【社労士】休職・退職で使える公的補償【メンタル編】

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休職・退職で使える公的補償のメンタル編です。

労災と精神疾患

労災の請求件数が伸びているカテゴリーが精神疾患です。
統計を取り始めた平成9年の請求件数は41件、そのうち認定件数は2件でした。
しかし、令和元年の精神障害に関する労災の請求件数は2060件、認定件数は509件と、わずか20年ほどで比較にならないほど請求件数が伸び、認定件数はおおむね請求件数の3割です。

精神疾患での労災は会社が最初から「会社の業務が原因」つまり、業務起因性を認めることは実際には少なく、休職する場合、健康保険の傷病手当金でスタートします。

診断書について、正しく理解を

ここで注意しなければならないのは労働者が“上司のパワハラによって適応障害“と書かれた診断書を人事に提出した。というケースです。
労働者は「診断書さえ出れば会社対応において自分が有利になる」と考えがちです。
また、使用者は「これで裁判にでもなれば会社が負けるのでは」と考えがちです。

しかし、診断書は「パワハラの証拠」には必ずしもなりません
診断書は労働者の一方の主張だからです。
よって、会社は診断書に振り回されることなく冷静に事実を調べることが大切です。
そして、調査の上パワハラがなかったとしても労働者から訴えがあったのは事実なので、今後に向けた対応策を決め、それを実行することが大切です
労働局から指導を受けたり、裁判になったりした時なども「会社としてこれだけやりました」という事実の積み重ねが大切です。

雇用保険のトラブルを回避するには

精神疾患による退職のとき、雇用保険をめぐってはトラブルが起きやすいです。
労働者からよくあるのは「会社都合の退職といわれたのに、自己都合退職になっていた」というものです。
知っておいていただきたいのは、雇用保険の支給決定権者は会社ではないということです。
決定権者はハローワークの所長です

労働者は「このままでは会社と揉めそうだな」と感じたら、在職中にハローワークに行くことをお勧めします
そして「今の会社でパワハラやセクハラを受けている。退社する可能性もある。自己都合とされそうだが、どのようにしたら会社都合になるのか」と、具体的な状態を伝えながら今後の相談をハローワークの職員にします。

例えば、セクハラの相談を東京都などの行政に行うことで、東京都から会社に指導してもらうことになります。
そして、1か月などの期間を過ぎても会社がセクハラの対応しないという事態となった場合、会社が『自己都合退職』との判断を下したとしても、東京都などの行政機関には労働者から相談記録があります。
その相談記録をハローワークに提出することで、会社本位ではない総合的な判断をハローワーク所長に委ねることができます。

実際にあったケース

これはある女性の例です。

あるアミューズメント施設に正社員として入社しましたが、2年がたっても正社員としての仕事がまったく覚えられません。
基礎的な計算さえ間違い、また周囲に対しては距離が近く馴れ馴れしいという印象を与えていました。
常にトラブルが絶えず、短い休みを繰り返してきました。

そしてある日、女性は「職場の上司のパワハラによる適応障害」の診断書を持参しました。
会社は「もうこの職員を異動させる部署がない」といいます。
女性は「労働局のあっせんや労働審判も考えている」といい、頑なです。
ついに会社はクビを言い渡そうとしましたが、裁判になれば成績での解雇はまず認められません。
労働者も使用者も、硬直状態となりました。

そこで、社会保険労務士として労働者から話を聞くと、実は小学校から発達の偏りがあると支援を受けていた、その支援先に相談したところ医師からの診断書の提出やあっせんを勧められた、といいます。
また、「辞めれば次の職がないかもしれない、と焦っていた」といいます。

そこで、この女性には就業規則に沿った休業を勧め、またその間は会社の規則通り傷病手当金を受けることとしました。
週に1回、会社で面談を続けていくと、女性は「自分は元々人懐っこく、接客は得意、また、料理はプロ並みの腕」といいます。
アミューズメント施設としては客足が落ちており、接客の仕事は用意できないが、料理は外注化か小分けの料理へのシフトを考えていた、といいます。
女性が「この会社には迷惑をかけた、復職しても気まずいだけだと思う。ほかの会社で働けるのなら紹介していただきたい」という希望どおり、外注先の食品製造会社に転職を決めました。

また、この会社に対しては「パワハラの事実はともかく、訴えがあったことを重く受け止めるべき。定期的な労働者と上司との面談を早急に計画・実施してほしい」としました。
この後、目立ったトラブルはありませんが、日ごろから精神障害が出ないよう、予防支援を積極的に展開しておくことはとても大切なことです。

まとめ

データからも分かるように、精神疾患に関連する労災は日に日に増えています。
今回ご紹介したように、知識を広げることでいざという時により良い選択肢を選べるようになります。
自分だけで解決しようとせず、行政や専門家の力を上手に活用することも大切です。

ライター名(ランサーズ名):saniken

<経 歴>

社会保険労務士・臨床心理士・通訳案内士(英語)。

労働問題、企業のメンタル問題に取り組む。

弁護士、医師、社会保険労務士ら専門職へのメンタルコンサルテーション、講義と、外国人労働者メンタル支援を得意とする。

りんどう国際事務所(https://www.rindowkokusai.com/)



カテゴリー:お金・保険関係, 社会保険労務士【労働・健康保険】

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