この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。
もくじ
六君子湯について
六君子湯の名前の由来
【六君子湯(りっくんしとう)】は、四君子湯(しくんしとう)という漢方薬が基になっていて、そこに二陳湯(にちんとう)という漢方薬が加わった構成で、合わせて六君子湯になります。
名前の最後についている【湯】というのは、『生薬をぐつぐつ煮て、それを飲んで用いる漢方薬』という意味です。
現在はエキス製剤といって、水分を蒸発させて乾燥させたものが販売されています。
四君子湯は、『人参、蒼朮、茯苓、甘草』の4種が主な成分で、いずれも胃腸を補い元気を付ける作用があります。
二陳湯は、胃のあたりに水分が停滞している場合に効果があるとされます。
六君子湯はどのようなときに使うか
漢方薬は西洋医学で用いるお薬と異なり、使用する目的が複数あることが多いです。
また、同じ目的で治療する場合でも、体質によって異なる漢方薬を用いることがあります。

六君子湯の場合は、
●体質としては、虚証といって『細身の体であったり、風邪をひきやすかったり
する虚弱なタイプ』がよいとされています。
●用いられる病状としては、『胃もたれ、胃炎、逆流性食道炎、うつ病』などが
代表的です。
という特徴の人に適しています。
効能としては、胃腸が弱く、食欲がなかったり、慢性的な下痢があったり、消化不良、胃酸の逆流などがある場合に用いるとよいとされています。
六君子湯に含まれる生薬

蒼朮4g、人参4g、半夏4g、茯苓4g、大棗2g、陳皮2g、甘草1g、生姜0.5g
このうち、
●四君子湯は『蒼朮、人参、茯苓、甘草』の4種類
●二陳湯は『茯苓、半夏、陳皮、生姜、甘草』の5種類
でそれぞれ構成されているため、六君子湯は四君子湯と二陳湯の合方といわれています。
四君子湯は気力を補う働き、二陳湯は水分の停滞を解消する働きがあります。
六君子湯の特徴
六君子湯の原典とされているのは万病回春(16世紀の中国の伝統医学書)です。
六君子湯は多くの漢方薬のなかで、補気剤という分類の漢方薬になります。
漢方医学において、人の体は【気・血・水】という3つの大黒柱によって保たれているとされています。
まだ病気の原因が現在ほどよく知られていない昔には、元気や食欲がない状態は、三大柱の内の【気】エネルギーが少ないことによって起こると考えられていました。
そんな時に、気力を補うために用いられるカテゴリーのお薬を補気剤と呼びました。
この【気】というのは、現在でも『元気や気力』などという言葉で使われていますし、太極拳や気功法などの例もありイメージしやすいと思います。
科学が発展した現在では、気力がない状態は脳の化学物質の不足やバランスの悪さなどで説明されますが、【気】力がないという考えは現在でも一般社会では十分に通用するなかなか鋭い考えや解釈だとおもいます。
同じような目的で用いられる補気剤には、四君子湯、補中益気湯、啓脾湯などがあります。
六君子湯は、科学的にもとてもよく研究されている漢方薬です。
食欲増進ホルモンといわれるグレリンの分泌を増やすとされています。
グレリンは脳に作用して食欲を増すほかに、腎臓に作用して慢性的な腎臓の不調に効果があるとされています。
また、動物実験では寿命を延ばす効果も報告されています。
実際に使用した症例
Aさん:50代女性、ほっそりした体格、胃腸が弱い、元気がない

Aさんはもともと胃腸が弱く、普段からあまり活発ではない方です。
食欲はありますが、いざ食べようとすると多くは食べることができず、すぐに満腹になります。
また、食べた後はとても眠くなります。
脂っこいものが多かったり、少しでも食べ過ぎたりすると、すぐに胃もたれがおこり、胃のあたりが痛みます。Aさんは胃薬をもらいに消化器内科に受診しました。
診察した医師は、Aさんの状態や症状として
●細身の体型
●脈が触り辛く、深いところにあり弱い
●舌は湿っていて、少し厚い白い舌苔がある
●お腹は細くて凹んでいて元気がなく、胃のあたりは押すと少し抵抗があり、ちゃぷちゃぷと水が動く音がする
●大動脈の拍動を容易に触れる
などの所見と今までの経緯から、胃薬として六君子湯が適していることをAさんに説明しました。
Aさんは処方された六君子湯を内服すると、比較的すぐに胃のもたれがなくなり、食事量が増え、食後に眠くなることもなく元気になっていきました。
まとめ
六君子湯は市販もされている漢方薬で、もしかしたら聞いたことがあるかもしれません。
胃の不調や元気がないときに用いられる漢方薬の代表的なものの一つです。


細身で虚弱なタイプの体質の人が使うことが基本で、丈夫でガッチリした体型の方はもともとの使用方法から考えるとピッタリ適しているとは言えませんが、使用しても大きな心配はしなくてよいです。
大きく分けて気力が不足して、元気がない、気分が憂うつで、以前楽しかったことが楽しめないなどの症状がある時に使う場合と、胃もたれや胃酸の逆流などの症状がある場合が使う候補になります。
両方の症状があって、胃のあたりがちゃぽちゃぽ鳴るときは最も適しています。
現代医学の病名を参考にして使用する場合は、胃炎、逆流性食道炎、うつ病などが考えられます。
他の補気剤との使い分けポイント
最後に、六君子湯と似た補気剤を、使い分けポイントと一緒にご紹介いたします。
四君子湯(しくんしとう)は六君子湯の構成要素でもあり、使う場合は似ていますが、胃のもたれる感じや胃の中にちゃぷちゃぷした水分の停滞がない場合に、より適しています。
柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)は、六君子湯に柴胡、芍薬が加わったもので、エキス製剤では六君子湯と四逆散を合わせたものになります。
ストレスからくる胃腸の不調に用いられます。
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)は、六君子湯に香附子、縮砂、藿香をくわえたもので、エキス製剤では六君子湯と香蘇散を合わせたものになります。
元気がなく気分が憂鬱である場合や、食べ過ぎた場合などに用いられます。
人参湯(にんじんとう)は、六君子湯で胃痛や下痢が起こる場合で、冷えると悪化する場合に用いられます。
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は、体格が中くらい~しっかりした人の鼻水やくしゃみが多いときに用います。
他に合方といって、2種類一緒に使う場合があり、六君子湯と組み合わせられるのは、『小柴胡湯、半夏瀉心湯、桂枝加芍薬湯、小建中湯』などがあります。

記事作成者名(クラウドワークス名)
kaoriaota_766f
<経歴>
認定医:日本プライマリケア連合学会認定プライマリケア認定医・日本医師会認定産業医
専門医:日本プライマリケア連合学会認定家庭医療専門医
千葉大学医学部卒業後、JR東京総合病院、亀田総合病院を経て、現在三浦海岸つばさクリニック院長。対話を大切にし、安心・信頼・満足できる医療を提供している。
診療科目:内科・小児科・皮膚科・漢方内科。