肺がんの分子標的治療薬、イレッサの解説

この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

今回から「薬から探す」についての記事としてイレッサを例にお願いしました。

以下、薬学部の先生からの記事になります。

※運営よりお知らせ:記事を簡潔に掲載する都合上、専門用語の解説は少なめになっています。気になる言葉を左クリックを押したままなぞり、右クリックで検索をかけることができますのでその方法をご利用ください。


イレッサとは?

イレッサは、非小細胞肺がんのうち、手術不可能または再発したものに使われる抗がん剤であり、イギリスの製薬会社であるアストラゼネカが製造・販売を行っています。

イレッサという名前は商品名で、この薬剤の一般名はゲフィチニブと呼ばれ、がんの細胞増殖(腫瘍の増大)などに関与する特定の分子を狙いうちする「分子標的治療薬」と呼ばれる薬剤の一種です。

非小細胞肺がんの中には、上皮成長因子受容体(EGFR)のシグナルによってがん細胞が増殖するものがあり、このシグナルを抑制するとがん細胞の増殖抑制、腫瘍の増大抑制が期待できます。

イレッサの開発経緯と作用メカニズム

アストラゼネカは、EGFRをターゲットとする分子標的治療薬の開発を目的として、自社が持つ約1500種類の化合物を使って研究を行い、EGFRに選択的な阻害作用を持ち、腫瘍増殖抑制効果を示す化合物を発見しました。

この化合物は、ZD1839という開発コード番号を与えられ、様々な試験を行った後に日本では世界に先駆けて2002年に承認され、医療の現場に登場しました。

イレッサは、ターゲットとなるEGFRのチロシンキナーゼのATPが結合する部位に結合する性質を持っています。

チロシンキナーゼにATPが結合すると自己リン酸化がおこり、細胞増殖のシグナル伝達経路が活性化します。

イレッサは、このATP結合部位に、ATPと競合的に結合、つまりATPとイレッサが結合部位の取り合いをするわけです。

イレッサが結合したチロシンキナーゼは、自己リン酸化ができないために細胞増殖のシグナル伝達経路を活性化させることがで来ません。

その結果、がん細胞の増殖抑制、そしてがん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導する、これがイレッサの作用機序です。

がん細胞のEGFRが特殊な型の変異をもつ場合、イレッサの腫瘍を縮小する効果は大きくなりますが、イレッサの投与によって2次的な変異がEGFRに起こった場合、イレッサ耐性のがん細胞出現の可能性が指摘されています。

イレッサの治療成績

実際に患者にイレッサを投与した場合、どのくらいに効果が見られるかについては、非小細胞肺がん患者に投与した場合、約10 %から20 %の患者に腫瘍縮小効果が見られるという報告があります。

さらに、非小細胞肺がんの患者が、女性、東洋人、非喫煙者、肺がんが腺がんである、という条件が揃うと、さらに腫瘍の縮小効果は高くなり、約70 %から80 %の患者で腫瘍縮小効果が見られます。

これは、女性、東洋人、非喫煙者、腺がんという条件を持つ患者のがん細胞では、EGFRが変異によって特殊な型になっていることが多いために効果が高くなると考えられています。

現時点ではEGFRの変異が治療効果を規定する因子とされていますが、最近の研究ではEGFRの変異がない患者の場合でも腫瘍の縮小効果が見られることから、EGFRの変異以外の因子がイレッサの効果に関与している可能性も指摘されています。

非小細胞肺がん以外のがんに対しての効果は、イレッサの有効成分であるゲフィチニブを使っていくつかのがんに対して試験が行われ、効果が見られるがん種がわかっています。

グリオブラストーマと呼ばれる悪性再発脳神経膠芽腫では、ゲフィチニブの腫瘍縮小効果が見られていますが、非小細胞肺がんのようなEGFR変異でなくとも縮小効果が確認されており、EGFRの変異以外にも何らかの効果誘導のための因子、要素が存在する可能性を示唆する結果になっています。

頭頸部扁平上皮がんに対しては、第II相試験では効果は見られましたが、臨床試験で効果が見られるケースが少なくなっており、腎がんにおいても第II相試験で「腫瘍を増大させない」という効果が見られたのみになっています。

イレッサを使った場合の治療効果ですが、現在は抗がん剤をいくつか併用する併用療法が使われる事があります。

まだ治療していない非小細胞肺がんに対し、他の抗がん剤、ゲムシタビン、シスプラチン、パクリタキセル、カルボプラチンとイレッサを併用して治療したところ、統計学的な併用効果があるという結果を得ることはできていません。

しかし、イレッサの効果が期待できると予想される患者を選別して臨床試験を行うと、従来の抗がん剤を使った化学療法と比べて高い効果を示しています。

イレッサの薬価と注意点

イレッサの有効成分はゲフィチニブであり、この成分を含んだ後発品は日医工、日本ジェネリック、沢井製薬などから出ています。

イレッサの場合は有効成分ゲフィチニブを250mg含んだ「イレッサ錠250」が治療に使われます。

薬価は1錠あたり4982.1円(KEGG MEDICUSに掲載の薬価)で、1日1錠、経口投与されます。

投与期間は明確には決まっておらず、副作用に耐えられるのであれば、また副作用が大きな問題となるレベルでないのであれば、継続して服用することが望ましいとされています。

これは、服用を中断した途端に腫瘍のサイズが増加する傾向が見られるためです。

さらにイレッサは、CYP3A4という薬物代謝酵素によって主に肝臓で代謝、分解されますので、CYP3A4が増えてしまう薬(フェニトイン、リファンピシンなど)と併用はできず、CYP3A4の効果を阻害する薬(イトラコナゾール、エリスロマイシンなど)と併用すると、イレッサが代謝・分解されないために、副作用が出やすくなったり重症化するおそれがあります。

ライター名(ランサーズ名):
Monty_Galahad

<経 歴>

学位取得後、海外の研究機関に4年間不妊に関する研究プロジェクトの研究員として勤務。

帰国後、免疫関連プロジェクトの研究員として4年間国内の大学に勤務後現職。

現在はがん細胞の抗がん剤耐性獲得について研究をしている。



カテゴリー:くすり, 抗がん剤【イレッサ】

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木村彰男
木村彰男
6 months ago

イレッサは合成化合物として、分子標的薬として夢の薬と紹介されました。しかし、間質性肺炎に夜死亡例が頻発したことからマスコミにまるで薬害を起こしたかのように攻められました。

間質性肺炎による死亡例は非小細胞肺癌では比較的少なく、適応外使用の子宮頸がんや消化器癌などの間質性肺がんの検査が行われにくいもので頻発しました。

薬害かどうかに関しては裁判所で薬害ではないとの判例が確定しています。

じゃあ、間質性肺炎を起こした患者が不幸だったのでしょうか。

私は、適応外使用をした医者に賠償責任が生じるのでは無いかと思いますが、作者の方は基礎の研究者ですが、どう思われます?

また、イレッサの後継医薬品は発売されています。しかし、分子標的薬はイレッサとグリベック以外は抗体医薬品になっています。抗体医薬品は高価なので合成化合物がいいと思うのですが、その辺りもご意見いただけると幸いです。

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