この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。
人は食事によって三大栄養素(糖質・タンパク質・脂肪)を摂取することで、体を動かすためのエネルギー源としています。
その中でもタンパク質は、筋肉・臓器・髪・爪など以外にも酵素や免疫物質なども作り、人体の15~20%を構成しています。

消化されたタンパク質は、体内に吸収されるとアミノ酸となり、体を構成する質にタンパク質に合成されます。
そして古くなったタンパク質は、老廃物の尿素窒素となって尿として排泄されます。
今回は、タンパク質と関わりが深く、腎機能と肝機能の異常がわかる尿素窒素(BUN)についてお伝えします。
もくじ
尿素窒素とは
尿素窒素とは、食物から摂取したり体を構成するタンパク質が、その役割を終えた老廃物となったものです。
体内のタンパク質は、分解されるとアンモニアが作られます。
このアンモニアは、そのままだと神経などに害を及ぼすため、肝臓で人体に無害な尿素に変えられます。
全ての尿素は、腎臓を通過して尿として排出されます。
この尿素には窒素が含まれているため、検査項目は一般的に尿素窒素(BUN)と呼ばれています。
何らかの原因で腎層の働きが低下すると、尿素は腎臓でろ過しきれずに血液中に残ってしまいます。
そのため、血液中の尿素を測定することで、腎機能を調べることができます。
また、肝臓の働きが低下すると、肝臓で作られる尿素が減ってしまうので、肝機能も調べることもできます。
測定方法
BUN(尿素窒素)は、生化学自動分析装置を用いてウレアーゼUV法(アンモニア消去法)という方法で測定されます。

また、採血から結果報告までは、約1時間を要します。
◆ウレアーゼUV法(アンモニア消去法)
①尿素 + H2O -ウレアーゼ→ 2NH3 + CO2
検体中(血清)の尿素が、ウレアーゼによってアンモニアと二酸化炭素に分解されます。
⓶NH3 + α-ケトグルタル酸 + NADPH + H+ -GLDH→ グルタミン酸 + NADP+ + H2O
アンモニアのα-ケトグルタル酸は、GLDHの作用によってグルタミン酸とNADP+となります。
NADPH(340㎚)の吸光度の減少速度を測定して、尿素窒素(BUN)を求めます。
基準値と異常値
◆基準値:8~21mg/dl
この範囲内に測定結果が入っていれば問題ありません。
尿素窒素(BUN)は、偏った食生活や無理なダイエットなどで高値を示すことがあり、これを偽陽性と呼んでいます。
◆偽陽性
偽陽性は、腎機能が正常にもかかわらず軽度の高値を呈することです。
数値は、基準値より少し高い21~40mg/dlを示します。
・肉類を大量に摂取する → 余分なアミノ酸が大量となるため。
*多数のアミノ酸が結合したものがタンパク質です
・極度の飢餓(無理なダイエット) → 自分の筋肉などのタンパク質を分解してエネルギーを得るため。
・胃潰瘍、十二指腸潰瘍での消化管出血 → 血液が腸内で分解され、増えたアンモニアが吸収されるため。
偏った食事や無理なダイエットは、生活習慣を改めてから再検査をすることが望まれます。
また、潰瘍による消化管出血は、完治後に尿素窒素を含めた精密検査をすることが望まれます。
◆異常値
・低値:7mg/dl以下
食物から摂取したタンパク質は腸内細菌によって分解されアンモニアが生成されます。
そのアンモニアは、肝臓で分解されて尿素となりますが、肝機能が低下すると肝臓内の尿素を生成する力も低下してしまいます。
そのため、尿素窒素の基準値より低値を示すときは、肝機能低下の病気を疑います。

また、タンパク質が分解されることで生成された有害なアンモニアは、尿素に変化することで無害化されますが、肝機能が低下すると血液中のアンモニアが上昇して脳症の原因となることがあります。
肝硬変・肝機能不全・中毒性肝炎(薬剤性)・劇症肝炎など
・高値:22mg/dl以上
腎機能が低下すると、尿素窒素(BUN)が尿中に排泄されなくなってしまうため、血液中の尿素窒素の値が上昇します。
また、腎機能が低下することで尿素窒素(BUN)だけでなくクレアチニン(CRE)の値も上昇します。
このことから、腎機能を測定するときは尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)を一緒に調べるのが一般的です。
尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)を調べることで、腎前性、腎性、腎後性の高尿素窒素血症を鑑別することができます。
・腎前性:腎臓でろ過される前に原因
→肉の大量摂取、脱水、心不全など
・腎性:腎臓の働きそのものが悪くなったのが原因
→急性・慢性腎炎、腎不全、腎盂腎炎
・腎後性:腎臓ではなく尿路や膀胱に原因
→尿管結石、膀胱がんなど
尿素窒素(BUN)のみ上昇している時は、腎前性、腎後性の高尿素窒素血症が疑われます。
また、尿素窒素(BUN)、クレアチニン(CRE)の両方が上昇している時は、腎性の高尿素窒素血症が疑われます。

尿素窒素(BUN)が80mg/dl以上を呈したときは、パニック値と呼ばれます。
パニック値は、命にかかわる危険な状態にあるため、医師に至急報告して直ちに治療する必要があります。
[高値で疑われる病気]
腎不全、急性・慢性腎炎、腎盂腎炎、腎がんなど
まとめ
尿素窒素(BUN)を測定することで腎機能や肝機能を知ることができますが、他の項目も含めて総合的に判断する必要があります。
腎機能の検査では、尿素窒素(BUN)とクレアチニン(CRE)を一緒に測定することが一般的で、高尿素窒素血症の鑑別に用いられます。
尿素窒素(BUN)が低値の場合は肝機能低下が疑われるので、他の肝機能の項目と照らし合わせて異常の有無を確認する必要があります。
軽度の高値(21~40mg/dl)で偽陽性が考えられる場合は、他の腎機能検査と照らし合わせて鑑別します。
中等度の高値(41mg/dl以上)の時は、腎障害を疑うので早めに医療機関に受診することをお勧めします。
高度の上昇(パニック値)は、健康診断などでは見られない数値です。
検査結果に異常が認められたときは、放置して重症化する前に医療機関へ受診することをお勧めします。
ライター名(ランサーズ名):まさざね君
<経 歴>
臨床検査技師の国家資格を2000年に取得。
臨床経験は、総合病院で15年、癌・肺疾患専門病院で5年目になります。
臨床現場では、健診から救急患者まで生理検査を中心に従事しています。
臨床検査技師は、血液などの検査値だけでなく、細菌培養、画像診断、細胞や組織などについても検査して報告しています。
これらの検査を通して、病気の原因、検査、治療、予防など分かり易くお伝えしていきます。
気になるは病気について、少しでもお役に立てれば幸いです。
カテゴリー:”薬”立つ情報, 臨床検査技師【検査】, 臨床検査技師【検査値】, 検査値