【読み始める前に】
人間には、外からの刺激を感じ取るさまざまな感覚が備わっていますが、そのうち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚をまとめて「五感」と言います。
この五感のうち、においに関係する感覚は「嗅覚(きゅうかく)」であり、自分自身の周辺のにおいを感じ、嗅ぎ分け、判断するのに役立ちます。
においで食べ物の腐敗に気が付いたり、煙や有毒ガスなどの異臭を感じ取ったりと、危険を察知して自分の身を守るために欠かせない重要な感覚のひとつでもあります。
もくじ
においを感じるメカニズム
身体の中でにおいを感じ取る部分が鼻であることは皆さんもご存じのとおりですが、それではこの鼻の中で一体どのようにしてにおいを感じているのか、少し詳しくみていきましょう。
においは肉眼では見えませんが、実際には非常に小さな分子が空中に漂っています。
鼻から吸い込まれたにおい分子は、鼻の奥の天井部分にある粘膜(嗅上皮)に到達します。
嗅上皮は手の親指の指先ほどの面積で、約500万個ほどの嗅細胞が密集しています。
そしてその嗅細胞の先は毛のように細長く、鼻の奥の天井(嗅上皮)からぶら下がるように広がっており、におい分子をキャッチしやすい形状になっています。
におい分子が嗅上皮に到達すると、においの情報は嗅細胞から嗅神経に伝わり、嗅球を通って脳へ伝えられ、そこで初めてにおいが識別されています。
このように、鼻はにおいの情報を脳に伝える役割を担い、実際ににおいを感じ取り嗅ぎ分けているのは脳なのです。
なお、人間の嗅覚受容体(においを感じるセンサー)は約400種類あり、その組み合わせによって1兆種類ものにおいの種類を識別できることが近年の研究によって明らかとなっています。
嗅覚の順応~鼻が慣れる~
同じにおいを長時間嗅ぎ続けているうちにだんだんと鼻が慣れてきて、においの感じ方が鈍くなったという経験はありませんか?
例えば、他人の家のにおいはわかるけれど自分の家のにおいはわからないといったことです。
もしかすると、自分の家は無臭だと思っている人も多いのではないでしょうか。
これは、嗅覚の順応といって、同じにおいを長時間嗅ぎ続けているとそのにおいに慣れて、最終的には感じなくなるという特徴的な現象のせいなのです。
嗅覚の異常
嗅覚の異常(嗅覚障害)には、次のような種類があります。
呼吸性嗅覚障害
鼻づまりなどで空気の通り道が塞がれることで鼻の奥までにおい分子が届かず、においが分からなくなるものをいいます。
原因: 鼻炎、副鼻腔炎(蓄膿症)、ポリープ(鼻茸はなたけ)、アレルギー性鼻炎、鼻中隔彎曲症など
神経性嗅覚障害
風邪などのウイルス感染や炎症により、におい分子をキャッチする嗅細胞がダメージを受けてにおいの情報が正しく伝えられなくなるものです。
ダメージを受けた嗅細胞が新しい細胞に生まれ変わるまでの期間、においの感覚が戻りにくい場合もあります。
原因: ウイルス感染、炎症、外傷、有毒ガスの吸引、加齢など
加齢が原因の嗅覚の低下は平均的に男性は60代頃、女性は70代頃からみられますが、自分では気が付かないケースも多いようです。
中枢性嗅覚障害
においを感じる脳や脳神経の異常により、においの判断ができなくなるものをいいます。
原因: 脳挫傷、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、認知症など
鼻がにおう
なんだか鼻がにおう…どの場所に行っても同じようなにおいが続く…といった場合は、においの元が自分の鼻の中にある可能性もあります。
副鼻腔炎(蓄膿症)、萎縮性鼻炎(臭鼻症)などによって鼻の中や副鼻腔で炎症をおこしたり膿(うみ)がたまる病気にかかると、においの元とセンサーが近いので、たまった膿のにおいをより強くにおいを感じることがあります。
また、自己臭症といって、実際にはにおわないにも関わらず、「自分自身がいやな臭いを発しているのではないか」、「体臭や口臭が強いのではないか」と思い込み心配になる精神的な疾患をいい、自臭症や自己臭恐怖症とも呼ばれます。
中には、幻臭(げんしゅう)といって存在しないにおいを感じるケースもあります。
においの異常と対処法
においがわかりにくい、まったくわからない、味がわからない、などの場合、嗅覚障害を起こしている可能性があります。
鼻風邪やアレルギーなどでにおいがわかりにくくなることは日常的によくあることですので、一時的なものであればそれほど心配はいりません。
しかし、嗅覚の異常に気が付いたら、まずは原因となっている疾患の治療を行う必要があります。
嗅覚異常の原因を突き止めるためには、その人自身からの情報が大きなカギとなります。
医師からは次のような内容の質問をされることがありますので、受診の前にはあらかじめ整理しておきましょう。
- においの異常に気が付いたのはいつ頃か
- 風邪や事故などのきっかけがあったかどうか
- においが分かりにくいのか、それともまったく分からないのか
- 急にわからなくなったのか、それとも徐々にわからなくなったのか
- その他に何か症状はあるか
- 治療中の病気や飲んでいる薬について
また、鼻に異常があるかどうか確認するため、内視鏡で鼻の中を調べたり、CTやMRIなどの画像検査を行うこともあります。
原因となっている疾患の治療として、点鼻薬や内視鏡手術などが行われる場合もあります。
嗅覚の回復については病状によりさまざまで、治療後すぐに戻ることもあれば、長期間かかる場合もあります。
回復した後も、日頃からにおいを意識して生活する、禁煙するなどの方法は嗅覚低下の予防や改善に効果的ですので、ぜひ習慣にしてみてくださいね。
嗅覚検査
医学的に嗅覚の異常を判定するために、次のような検査が行われる場合があります。
① 基準嗅覚検査(T&Tオルファクトメーター)
5種類のにおい紙(花のにおい、焦げたにおい、腐敗臭、甘いにおい、糞便のにおい)を嗅ぐテストです。
どの強さでにおいを感知できるか、においの種類を正しく嗅ぎ分けられるかを調べるものです。
② 静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)
アリナミンというビタミンB1の注射液を静脈注射すると、通常は7~8秒ほどでニンニクや玉ねぎに似たにおいが肺から吐き出され、その呼気に混じったにおい成分が鼻の奥に到達するとにおいとして感じ取ることができます。
注射してからにおいを感じるまでの時間と、においが持続する時間を測定し、嗅覚が正常どうかの判定をします。
おわりに
嗅覚は、私たちの身に及ぶ危険を察知するためだけではなく、さまざまな香りを感じられることで生活をより豊かにしてくれるものでもあります。
中には、においを感じることは職業上必要不可欠だという人も多いのではないでしょうか。
嗅覚が正常に働かない状態では、味覚も分かりづらくなります。
そうなると、食欲が低下したり味付けが濃くなってしまうなど、新たな問題につながる可能性もあります。
一方で、視覚や聴覚など他の感覚異常に比べると、嗅覚の変化や異常は気が付きにくいという特徴があります。
また、異常に気が付いたとしても直接命にかかわるものではないため軽視されがちです。
嗅覚は、私たちの生活に密接に関わっている感覚です。
安全で健康的な日常生活を送るためにも、嗅覚異常を感じたら、早めに改善できるように対処しましょう。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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