【製薬会社開発部のひとりごと】マスコミに登場する専門医の発言を信用しないわけ

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最近はコロナの問題でニュースやニュースショウに専門家が登場します。

他にもバラエティー番組で専門家を集めてびっくりするような意見を述べてそれを楽しもうとする番組もあります。

コロナの場合にはまだ最初の症例が見つかってから1年たらず、全ては仮説でしかないので問題はありません。

しかし、生活習慣病において完全に信用してしまうと危ないような発言をする人がいます。

また、専門家でもないのにYouTubeなどで専門的な見解を述べて流して何万人もの人のビューを稼いでいる人もいます。

専門家の発言に比べて文献をもとに述べているだけ、専門家の放言よりもましですが、文献の選択に問題がある場合があります。

医療の世界では「真実は神のみぞ知る」で、皆が従うのは最も証拠が信用できる仮説にすぎないのです。

もくじ

医学におけるエビデンスとは

Evidenceとは英和辞典を引くと「証拠」という意味であると記載されています。

つまり、エビデンスは真実を表しているのではなくて、ある仮説を立証するための証拠であるということです。

刑事ドラマであれば、証拠を積み重ねることによって真実に近づけます。

残念ながら、医学では信用できるエビデンスがあるほどその治療をみんなに勧めても良いということだけになります。

エビデンスに基づく治療というのは一番信用できる証拠に基づいて治療を行うということであって、この治療が正しいから治療を行うわけではありません

よく「最新の科学技術の進歩によって何々をしたが、想定外のことが起こったのでこういう事故が起こった」ということがあります。

建築を例に出すと、建設時点で事故が起こることを想定することはその時の科学技術上不可能であった場合には受け入れ可能ですが、単にその時に経済的な事情で行わなかったことの言い訳にはなりません。

例えば、福島原発事故が当てはまります。建設時には確定していなかった可能性はありました。

しかし、建設後ある時に、東北大震災級の地震の可能性が指摘され対応を取るべきであったことが事故直後には隠蔽されていました。

内部文書にしっかりその議事録が残っていて、裁判で福島原発事故は想定内であり、対応をしなかった東京電力の経営陣に責任がある判決が確定しています。

仮説は覆る〜ビタミンEを例として〜

仮説というのは、例えば「ビタミンEを飲み続けると長生きする」ということです。

これにはまず、今までの状況を振り返ってみるとビタミンEを飲んでいる人が長生きしているという状況がありました。そのため、ビタミンEやビタミンEを含むサプリメントは大いに売れました。

しかし、今まで長生きした人を調べてビタミンEの摂取量が高かったこととビタミンEを摂取すると長生きするということは別問題です。

長生きした人には長生きする理由が他にもあり、ビタミンEの摂取量と長生きはたまたまデータがそうなっただけで因果関係はないのではとも考えられます。

ビタミンEを飲むと長生きするかを確かめるには、ビタミンEを長期間飲ませて長生きするかどうかを確かめる必要があります。

しかし、それだけでは他の理由があった場合にまた結果に影響を与えるかもしれません。

その可能性をのぞくためには試験の方法を工夫します。

まず、ビタミンEが効果があることを確かめるために、ビタミンEを飲まない集団と比較すればいいですが、これだけではたまたまビタミンEを飲んだ集団に長生きする要因を持っている人が偏って入るかもしれません。

ビタミンEを飲む人と飲まない人を無作為に(例えばサイコロを振って奇数ならビタミンE摂取集団に、偶数ならばビタミンEを飲まない集団)振り分ければその可能性がのぞかれます。

また、ビタミンEを飲んでいるということが精神的に影響して長生きするかもしれません。

したがって、ビタミンEを飲まない手段にはビタミンEと外見上は区別のつかない錠剤を飲んでもらうことにします。このビタミンEの入っていない錠剤をプラセボとよびます。

長生きするかどうかの指標は研究期間中に何人死んだかですからわかりやすい指標です。若い人を試験に組み込むと数年ではだれも死なないかもしれません。そのため、中高年の人を試験に組み込んで試験が行うことになります。

結果は予想に反してプラセボを飲んだ集団の方が長生きしました。(といっても差は少ないですが統計学的有意差はありました)ビタミンEを飲んでも長生きするわけではないことが分かりました。

では、長生きした人でなぜビタミンEの摂取量が多かったのでしょうか

それはこの試験からではなにもいえません。長生きしていた人はビタミンEの摂取量がたまたま多かっただけで、他の理由で長生きした可能性がありそうだということです。

このように、このやり方は仮説が正しいかどうかを確かめることはできますが、正しくなかった時にその理由は与えてくれません。しかしながら他にエビデンスを高める方法は今の科学技術においてはありません。

同じような試験によってビタミンCの長生きを調べた調査があります。

この二つの試験から

ビタミンEは油にとけて水に溶けにくい

ビタミンCは水に溶けて、油に溶けにくい

という性質を結びつけて、

ビタミンEは肝臓から排泄されて胆管から再吸収されるので、過剰になる

ビタミンCは腎臓から排泄されて再吸収はほとんど考えられないので、体に蓄積しない

という仮説が提出されています。

だから、あれやこれやといわれる場合にはその仮説が確かめられているかどうかの検証が必要になります。

エビデンスのレベル

医学の世界ではエビデンスのレベルが明確に決まっています。レベルが高い(信用度が高い)順に並べると以下のようになります。

  1. 複数の二重盲検比較試験を統合解析したものがある
  2. 1または複数の二重盲検比較試験の結果が一致している
  3. 試験対象集団がランダム化が行われていない比較試験
  4. コホート研究
  5. 過去を対照としたあるいはある一時期に大量にデータを集めて分析
  6. 症例報告
  7. 専門家個人の意見

このうち4と5は同等と見なして4a、4bと分類される場合があります。

このレベルで見て分かるように、何らかの試験データに基づかない専門家の意見はエビデンスが最も低いと評価されています。


真実は1から7のどれにも含まれる可能性はあります。

しかし、真実であることは神ではない人間では証明できません。

エビデンスは何に使われるか?

この基準は医学の世界では確立したもので、治療のガイドラインを作る場合には、どの程度のエビデンスのレベルがあるかを調べて記載することになります。

日本では血圧は収縮期血圧(上の血圧)が140mmHgですが、アメリカでは130mmHg以上が薬物治療の対象になります。

これは人種差の問題が含まれているかもしれませんし、他の理由があるかもしれません。

高血圧治療の最終目的は脳心血管障害にならないこと、あるいはそれが原因で死なないことです。

試験は診断時の血圧に対して薬剤治療を行って心血管障害の発生率がプラセボ投与に関して上がっているかどうかの試験が行われており、複数の試験から治療をした方がいいという結果になっているからです。

ただ、治療前の血圧に関しては幅広く集めて、用量依存性の解析を行ってどれぐらいから治療を始めたら良いのかを決めています。

統計手法は年々進化している

統計手法が確立していれば、統計学の分野では文献は必要ないことになります。

しかし、統計に関する文献は毎年たくさん出ています。

同じデータを解析しても手法によって結果が異なる可能性があります。

今のところは複数の二重盲検比較試験を行ってその結果が一致しているというのは統計手法の違いを超えて一致しているという側面もあります。

最近はビックデータという話を聞きます。

例えば、診療報酬のデータでは

・病名

・投与開始日

・投与終了日

・死亡日

以上のデータを全部集めることも可能です。

しかし、データの信頼性に問題があります。

健康保険に合うように診断名を変えている場合が有るからです。

そして、投与開始日から投与終了日までどれぐらいきちんと飲んでいるかに関してもなにも情報がありません。

マイナンバーカードのICに保険証や運転免許証のデータが入ることになってビックデータの解析ができると期待する向きがありますが、どれぐらいきちんと飲んでいるかのデータと副作用のデータが今のままでは、副作用の評価を誤る可能性があります。

薬の評価はベネフィットリスク両方評価して天秤にかけることです。

リスク過小評価されていてはせっかくの試みも無駄になります。

まとめ

わたしがテレビの専門家の発言を信用しないのはデータの裏付けを取っているかどうか分からないからです。

最先端の論文は単に動物実験からでる仮説を述べたもので、ひとでは全く確かめられていないものがあります。

それがその専門家の口を通してあたかも人間でも通じるかのように述べられていることは全てとはいいませんが、あります。

また、体内時計に関する話題が非常に広がっていますが、人間の体内時計は24時間を少し超えているという根拠になる試験は測定そのものに誤差があり、例数も数十例にも満たないものです。

それを事実として認定して仮説を立てている例がたくさんあります。

つまり、体内時計のリセットが必要であるという仮説です。

これから先、測定機器の進歩が今までの仮説を覆す可能性があります。

ウエアラブル端末による睡眠、血圧、心拍数、心電図、酸素飽和濃度の24時間連続測定は既に可能となっています。

しかし、その機器を利用した結果がでるのはまだまだのようです。

もっと夢を語ると、脳波の測定をウエアラブル端末で測定可能になることが実現すると今までの治療が変わる可能性があるのが精神病の分野です。

現在の精神病のガイドラインを見るとそのガイドラインに書いてあることのエビデンスレベルの評価はほとんど行われていません。脳波に限りませんが、診断のために必要なデータはほとんど患者やその家族の症状を聞き取ることからできているからです。

難しい内容になりましたが以上になります。

最後までお読みいただきありがとうございました。



カテゴリー:”薬”立つ情報, 製薬会社

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