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肝臓は、肝機能障害が起こってもなかなか症状が現れないため、沈黙の臓器と言われています。
そのため、症状が現れたときには、障害がかなり進行しているケースが多いのです。
今回は、慢性的な炎症の放置によって発症する肝硬変についてお伝えします。
もくじ
肝硬変とは

肝硬変は、習慣的にお酒を過剰摂取したことで発症するイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか?
肝硬変は、突然発症するわけではありません。
長期間にわたり肝臓に炎症が起こることで、肝細胞の破壊と修復を繰り返すことで徐々に肝臓が線維化して肝臓全体に広がっていきます。
この線維化によって、肝臓全体が硬く小さくなる病気を肝硬変といいます。
肝硬変になった肝臓は、元の状態には戻りません。
肝硬変になるまでの経緯をまとめると以下のようになります。
慢性肝炎 ⇒ 肝細胞の破壊と修復 ⇒ 繊維質の蓄積 ⇒ 肝臓の中に壁が形成 ⇒ 結節形成 ⇒ 結節が集塊 ⇒ 肝硬変
肝硬変になっても初期症状はほとんどありませんが、症状が悪化すると黄疸、腹水、血流障害、消化管出血などがみられます。
さらに重症化すると、肝不全や肝癌になることもあります。
そのため、早期発見をして症状の進行を食い止めることが重要となります。
原因
肝臓への長期にわたる慢性的な炎症が肝硬変の原因ですが、その炎症を引き起こすものとして次のようなものが挙げられます。
◆肝炎ウイルス感染
炎症を引き起こす原因として全体の8割近くを占めています。
- B型肝炎ウイルス
- C型肝炎ウイルス
◆アルコールの過剰摂取
◆自己免疫性
自己免疫性肝炎は、免疫異常によって自らの肝細胞を破壊してしまいます。
中年以降の女性に好発します。
◆非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
脂肪や肉類中心の食事習慣の変化により、脂肪肝から肝硬変に発展する人が増えてきています。

症状
肝硬変は、症状の進行によって代償性と非代償性に分類されます。
代償性肝硬変は、肝機能が保たれている初期の肝硬変で自覚症状に乏しいことが多いです。
非代償性肝硬変は、肝硬変が進行して肝機能が著しく低下しているため、黄疸、腹水、浮腫、食道胃静脈瘤(門脈圧亢進)、消化管出血、肝性脳症(意識障害)などの様々な症状が現れます。
◆肝硬変の症状
- 全身倦怠感、疲労感
- お腹が張る
- 下半身のむくみ
- 鼻血
- 体重減少
◆身体所見
- クモの巣状斑点(首から胸部にかけて赤く出現)
- 手掌紅斑(手掌が赤くなる)
- 女性化乳房
- 発熱
- 黄疸
- 腹水・浮腫
門脈圧亢進とは
門脈は、脾臓・胃から肝臓に8割近く血液を供給する血管です。
肝臓が硬く小さくなると門脈の流れが滞るため血流の抵抗が増加することを門脈圧亢進といいます。
肝硬変がさらに悪化すると、門脈は肝臓を通らずに短絡路を形成して静脈に流れます。
その血管は、壁が弱く穴が空くと吐血や下血をして貧血やショックの原因となります。
検査と診断
肝硬変は、単独の検査で診断することは困難とされています。
そのため、多くの検査を行なって、その結果から総合的に診断していきます。

◆問診
問診では、以下のことについて確認しています
- 飲酒暦(飲酒量も含む)
- 輸血暦
- 既往歴(糖尿病など)
- 身内にウイルス性肝炎患者の有無
◆身体診察(触診と視診)
触診
- みぞおち(肝臓が硬いか)
- 左肋間(脾臓が腫れているか)
- 膨満(腹水の有無)
視診
- 首、胸部(蜘蛛の素状斑点の有無)
- 黄疸(肌や白目が黄色)
◆血液検査
・肝臓の状態(働き)を調べる
低値:アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼ
高値:ビリルビン、アンモニア
・門脈圧亢進と脾臓腫大の有無
低下:血小板数
・肝癌合併の有無
高値:腫瘍マーカー(AFP)
*肝硬変は、肝癌に合併しやすいので腫瘍マーカーの検査は必要です。
◆画像検査(超音波検査とCT検査)
肝臓の形や内部構造を確認します。
超音波検査
- 肝表面:凹凸不整 肝縁:鈍化(丸みを帯びる)
- 肝右葉:萎縮 肝左葉:腫大
- 内部エコー:粗く斑状で輝度が高い
- 肝周囲:門脈圧亢進による短絡路、脾腫、腹水など
*CT検査でも同様のことがわかります。
◆腹腔鏡検査
肉眼的に肝硬変の有無を観察したり、肝臓から組織を採取して病理診断します。
治療について
肝硬変になった部分を元の状態に戻すことはできないため、治療目標は『残された肝機能の維持』と『合併症と肝癌の予防』となります。
肝炎ウイルス感染の代表的な治療には、抗ウイルス薬を用います。
また、抗ウイルス薬が適応しない肝硬変の場合は、肝炎を鎮静化させて病状の悪化を抑える肝庇護(かんんひご)療法がおこなわれます。
また、肝硬変によるアミノ酸不足を補うために、補充薬を服用することでタンパク質合成能の改善を目指します。
他にも一般的な治療で改善が見込めない時は、一定の基準を満たしていれば肝移植を受けることもできます。
予防
肝硬変の原因の大半を占めるのが、B型・C型肝炎ウイルスによる感染ですので、ウイルスの特徴をしっかり理解して感染しないようにすることが大切な予防になります。
B型肝炎ウイルスの特徴
- HIV(エイズウイルス)と比較すると50~100倍の感染力があります。
- 感染者の大半は、母子感染(母親から生まれた子供への感染)によるものです。
- 急性B型肝炎の感染原因は、不特定多数との性行為、不衛生な環境での医療行為、ピアス、タトゥーなどが挙げられます。
C型肝炎ウイルスの特徴
- 輸血、血液製剤、注射針の使いまわしなどで感染します。
- B型肝炎と同様に不特定多数との性行為でも感染する恐れがあります。

以上から、肝炎ウイルスの感染原因を避けることを心掛け、B型肝炎であればワクチンの接種をして予防に努めることをお勧めします。
現在、C型肝炎にワクチンはありません。
また、飲酒習慣のある人は適量の飲酒、非アルコール性脂肪性肝疾患(NASH)は生活習慣を改善していくことが必要です。
肝臓は沈黙の臓器ですので、健康診断などの定期検査をして予防と早期発見に繋げていきましょう。
ライター名(ランサーズ名):まさざね君
<経 歴>
臨床検査技師の国家資格を2000年に取得。
臨床経験は、総合病院で15年、癌・肺疾患専門病院で5年目になります。
臨床現場では、健診から救急患者まで生理検査を中心に従事しています。
臨床検査技師は、血液などの検査値だけでなく、細菌培養、画像診断、細胞や組織などについても検査して報告しています。
これらの検査を通して、病気の原因、検査、治療、予防など分かり易くお伝えしていきます。
気になるは病気について、少しでもお役に立てれば幸いです。
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