【製薬会社開発部員のひとりごと】新薬開発部と営業部の関係

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新薬開発部(新薬を考えるところ)と営業部(MR)(薬を世に届けるところ)の関わりについてお伝えします。

まず、製薬会社の特殊性として挙げられるのが営業職に就くためにはMR資格試験が必要になることです。

この資格は公益財団法人MR認定センターが認証している資格となります。

国家資格ではありませんが、ほとんどの会社ではこの資格がないと営業をさせないようにしています。

今回の記事では新薬に関わる開発部と営業部の表と裏の関係をご紹介します。

もくじ

新薬開発部と営業部の関係

これは製薬会社によってかなり違います。

ここから先はお互いに表と裏を使い分けて新薬開発を進めていることをご紹介しましょう。

建前

新薬開発部が開発した新医薬用医薬品に関して、営業部としては新規の売り上げを上げるために必須のものとなっています。

治験の実施にかかわるお医者さんは日頃営業部が営業をかけているお医者さんであることが多いです。

基本的に治験の実施にかかわる先生は忙しいので、MRはなかなか面談できません。しかし、治験に関することであれば面談しないわけにはいきませんので開発部の方と一緒に行ってMRが話したい情報を伝えることができます。

新薬開発部員は経験のある分野では力のあるお医者さんにコネクションがありますが、全く新しい分野ではコネクションを探すところから始まります。

私のいた会社では、全てのお医者さんが使うような医薬品を扱っていたこともあり、ほとんどのお医者さんと面識がありました。

そのため、面談予約は直接電話するよりもMRを通して(MRが直接医師と関わっているため)面談予約を入れた方が早く確実でした。(私は人見知りするので、初めての人に連絡を取ることは苦手なので助けてもらいました。)

Sasin TipchaiによるPixabayからの画像

本音

新薬開発部員である私に取って、MRはアッシー君でした。

病院の近くの駅まで車で迎えに来てもらって、病院まで車で運んでもらえます。

また、目的のお医者さんがいる部屋まで案内してもらっていました。

新規医療用医薬品を発売するまでの関わり

治験の時には今まで述べたような関わりでやっています。

その製品が発売されるとまた開発部員の出番がきます。それは承認条件として全例調査を指示されたときです。(今は市販直後調査はほとんどの新成分をもつ新医療用医薬品で義務となっていますが)

全例調査の目的

申請をし、審査を受けている際に有効性の情報が不足している、安全性の情報が不足していると審査官が判断する場合があります。それを補完するデータを集めることです。従って、症例報告書は治験のときほど詳しいものではありませんが、単なる調査と異なり多くの検査項目や観察項目を必要とする場合があります。

今までその会社が作っていた薬剤であった場合にはそれほどMRがデータを集めても大きな問題は起こりませんが、全く別の分野で特殊な検査が必要な調査を行うときは大変なことになります

データを回収するときに重大な副作用を示唆するような検査値があってもMRは見逃す可能性があるからです。


MR試験があるので、一般的な検査に関しては十分な知識を持っているのですが、専門性が高いものは見逃すことがあります。
症例報告書はすぐに訂正するのが一番です。宅急便で本社に送ってからチェックして、問題が生じた場合には少なくとも3日はたってしまいます。

そのため、入手したらすぐに近くのコンビニエンスストアなどからFAXで送信してもらいました。(優秀な人は医局からFAXを送ってきたこともあります。)

私がすぐにチェックして、問題点があった場合にはすぐに訂正してもらうか、コメントをもらうようにしていました。

少なくとも1時間以内には返事をしていたので、すぐに医者に対応してもらうことが可能でした。

なにか新薬に問題があるとお医者さんに思われては販売に影響が出る可能性があるので、MRとしては時間を取られることもありあまりいい顔はされませんでした。

副作用情報を集めることもその医薬品を育てるためには必要なことであるという認識が高くなってきたので、現在は上記のように思われることはありません。

しかし、FAXを出して私から電話があるとろくなことはないというのがMRの認識でした。

競合品との比較

競合品のある新規医薬品の場合には、競合品との違いを明らかにすれば販売はたやすくなります。しかし、宣伝用の資料には競合品と比較試験を行ってもその結果を記載することはできません。そのため、文献にして紹介することが必要になります。

第Ⅲ相試験は文献にする必要があるので、それに耐えうるような試験計画を立てています。

目標とする競合品との差を第Ⅱ相試験の結果を検討することによってどれぐらいか見積もります。

そして、その差を統計学的に検出できるような例数で試験を実施しています。(それでも勝ったり負けたりしますが)

新医療用医薬品が市場に出てからも特徴をあきらかにする試験を行うことがあります。

この場合には試験の手足になるのは新薬開発部員の場合はほとんど無く、MRが立案、実施をおこないます。(試験の立案だけは新薬開発部員が行うか、それを専門の仕事をする部門を設置している製薬会社もあります。)
そして、結果が出てから新薬開発部員に相談が来る場合が有ります。

新薬開発部主導で治験を行う場合には、仮説を確かめるべき規模で治験を行います。

しかし、MRの場合にはその仮説を立てたお医者さんが主体で試験を行うことから規模が小さく、仮説を検出することができない場合がたくさんありました。

投与群は明らかに勝っているような数字は出ているのですが、例数が足りないために統計学的有意差がない場合があります。

その場合には学会発表を行ってもらい症例数を増やすか、二重盲検比較試験でこの仮説を確かめるということを結論として述べてもらうことになります。

この解決法はお医者さんはあまり気に入らないようでした。

最近はエビデンスのレベルがどのレベルかというのが、各種ガイドラインに記載されています。

それをみればその試験はかなりエビデンスレベルは低いことが分かります。

もうひとつ面倒なのは、今までの治療と新薬の効果を比較して文献にしたいというお医者さんの(MRの販促の)意見です。

このことを考える上で大切な条件は、

  • 必要事項は全てカルテに書いてあるので、書き写す作業と解析を行えば簡単なようにみえますが、これは結構難物です。
  • 仮説をどう立てるかによって、下手するとカルテに書いてあるだけでは不足することがたくさんあります。
  • 有害事象を集めるのにも条件が必要になります。
  • 外来にきているのが定期的であることが最低限必要となります。

といったものです。

実際に先生がたくさん患者を診ているということで後ろ向き研究(悪いという意味ではありません。データを過去から収集するという専門用語です)の例数はすぐ集まると考えていますが、上記のような条件をつけていくと使える例数は少なくなってしまいます。

先生と一緒に症例選別作業を行わないと、先生は条件に合わない症例がたくさんあることを実感できないので先生の機嫌が悪くなります。

また、厳密にいうと患者さんにカルテのデータをその試験に利用することの許可が必要になります。昔のデータを利用する場合にはそこは目をつむることになります。そのため、データから患者さんが特定できないようにしなければならないので、これも手間がかかる作業です。

試験の結果がでるまではビクビクものでした。

お医者さんは新規医薬品に手応えを感じているのに、それを否定するデータが出る場合もあるからです。

実際に例数不足やカルテからデータを吸い上げるところに問題があったとしても出てくる結果に関してはお医者さんは受け入れるものです。

当初の目的と逆の結果が出た場合にはMRの機嫌が悪くなりました。

こちらのせいではないのですが、その機嫌を直すことに汗をかいたという悪夢のような経験があります。

最後に

一つの化合物が「スクリーニング→動物実験→治験」を経て新薬開発部から営業部へ移るという流れは既に大昔のものとなっています。

1997年から安全性情報に関してはガイドラインに従って、販売している全ての国から集めて年一回まとめて、当局に報告することになっています。

副作用の発現率についても調べる必要があることから、発売後も使用者数と副作用(薬剤と因果関係が認められる有害事象)の例数を把握する必要があります。

そのため、副作用の情報は医師や薬剤師だけでなく、患者からも報告することが(法律上は)可能となっています。

その情報を集積し、分析することが必要です。そのためにMRも専門性を持つことが必要となり、

  • 薬効分野別MRを分けている会社
  • 新薬開発部員とMRの区別がない会社
  • 販売後にも開発が行われることから応用開発部という部門を作る会社

など、製薬会社によってさまざまなやり方でその報告に対応しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。



カテゴリー:”薬”立つ情報, 製薬会社

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