けいれんとその対処法

読み始める前に】

もしあなたの目の前で、突然、人が倒れてけいれんを起こしたら…

驚くどころか恐怖さえ感じて、どうしていいのかわからずに慌てふためいてしまいますよね。

全身のけいれんと同時に、意識がなくなったり白目をむいて泡をふくこともあります。

けいれんとは、突然、本人の意思とは関係なく体が勝手に引き起こす、筋肉の収縮をいいます。

一体どのようなメカニズムでけいれんが起こるのか、そしてこのような状況に遭遇した時に一体どのような対応をすればよいのか、理解を深めていきましょう。

けいれんとは

意識を失ってけいれんを起こしている人を実際に見たことがあるという人はそう多くはないと思いますが、けいれんとはどのような様子をさすのか何となくイメージはつきますよね。

その場に倒れて全身をガクガク震わせ、目の焦点が合わず、会話もままならないといった普段とは全く違った様子に、周りにいる人のほうが驚いてパニックになってしまうほどです。

一方で、軽い筋けいれんは私たちも日常的によく経験します。

例えば、激しい運動中や寝ている間におこる「足のつり」「こむら返り」であったり、疲れ目やストレスで起こりやすい「まぶたのピクつき」もけいれんの一種です。

さて、けいれん(痙攣)とよく似た言葉にてんかん(癲癇)というものがあります。

意味合いがよく似ている上に字づらまでもがそっくりなため、この2つの言葉が混同されていることがよくあります。

けいれん(痙攣)てんかん(癲癇)には深い関連があることは確かなのですが、言葉の意味としてはイコールではありません

けいれん(痙攣)は、筋肉の収縮、ガクガクと震えるような動き(症状)を表す言葉であり、てんかん(癲癇)は、脳の神経細胞の異常興奮が原因でけいれん発作を起こす疾患(病名)にあたります。

例えるならば「発熱」「風邪」の違いとよく似ています。

ここでは、症状をあらわす「けいれん」についてお話ししていきたいと思います。

けいれんのメカニズム

けいれんは、自分の意思に関係なく、筋肉が収縮を繰り返す様子を表します。

私たちの体が自分の思い通りにスムーズに動くのは、

  • 体を動かしたい、動かそうという意思があり
  • 脳がその意思を受け取り、体を動かすための指令を送り出す
  • 脳からの指令が正しく神経に伝わる
  • 神経から骨格筋(体を動かす筋肉)に指令が伝えられる
  • 骨格筋が受け取った指令どおりの動きをする

といった条件がすべて正確にクリアできているためです。

しかし、これらの指令が伝わる経路に一つでもトラブルや障害があると、骨格筋が思うように動かせなかったり、意思とは関係のない動きをするようになります。

けいれんは、体を動かそうという意思がないにも関わらず、神経細胞が突然興奮して骨格筋(体を動かすための筋肉)に伝わってしまうために起こります。

ですので、本人にとっても「意思はないのに」「体が勝手に」「突然」の出来事なのです。

また、けいれんは全身性のものもあれば体の一部分だけに起こるものもあり、通常は長くても2~3分のうちに自然におさまります

けいれんには、「間代性(かんたいせい)けいれん」「強直性(きょうちょくせい)けいれん」の2種類あります。

間代性

筋肉がつっぱったりだらんとしたりを規則的に交互に繰り返す
手足の屈伸を交互に細かく繰り返す
全身に現れた時は、全身をガクガク揺らす

強直性

こわばりつっぱったまま強く硬直する
手足を強く曲げたまま、または伸ばしたまま動かない
全身に現れた時は、眼球が上を向いたまま腕を曲げて足を突っ張り、首や背中を反らせた姿勢でこわばる

強直間代性

強直性がおさまったあと、引き続き間代性が起こる

けいれんの原因と対処法

けいれんを起こす原因は、「てんかんによるもの」「てんかん以外によるもの」と大きく2つに分けられます。

「てんかん以外によるもの」には次のようなものがあります。

心臓などの原因

脳に必要な量の血液が送られず、けいれんや意識障害を起こすことがあります。
脳への血流が正常に戻れば、多くの場合けいれんはおさまります。
原因となる疾患の治療やコントロールが必要です。

脳の障害

脳卒中、脳の外傷や炎症、脳腫瘍、脳変性、肝性脳症などによって、脳の神経細胞が異常興奮を起こしてしまうことがあります。
原因となる疾患の治療やコントロールが必要です。

低血糖

糖尿病などで低血糖の状態がひどくなると、脳や神経の活動が低下してけいれんを起こすことがあります。
血糖値が20~30mg/dL以下までに下がるとけいれんを起こしやすいようです。
初期の低血糖であれば飴をなめたりブドウ糖を内服すれば回復しますが、けいれんを起こすほどの重度の低血糖の場合は、たいていは意識がない状態ですので内服は不可能です。
ただちに注射によりブドウ糖を補給する必要がありますので、救急車を要請しましょう。

電解質バランスの異常

脱水症や熱中症、腎障害などで電解質のバランスが崩れると神経や筋肉の働きに異常をきたし、けいれんを起こしやすくなります。
また、激しい運動、就寝中、妊娠中などによくおこるこむら返り(足のつり、ふくらはぎのけいれん)も同様です。
こむら返りが起こったら、足の指をすねに近づけるイメージで足首を反らし、ゆっくりとふくらはぎをのばしましょう
大量に汗をかく時はスポーツドリンクをこまめに飲んだり、日頃からミネラルを意識した食事を摂ることも予防になります。

過換気症候群(過呼吸)

呼吸が激しく速くなり酸素の取り込みすぎとなることで、血液中の酸素と二酸化炭素のバランスが崩れ、しびれやけいれんを起こすことがあります。
極度の緊張や不安、ストレス、パニック発作などが引き金となって起こることが多く、呼吸困難やめまい、動悸などのつらい症状も伴います。
呼吸が落ち着くとしだいに症状も改善します。
過去には、口に紙袋を当てて吐いた息を吸い込む方法が取られていましたが、吸い込む酸素と二酸化炭素の調節が難しいため、現在ではあまり行われなくなりました。
口をすぼめて細くゆっくりと息を吐きだす呼吸が効果的です。
呼吸が落ち着くまで楽な姿勢で過ごしましょう

目の前で人が倒れてけいれんを起こしたら

生涯のうちで、このような状況に出くわすことはないかも知れませんが、絶対に起こらないとも限りません。

万が一のために、目の前で人がけいれんを起こして倒れた場合を想定して対処法を学んでいきましょう。

まず、人が意識を失って倒れた場合、けいれんしているかどうかにかかわらず、呼びかけへの反応・呼吸・脈拍を確認します。

もし、呼吸が弱く脈も触れにくいようであれば、けいれんの有無にかかわらず心肺蘇生の必要があります。

もし、呼吸をしていて脈も触れていれば、安全を確保しつつけいれん発作がおさまるのを待ちます

けいれんは、人の力で鎮めたりおさえたりすることはできませんので、自然におさまるのを待つほかありません。

近くにいる人ができることは、発作中に危険から守ってあげることです。

けいれん発作中は、自分自身で身の安全を守ることができません

安全な場所に移動する、体をぶつけてケガをしないようにまわりのものを体から遠ざけるなど、その場の状況に応じて危険なものから守ってあげましょう。

それから、次のようなことにも注意が必要です。

体を押さえない

激しくけいれんしている様子を目の当たりにすると、どうにかして押さえて止めてあげたいという気持ちが起こるかもしれません。
しかし、残念ながらけいれんは体を押さえても止めることはできません
けいれんの力は想像以上に強い場合があり、無理に止めようとするとお互いが怪我をしてしまう危険性もあります。

口の中に物を入れない

過去には、舌を噛んでしまわないようにタオルや割り箸を口の中に入れることが推奨されていた時代もありましたが、それによってかえって口の中を傷つけてしまうばかりか、嘔吐を誘発して誤嚥や窒息を起こす危険性があります。
そのような理由から、現在は発作が起こっても口の中には何も入れないことが正しい対処とされています。

もしてんかん発作によるけいれんであれば、全身の大きなけいれんであっても呼吸や心拍が停止することはなく、長くても2~3分以内には自然におさまります
しかし、中には、けいれん重積といって、けいれんが30分以上続いたり、短い発作を何度も繰り返し、意識がなかなか戻らない場合もあります。

けいれんの原因がてんかんによるものかどうかなど、初めて会った人がその場で判断することはできません

救急車を要請するかどうかの判断は「けいれんが5分以上続く場合」「けいれんはおさまったが意識がもうろうとしたままはっきり戻らない場合」が一つのポイントとなります。

熱性けいれん

生後6か月頃~2歳頃の乳幼児が38~39度以上の高熱を出した時に起こすけいれん(ひきつけ)熱性けいれんといい、15人に1人のお子さんが経験するといわれています。

これは、脳の神経細胞の発達がまだ未熟なために、高熱という刺激に対して興奮してしまうことが原因で起こるものです。

発熱した時に、突然けいれんが起こり、目は上を向いて顔色も急激に悪くなります。

呼びかけに対する反応もなくなりますが、このような一連の発作は2~3分で自然におさまります。

てんかんと違って、熱性けいれんは成長とともに起こらなくなり、小学校にあがる頃には自然におさまっていることがほとんどです。

おわりに

けいれん発作が実際に目の前で突然起こると、非常事態だということは想像がついても一体何が起きているのかすぐには理解できないと思います。

近づくこともためらわれたり、その場から動けなくなってしまうことだってあるかも知れません。

けいれん発作は、医療従事者であっても判断に迷うケースが多々あるのです。

ですので、専門的な知識がなくても、何をしていいのかわからなくても、勇気さえあれば大丈夫です。

対応に困ったら、119番に電話をかけて「意識を失ってけいれんしている」という状況を伝え、対処方法を教えてもらいましょう

最後までお読みくださりありがとうございました。


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