【製薬会社開発部の独り言】自殺企図の発現でうつの効能が削除になった薬に今の抗うつ剤にない「即効性」があった

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現在の抗うつ剤は効果発現までに4週間ぐらいかかります。自殺企図などがある患者に対応する薬剤はありません。医師、家族、社会福祉士、カウンセラーなどの連携による自殺を実行に移さないように観察するしかありません。

うつ病の場合には自傷行為などの前駆症状が見られないことから抑うつ状態がどの程度かを観察することが大事になります。

抑うつ状症状が強い場合には自殺を企図しても実行に移すだけの実行力がありません。抑うつ症状が回復傾向にある時期が最も危険な時であることを家族は知っておく必要があります。

もくじ

うつ病の治療方法

うつ病(薬の適応疾患名では「大うつ病」、精神神経科学会の用語としては「うつ病/大うつ病性障害」が正式ですが、本文では「うつ病」を用います。)は自然治癒が認められる場合もありますが、一般的には薬物療法と認知行動療法が行われます。

認知行動療法は時間がかかり、実際に認知行動療法できる専門医や専門カウンセラーの数が少ないことから、一般的には薬物治療が行われます。

うつ病の薬物治療

うつ病は神経伝達物質の不足を補うことで症状の改善が見られることから、以下の作用機序をもつ薬剤が市販されています。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

三環系抗うつ薬

四環系抗うつ薬

セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬

ドパミンD2受容体パーシャルアゴニスト

うつ病治療の目標

うつ病の主症状である抑うつ症状を改善することです。抑うつ症状が強いとなにもする気も起こらず、実際に動けなくなってしまいます。

動けない場合には入院して介護が必要になります。ここまで症状が進むのは珍しいことです。

最低限の生きていくための行動は行えますが、

なにもやる気が起きない

とか、

膜を通して周りを見ているような気持ちが続く」

という症状が続きます。

このような症状を改善して、社会生活に復帰するためには3ヶ月ぐらいの薬物投与が必要になり、再発を防ぐために最低限の抗うつ剤は飲み続けることになります。

抗うつ薬を飲んでいる間に薄皮を剥がすような感じで外界とのつながりを持とうと思う気持ちが湧いてきます。

抑うつ状態にある場合には、収入がなくなるので、社会的な保護が必要になります。

製薬会社は長期に飲んでもらえると売上が安定するのでそちらを選択したいという気持ちがないではありません。

しかし、患者さんにとっては生活の質が下がっていることから、抑うつ状態を飲めば治る薬が望まれます。

しかし、それは神経を直接刺激することによって可能です。薬の効果がなくなると元に戻ってしまうので、精神的依存が発生する可能性があります。

即効性の効果があるリタリンがなぜうつ病の適応が消えたのか

リタリンは現在ナルコレプシーの治療薬として用いられています。

ナルコレプシーとは作家の故色川武大(阿佐田哲也の別名で麻雀小説の分野を切り開いた人)の持病でその名が世間に広まりました。睡眠を長時間取れず、突然眠ってしまうことを主症状とする病気です。長時間の睡眠がとれないので、疲労感がとれません。

リタリンは神経を刺激することによって、日中に突然眠ってしまうことを防止して夜間の睡眠を長くします。

この薬剤はナルコレプシーが病気として確立するまではうつ病の抑うつ症状を改善する特効薬として用いられていました。(欧米では重度なうつ病患者に使用する場合があります。)即効性があることから、便利に使われていました。

しかし、2007年8月5日に日本テレビが「ドキュメント オーバードーズ」でリタリンを取り上げ、同年9月18日に毎日新聞がリタリン服用者が自殺したことを報じました。

さらに、一部医療機関がリタリンを処方箋なしで処方していたことが摘発されました。

世間の批判に対して10月17日に行われた薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会ではリタリンのうつ病の効能除外と、ナルコレプシーに関しては治療薬がリタリンしかなかったことから、適正使用が可能な医師・医療機関・薬局に販売を限定する厳格な流通管理の義務づけを了承しました。

2007年10月26日に厚生労働省は塩酸メチルフェニデート製剤の使用にあたっての留意事項等について通知し、ノルバティクスファーマ社は2008年1月からのリタリン流通について登録医等の決定医師約3600名、調剤薬局・医療機関約7,000軒を決定しました。

2007年にはリタリン以外の抗うつ薬も販売されていたため、うつ病の効能除外に対してノルバティクスファーマも抵抗しませんでした。会社としては新しい抗うつ剤の方が長期処方されることから利益は大きいと判断したのかもしれません。邪推かもしれませんが。

このような流れでリタリンのうつ病に対する効能は消えてしまいました。うつ病は周期的な病気ですで、抗うつ状態が重いときにリタリンを服用し、そうでなければ服用しないという病態にあった治療法の一つが消えたことになります。

病気と乱用は別問題であり、乱用故に効能削除になるのは、患者よりもお金を大事にする一部の医者健常人であるにもかかわらず、気分亢進のためにリタリンを服用した一般人のせいです。

流通組織をきちんとして、患者教育をきちんと行えば、今のうつ病で休業している人のうち、早期に社会復帰できる人は少なくないと思っています。これは個人の感想であり、このブログや精神神経科学会の主流意見ではありません。

リタリンに関しては、ナルコレプシーの薬としてだけ残っているわけではありません。

うつ病の効能を持っていたときに使用頻度は高かったのは癌末期の抑うつ症状です。その後注目されたのが認知症に伴う抑うつ症状です。

癌末期の抑うつ症状を対症療法的に治療することは、END NOTEを自分の意志で書くためには必要な薬ではないでしょうか。

認知症に関しては認知機能に関して見た文献もありますが、その後の研究は進んでいません。

リタリンとよく似た効果を持つ療法

断眠療法というものがあります。

健常人でも徹夜明けには妙に気分が上がることをうつ病に応用した治療法です。実際に一時的には抑うつ症状が改善することが認められています。

しかし、その効果は1〜2日程度といいます。週に1回から2回に断眠療法することによって、効果が継続するという報告もありますが、

「医療従事者に負担がかかること」

と、

「保険収載も行われていない」

ため、この療法はほとんど行われていません。

家族でお医者さんと相談の上、試してみる価値はあるかもしれません。

最後に

リタリンを持続化したものが、ADHDに使われるコンサータです。

リタリンが、

「一部の医者が横流しをしたこと」

「今の脱法ドラッグのように用いられたこと」

上記のことからコンサータの使用をためらう人がいると聞いています。

持続化することによって、抑うつ症状に対する効果は減少しているともいわれ、アメリカではコンサータを使用していても将来薬物常用者になる可能性を高めることはないことがデータによって示されています。

しかし、子どもでコンサータの利用が許可されても、大人のコンサータの治療はすぐには許可されませんでした。リタリンとは異なるということを証明する必要があったからです。

現在の抗うつ剤の開発では即効性が再び脚光を浴びています。基本化合物は麻酔剤として用いられているケタミンです。ケタミンの麻酔作用と抗うつ作用を分離するために研究が行われています。

参考資料



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