身、治療に積極的ではありませんでした。
そもそも、病識(自分が病気であるという認識)が薄かったからです。
自分はそういう人間なのだ。
辛いけれども、仕方がない、と思っていました。
いえ、正確に言えば、辛い、という認識さえなかったかもしれません。
それが、自分にとっての日常でしたから。
治療を始めたのは、両親が強く勧めたことがきっかけでした。私の了承より先に心療内科の受診予約までとってありました。
当時、私は大学院生で研究がまともにできなくなっていた上に、日常生活でさえ、ままならなくなっていました。
一人暮らしの部屋はくつろげる空間ではなく、私にとっていたるところに汚いものがある空間でした。
外出はもってのほかで、あちこちに病原菌があるかと思うと、げんなりします。
ストレスから食欲もなくなり、無理に食べようとしても、喉を通りません。
ここまで来るとさすがに、自分でも異常を感じていましたから、そこまで言うなら、ということで受診に同意しました。
病院で、質問紙に答えた結果、そこで初めて正式に強迫性障害だと診断され、自分でもようやく病気なのだと自覚したのです。
強迫性障害の治療方法
治療は、最初、暴露反応妨害法、というものを試しました。
これは歪んでいる自分の考え方を変えようとする、心理的な治療です。
まず、自分の中で不安を感じることに点数をつけていきます。
そこで点数の低いことをわざとやって、手を洗うの(脅迫行為)を我慢する、という風な治療になります。
それを積み重ねていくと、不安から逃れたくて異常な行動をする、という歪んだ考え方を変えられる、という発想です。
これは、人によって向き不向きがあると思いますが、とても辛いものでした。
自分からわざわざ不安になりにいって、しかも我慢しろ、と言うのですから。
結局、弱虫の私は、この治療法に数回でさじを投げました。
それからしばらくは、治療、というよりも、私が医師に対して日常の嫌なことを報告するだけになります。
本来なら、医師は私に対して、投薬治療を提案してきていたのですが、投薬、という言葉の重さに二の足を踏んでいました。
医師との対話を続け、このままでは何も変わらない、と決意できたのは、通院し始めてから、およそ1年後のことです。
臨床心理士の方がカウンセリングしてくれたことも、その決断に大きく作用しています。
この病院なら信頼できる、という安心感が私に一歩、足を踏み出す勇気をくれました。
医師が言うには、強迫性障害に対しては、パロキセチン40mgの投与で効果が得られる可能性が高い、とのことでした。
パロキセチンはうつ病の治療薬にも用いられるもので、パキシルのジェネリック薬になります。
副作用もあり、強めの薬だと聞いていたので、心配もあったのですが、パロキセチン10mgから服薬を開始します。
この薬は一度に40mg飲んでしまうときついので、徐々に服薬量を増やしていく、と医師から説明を受けました。
二か月ほどかけて、40mgの量まで増えます。
治療経過、現在
飲み始めて1、2年は良くなったと自分では思いませんでした。
それでも、大学院で研究はできるようになり、なんとか日常生活はおくれるようになります。
効果はありました。
幸いなことに当初、心配していたほど、薬の副作用はなく、飲んでいてきついと思ったことはありません。
私に合っていたのでしょうか。
薬を飲み始めて、3年目になるころです。
ふと気づくと、毎日の手洗い量が減っていることに気づきました。
また、昔はあれほど有った、汚いものへ触れることへの強烈な嫌悪感がありません。
なんとなく、あ、触っちゃったなー、じゃあ、手でも洗おうかなー、といった軽いノリへと変化していました。
そこからはとても早く症状が治まっていきます。
強迫性障害のまとめ

強迫性障害は、不必要なまでに恐れを感じ、不合理な対処をする辛い病気です。
ですが、医師の対応やカウンセリング、パロキセチンの服薬を3年程度続け、現在では、ほぼ寛解状態にあります。
強迫性障害を患っている方へのメッセージ
私自身がそうでしたが、どこからが異常なのか、分かりにくい病気でもあります。
大切なことは、周囲の声と自分の心の声をよく聞き、少しでもおかしいと感じたら病院を受診することだと思っています。
初めて病院に行ったとき、医師から長年、放置していた強迫性障害は治療が難しいかもしれない、という旨を言われました。
自分でも半ば、諦めがありました。
こんなに強く湧き上がる恐怖が、消えてなくなるなんて信じられませんでした。
ですが、そうではありません。
医師や薬のおかげでこんなにも改善するのだと、驚きました。
時間はかかりましたが、私は今、働くこともでき、日常生活を送っています。

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