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〜はじめに(運営から)〜
寒いですね、冷え性なので冬は苦手です。
今回は風邪やインフルエンザ、はたまた新型コロナウイルスという厄介な病気が流行り始めるこの冬という季節に、みなさんがよく使っている漢方薬をご紹介しようと思い記事にしてもらいました。ご参考になれば著者・運営共々嬉しいです。
以下、医師の監修記事になります。
もくじ
麻黄湯の名前の由来
麻黄湯は、麻黄という生薬が入った漢方薬です。
最後についている湯というのは、生薬をぐつぐつ煮て、それを飲んで用いるという漢方薬ということです。
現在はエキス製剤といってその水分を蒸発させて乾燥させたものが販売されています。
麻黄には、発汗、解熱などの作用があります。
麻黄湯と生薬の構成が似た別の漢方薬がありまして、麻杏甘石湯といいます。
麻杏甘石湯は麻黄、杏仁、石膏、甘草という4つの生薬からなっています。
麻黄湯は、麻杏甘石湯の中の石膏を桂皮に変えた漢方薬になります。
石膏は体の熱をさますもの、桂皮は体を温めるものです。
そのため、麻黄湯は寒気がするときに有効です。
どのようなときに使う?
漢方薬は西洋医学で用いるお薬と異なり、使用する目的が複数あることが多いです。
また、同じ目的で治療する場合でも、体質によって異なる漢方薬を用いることがあります。

麻黄湯の場合は、体質としては、実証といってがっちりとして見た目が丈夫なタイプがよいとされています。
麻黄という成分が交感神経を活発にする作用があり、そのために手の震え、動悸などがでることがあり、その場合は中止します。
高血圧や心臓病などがある場合は負担になることがあるので医師に相談するとよいです。
胃腸に負担が少しかかるため、胃腸が弱い人も避けたほうが良いとされています。
用いられる病状としては、風邪、インフルエンザ、喘息、百日咳、肺炎などが代表的です。
風邪に用いる場合、もっとも効果が高いとされている病状が昔からの伝統的な書籍である傷寒論(3世紀頃にできた張仲景という人が書いた中国の伝統医学書)に記載されています。
「病気の初期で、
・頭痛がして
・寒気がして
・熱がでているか、これからでるというときで
・体が痛く、腰が痛く、骨や筋肉が痛くて
・汗をかいていなくて
・呼吸がぜいぜいする」
そんな症状に麻黄湯を使用するとよくなるとされています。
傷寒論の症状は現代では典型的なインフルエンザに相当するものと考えられます。
インフルエンザや、インフルエンザのような強い症状の風邪に用いるとよいです。
ぜいぜいした呼吸の苦しさを和らげるため、喘息を持病で持っている方が風邪をひいて、風邪と喘息両方の症状があるときなどにも良い選択になります。
あまり知られていない用い方としては、乳児の鼻づまりがあります。
風邪で鼻が詰まって苦しく、鼻が詰まっているために眠れないとか、授乳ができないときに効果を発揮します。
含まれている生薬はなに?
麻黄5g、杏仁5g、桂皮4g、甘草1.5g

麻黄はエフェドリンという交感神経を活性化する物質を含みます。
咳や呼吸がゼイゼイするときに有効です。
杏仁は胸のあたりの水の滞りを解消します。
咳、痰、呼吸がゼイゼイするときに有効です。
桂皮はシナモンのことで、体を温め、気分をよくする効果があります。
甘草は症状を安定させ、他の生薬を調和させる働きがあります。
麻黄湯の特徴
麻黄湯は多くの漢方薬のなかで、解表剤という分類の漢方薬になります。
解表剤というのは、あまり聞かない言葉ですね。
昔まだ細菌やウイルスなどの微生物が知られていない時代、風邪はなにか悪いものが体の外側から中に進んでいって症状が出ると考えられていました。
そして風邪の初期症状である寒気や鳥肌、震え、関節痛などは、その悪いものがまさに体の表面から侵入しようとしているときであると考えました。
この体の外側の表面のあたりの不調を解決するという漢方薬が解表剤ということになります。
微生物が発見された現在の医学からみても、なかなか鋭い考えや解釈だとおもいます。
このため、麻黄湯は、
”風邪やインフルエンザなどで、寒気がして、まだ汗をかいていない初期のころ”
に用いる漢方薬と考えるとよいです。
同じ風邪でも体質や症状が異なるときには、
・葛根湯
・小青竜湯
・桂枝湯
・麻黄附子細辛湯
などが用いられます。
他の風邪に用いる漢方薬との使い分けポイント
体質や症状が異なる場合に用いられる他の漢方をご紹介いたします。
葛根湯は体格ががっちりした人に用いる点は共通しています。
麻黄湯のほうが激しい症状に用いるのと、麻黄湯は節々や腰がとても痛いのに対して、葛根湯は肩や首の後ろがこるような痛さがあるという点が異なります。
桂枝湯は体格や体質が弱い方の風邪に用い、風邪をひいて汗をかいているときが適しています。
小青竜湯は、体格が中くらい~しっかりした人の鼻水やくしゃみが多いときに用います。
麻杏甘石湯は、寒気と発熱がなく、咳とゼイゼイした呼吸が激しく痰が粘り気があって黄色いときに用いられます。
実際に麻黄湯を使用した症例
Aさん:20台男性、がっちりした体格、胃腸は強く、喘息の持病がある

Aさんは冬のある日に寒気と少しだるさを覚えました。
そのまま様子をみていると、寒気は強くなり、頭痛、関節痛、筋肉痛がつよくなり、咳がでて呼吸が苦しい感じがしてきました。
熱がありそうで、はかってみると38度になっていました。
Aさんは早めに病院に行くことにしました。
病院ではAさんの症状を聞いて、診察しました。
診察では、脈が触るとすぐ分かるほど強く、お腹はさわるとがっちりしていて、舌は湿っていて周りは赤くて中央は白い苔が少しついていました。
(これらは麻黄湯が適していると思われる診察結果です)
さらに聴診器で胸の音を聞くと、息を吐くときにヒューという音がしました。
症状と診察から医師は麻黄湯を処方することにしました。
Aさんが麻黄湯を服用して数時間したころ、寒気がなくなり体が暖かくなりました。
熱は39度ですが、だるさがとれてきました。
その後汗をかいて熱がさがってくると、体調はよくなっていました。

まとめ
麻黄湯は市販もされている漢方薬で、もしかしたら聞いたことがあるかもしれません。
風邪に用いる漢方薬の代表的なものの一つです。
丈夫でガッチリしたタイプの体質の人が使うことが基本で、体型が華奢で風邪をひきやすい人などは適していません。
風邪っぽい症状につかうときは、寒気やだるさがではじめた初期であって、インフルエンザを疑うような強い節々の痛みやだるさがある場合に適しています。
現代医学の病名という観点から考えると、風邪、インフルエンザなどの病気の時に使うとよいです。
コロナウイルス感染症であってもインフルエンザっぽい症状があるときには適していると思います。
この他に、乳児が風邪で鼻が詰まって苦しく機嫌が悪いときに使うと鼻が通って楽になるという使い方があります。
記事作成者名(クラウドワークス名)
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<経歴>
認定医:日本プライマリケア連合学会認定プライマリケア認定医・日本医師会認定産業医
専門医:日本プライマリケア連合学会認定家庭医療専門医
千葉大学医学部卒業後、JR東京総合病院、亀田総合病院を経て、現在三浦海岸つばさクリニック院長。対話を大切にし、安心・信頼・満足できる医療を提供している。
診療科目:内科・小児科・皮膚科・漢方内科。